本論文は、固体電解質型燃料電池システムの課題である作動温度の低温化を目的とし、低温作動化の鍵となる固体電解質について、新しいバリウムセリウムガドリニウム系酸化物材料を検討したものである。日本文223ページからなる本論文は、「燃料電池用固体電解質バリウムセリウムガドリニウム系酸化物に関する研究」と題し、全9章から構成されている。 第1章は、イントロダクションであり、省エネルギー、地球環境問題などの社会的背景とエネルギー変換システムの現状と課題を述べている。将来期待されるべき技術として高効率でクリーンな燃料電池システムを取り上げ、分散発電や家庭用、自動車用など民生用に最適な燃料電池システムの開発を目指すという本論文の研究意図および目標を示している。 第2章は、固体電解質型燃料電池の特徴と課題について解説している。燃料電池の中でも最もエネルギー変換効率が高いなど優れた特長をもつ固体電解質型燃料電池であるが、1000℃もの高温作動であることから性能、信頼性、経済性の点で問題であることを述べている。この解決策として800℃以下で作動する燃料電池システムが有効であり、その手段として高性能な固体電解質の開発が鍵になることを示している。 第3章では、高性能な固体電解質の開発において、現状の燃料電池に使用されているジルコニア系酸化物に較べ800℃で約3倍高いイオン導電率を示すバリウムセリウム系酸化物を見いだしたことを示している。この酸化物は、プロトンと酸化物イオンの混合イオン伝導性を示し、セリウムの20%をガドリニウムで置換した(以後BCGと呼ぶ)の組成で、低温まで最も高いイオン導電性を保持することを述べている。また、プロトンと酸化物イオンの混合イオン伝導体を燃料電池の電解質に用いることにより、アノード、カソード両極での熱歪みが低減できることを推算し、考察している。 第4章では、新しい固体電解質であるBCGの物性とその安定性について調べた結果を示している。BCGの結晶型は低温では斜方晶であり、高温になるに従って正方晶、立方晶と変化することを確認している。また、酸化・還元雰囲気で安定であり、酸性溶液に溶解、アルカリ溶液には不溶であることを示している。さらに、バリウム系酸化物の二酸化炭素による影響を調べ、二酸化炭素濃度20%以下ではBCGは安定であることを確認している。 第5章では、BCGのイオン伝導性について報告している。300℃から1000℃にいたるまで、プロトン源のある雰囲気中でプロトン伝導性を示し、電子伝導性はほとんどないこと、一方、空気中など、酸素が存在するときほとんど酸化物イオン伝導体になることを実験により明らかにしている。また、酸素と水素源とが存在する(燃料電池)状態では、酸化物イオンとプロトンが同時に伝導し、温度、雰囲気によりイオン輸率が変化することを解明している。さらに、伝導機構について考察を加えている。 第6章では、このBCGを固体電解質に用いて実験室レベルの燃料電池を組立て、各種温度や模擬燃料ガスを用いての放電試験および連続放電試験を行った結果を示している。BCGを用いた燃料電池は、水素のみならずメタン模擬燃料ガスを用いた場合でも800℃で安定に放電でき、2500時間に渡って連続放電可能であることを実証し、また、作動温度を500℃に低温化した場合でも、良好に作動することを確認している。 第7章では、酸化物イオン伝導だけでないプロトン伝導体のBCG固体電解質を用いた燃料電池の電極(アノード)について検討している。本研究で検討したFe,Co,Ni材料の中では、出力特性および連続放電安定性からNi材料が最も良好であることを示唆している。 また、第8章では、このBCG固体電解質の応用例として、限界電流式酸素センサに適用検討した結果について報告している。BCG固体電解質を用いた限界電流式酸素センサは、ジルコニア固体電解質を用いたものより、200℃低い300℃で良好に作動することを確認し、実用化が可能であることを示している。 最後の第9章では本研究成果をまとめており、本研究で得られたBCG固体電解質が従来の固体電解質型燃料電池システムの課題を解決する一手段として期待できることを論じている。 以上、本論文は新しい固体電解質の発明と、800℃以下で作動する新しい固体電解質型燃料電池システムの構築、開発の重要な指針をまとめたものであり、化学システム工学の発展に大いに寄与するものである。よって、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |