学位論文要旨



No 214268
著者(漢字) 堤,香津雄
著者(英字)
著者(カナ) ツツミ,カヅオ
標題(和) 流動層を使用した石灰石焼成における焼成およびプロセスの特性
標題(洋)
報告番号 214268
報告番号 乙14268
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14268号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 山田,興一
 東京大学 教授 定方,正毅
 東京大学 助教授 平尾,雅彦
 東京大学 助教授 宮山,勝
内容要旨

 石灰石は、素材としての用途が拡大すると共に、流動層ボイラの脱硫剤、廃棄物焼却における塩化水素、ダイオキシンの低減、石炭ガス化や製鉄のスラグ処理にも使用されている。さらに将来、二酸化炭素の固定化用媒体や新素材としてますます用途および使用量が拡大、増加することが期待されている。これら石灰石の利用における基本的な操作が石灰石の焼成であり、中核技術が焼成温度を制御して、高い焼成率を得る技術と生石灰の活性度を管理する技術である。焼成温度の管理に適した装置が流動層であり、その性能は早くから知られていたが、反応器や集塵機内へのコーティングが存在するため、流動層石灰焼成炉の普及は遅れている。また流動層を用いた焼成システムも確立されていない。本研究では、流動層による石灰石焼成の特性を調べ、次にコーティングの機構を解明し、コーティングが発生しない方法を確立して、熱的にも最適化したシステムを考案した。

 流動層を使用して石灰石を焼成する場合の反応特性は焼成率と活性度に代表される。流動層内の焼成反応は速いので、高温下では流動媒体が完全混合の場合でも、粒子の平均滞留時間が2時間程度あれば、焼成率は100%近くに達する。また、流動層内は伝熱速度が速く、温度が均一であるため、流動層の温度を制御することによって生石灰の活性度を管理することができることがわかった。一方、流動層から飛び出した石灰石はフリーボードで焼成されるが、伝熱速度が低くても温度を高く設定すれば97%の焼成率が得られることを確認した。

 活性度に関しては、石灰石を流動層内で焼成すると流動層温度が高いほど活性度は低くなり、フリーボードでは温度に影響されず生石灰の活性度は高いという特性を得ることができた。以上の結果より、焼成率と活性度が高い生石灰を生成するには、流動層温度を焼成における平衡温度より少し高い温度に設定して、フリーボード温度は流動層温度より高く設定すればよいことを確認した。

 流動層を使用して石灰石を焼成する場合の、流動層とフリーボードにおける焼成反応機構をモデルによるシミュレーションで明らかにした。流動層に於ける石灰石の焼成速度は焼成によって発生した二酸化炭素が結晶粒子内を移動して結晶外へ排出される過程が律速となることがわかった。結晶粒子径が異なる数種類の石灰石を焼成した結果、二酸化炭素は拡散によって結晶内を移動するため、結晶粒子径が大きな石灰石は焼成速度が遅いことを確認した。また、石灰石の粒子径によって二酸化炭素の石灰石粒子内有効拡散係数を整理することができた。この石灰石粒子内有効拡散係数を用いてシミュレーションによって求めた流動層温度と焼成率の関係は、実験値と良く合っている結果となり、結晶粒子径から反応率を予測することが可能になったと考える。次に石灰石結晶粒子内の二酸化炭素有効拡散係数を求めたところ、石灰石の種類による影響が少なく、温度が高くなると減少する関係を得ることができた。フリーボード内における石灰石の焼成は、燃焼ガスから石灰石への伝熱過程が焼成反応の律速過程であることがわかった。未反応核モデルを使ってシミュレーションを行った結果、焼成率は実験結果と同じ温度依存性であったが、実験値より高い値となった。フリーボードは温度分布が広く、焼成反応を代表する温度に問題があり、また、流動層からフリーボードに飛散する石灰石の粒度分布、焼成率を仮定していることが誤差の原因と考える。

 石灰石の流動化特性の課題は、石灰石の付着凝集性が流動化に及ぼす影響と、粉化による流動層からの飛散現象である。流動化条件である流動用ガスの空塔速度は、燃料消費率と石灰石滞留時間、流動層高で決定される。この空塔速度に対して流動化に適した粒子径の石灰石を流動化して焼成したところ、付着力の影響は少なく、部分流動化やセグリゲーション、スラッギングといった流動化不良は起こらないことを確認した。粉化の主原因は焼成反応によるもので、熱応力による粉化は認められなかった。焼成反応による石灰石の粉化は、石灰石の結晶粒子径が大きいほど粉化が多く、粉化割合を結晶粒子径で整理することができた。結晶粒子径が大きくなると粉化量が多くなって流動層高を維持できなくなるが、限界の結晶粒子径は50m程度であった。以上の研究から、石灰石の流動層焼成に適した粒子径、結晶粒子径を提案することができた。

 石灰石の焼成時に発生するコーティングに対して、雰囲気ガスの流速、温度、粒度、粉体濃度、材質の影響を基礎試験で調べた結果、それぞれの特性を得ることができた。特に温度による影響は大きく、粉体の温度が700〜800℃で最大になることを見いだした。また、コーティング物を分析した結果、生灰石の割合は少なく石灰石が主成分で、また炭素の含有率が少ないことから、石灰石が一度焼成され、これが再び二酸化炭素と反応して石灰石になる現象を伴ってコーティングが発生していることを突き止めた。炭酸化とコーティングの関係として、炭酸化速度が速い温度域では石灰石の付着性が強いこと、および、炭酸化によって生石灰粒子どうしが結合する現象を確認した。一方、実機試験においてはガス温度が575℃以下または875℃以上でコーティングは発生せず、625℃から800℃の間では必ずコーティングトラブルを起こした。以上の結果より、石灰石のコーティングは、生石灰が炭酸化されるとき、付着力が増加して粉体が凝集し、粒子どうしの結合によって固い付着物になる現象であるという結論を得た。このコーティング発生機構を基にして、炭酸化反応が起こる温度域が存在しないシステムを考案し、実験を行った結果、コーティングは発生せず、生石灰の炭酸化がコーティングの原因であることを確認した。

 以上の研究成果である、焼成特性、流動化特性、コーティング機構を考慮して流動層を使用した石灰石焼成システムの熱的な最適化を、部分最適化により検討した。その結果、以下の各論的な流動層による石灰石焼成システムの特性を把握することができた。

 ・石灰石の焼成、仮焼は定温で反応が進むので、熱を与える方式は完全混合式で十分であり、向流式にする必要はない。また滞留時間が必要なので流動層が適している。

 ・流動層仮焼炉は燃焼ガス中の焼成温度以上の熱エネルギーを焼成に使用するため、およびコーティングをなくすために必要である。また、滞留時間が必要なので流動層にする必要がある。

 ・流動層仮焼炉出口の燃焼ガスと石灰石の熱交換は、コーティングをなくすために燃焼ガスの温度を625℃以下に抑えることが必要である。このため、冷却を行い、熱交換方式は完全混合にしなければならない。伝熱速度が速いので流動層にする必要はなく、サイクロンで十分である。

 ・流動層仮焼炉から排出された燃焼ガスと石灰石の熱交換は、燃焼ガスの熱量の方が多いので、多段の完全混合式と向流式熱交換器で総括熱効率の優劣は少ない。従って、圧力損失が低く、低コストのサスペンションプレヒータを使用することによって最高の熱交換量を得ることができる。

 ・流動層仮焼炉から排出された燃焼ガスと石灰石の熱交換は、3段サスペンションプレヒータによって最高の熱効率になる。

 ・生石灰による空気予熱を向流式にすると総括熱効率が上がる。熱効率を最大にするためには空気予熱器中段で空気を抽気し、流動層仮焼炉出口燃焼ガスと石灰石の熱交換部の冷却用に使用して、空気を予熱することが必要である。

 以上の流動層による石灰石焼成システムの特性を考慮して、熱効率が高く、コーティングがない最適システムを提案することができた。このシステムは、流動層を使用した石灰焼成炉システムの中で最適化されており、70%の総括熱効率が可能となる。

 コーティングを抑えると共に、高い総括熱効率を得られることを確認するために実証試験を行った。実証試験は、生石灰の顕熱を多室型の流動層空気予熱器を使って、燃焼用空気で回収し、流動層仮焼炉で石灰石を仮焼し、3段サスペンションプレヒータを使って、原料石灰石により燃焼ガスの熱を回収するシステムにした。その結果、仮焼炉において燃焼ガス中の熱交換が可能な熱量をすべて石灰石に与えることができることを確認した。またサスペンションプレヒータは、滞留時間が短かくても効率よく熱交換ができることがわかった。仮焼炉の流動層温度は時間的に安定し、コーティングが発生する温度域には入らず、コーティングが発生する温度域の上限温度を維持することができた。仮焼炉から排出された燃焼ガスは、サスペンションプレヒータに入り、石灰石と混合されることによって一挙にコーティングが発生する温度域の下限温度にまで冷却されて、コーティングの発生を防ぐことができた。

 本研究によって焼成特性、流動化特性、コーティング機構が明らかになり、良好な流動層を形成させて、焼成率、活性度を制御しながら、コーティングが発生せず、総括熱効率が高いシステムを実証し、提案することができた。

審査要旨

 本論文は、「流動層を使用した石灰石焼成における焼成およびプロセスの特性」と題し、流動層を使用した石灰石焼成プロセスにおける種々の問題点を解決して実用化し、かつ最適化するために必要な、石灰石焼成機構の解明、流動層の流動化特性、コーティング機構の解明をはかり、その上でシステムの設計と最適化を検討したものであり、序章、第1-4章と終章からなっている。

 序章においては、石灰石の焼成に要請される条件を、製品の品質とプロセスの連続運転可能性の面から述べ、本論文の位置づけを示している。

 第1章においては、石灰石焼成機構の検討結果を述べている。流動層およびフリーボードにおける、焼成速度、焼成率、活性度に関する検討を行っている。流動層を使用して石灰石を焼成する場合の特性は、焼成率と活性度に代表される。活性度は焼成された生石灰の反応性を示す工業的な指標である。焼成反応は数秒で進行し、流動媒体が完全混合の場合でも、焼成率は100%近くに達する。また、流動層内は伝熱速度が速く、温度が均一であるため、流動層の温度制御によって生石灰の活性度を管理できることを明らかにしている。一方、フリーボードにおける焼成では、温度を高く設定することにより高い焼成率が得られることを確認している。活性度に関しては、流動層内焼成では流動層温度が高いほど活性度は低くなるが、フリーボードでは温度に影響されず生石灰の活性度は高いという特性が得られたと述べている。以上の結果より、焼成率と活性度の高い生石灰を焼成するには、流動層温度を焼成平衡温度より少し高い温度に、フリーボード温度は十分高く設定すればよいことを確認している。

 さらに流動層とフリーボードにおける焼成反応機構を、モデルによるシミュレーションを用いて検討した結果を述べている。流動層における焼成では、焼成によって発生した二酸化炭素が結晶粒子内を移動して結晶外へ排出される過程が律速となり、これに対応して、結晶粒子径が大きな石灰石は焼成速度が遅いことを確認している。算定した二酸化炭素の石灰石粒子内有効拡散係数を用いて解析することにより、結晶粒子径から焼成率を予測することが可能であることを示している。一方、フリーボードにおける焼成では、燃焼ガスから石灰石への伝熱過程が律速過程であると述べている。

 第2章においては焼成流動層の流動化特性の課題である、石灰石の付着凝集性が流動化に及ぼす影響と、粉化による流動層からの飛散現象を検討している。粉化の主原因は焼成反応によるものであり、石灰石の結晶粒子径が大きいほど粉化が多く、粉化割合を結晶粒子径で整理できることを示している。これらの結果に基づき、流動層焼成に適した石灰石の粒子径と結晶粒子径を提案している。

 第3章においては、石灰石焼成時に発生するコーティングに対して、気体流速、温度、石灰石の粒度や粉体濃度、器壁材質の及ぼす影響を基礎試験で検討している。特に温度の影響は大きく、粉体温度が700-800℃でコーティングが最も起こりやすくなることを見いだしている。石灰石が一度焼成され、生じた生石灰が再び二酸化炭素と反応して石灰石になる時にコーティングが発生しやすいという機構を提案している。実機試験において、気体温度が575℃以下または875℃以上でコーティングは発生せず、625℃から800℃の間では必ずコーティングトラブルを起こす理由は、上述の機構で説明できると述べている。このコーティング発生機構を基にして、炭酸化反応が起こる温度域が存在しないシステムを考案し、実験においてコーティングが発生しないことを実証している。

 第4章においては、流動層を使用した石灰石焼成のシステムの熱交換方法を検討して、コーティングの発生しない、かつハンドリングの可能な、最適の熱効率のシステムを設計している。このシステムは、流動層を使用した石灰石焼成炉システムの中で最適化されており、70%の総括熱効率が可能であると述べている。この高い熱効率は、実証試験によって確認されている。

 終章において、本研究を総括し今後の展望を述べている。以上要するに、本論文は、石灰石焼成流動層における焼成特性、流動化特性、コーティング機構を検討し、良好な流動層を形成させて、焼成率、活性度を制御しながら、コーティングが発生せず、総括熱効率が高いシステムを提案し、実証したことを述べたものであり、化学システム工学の進展に寄与するところ大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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