審査要旨 | | 工学士西尾兼光提出の論文は,「スパークプラグの性能向上に関する研究」と題し,8章から成っている. スパークプラグは,自動車用エンジンをはじめとする火花点火機関に数多く用いられており,従来よりその性能向上を目的とした研究が行われている.しかしながら,スパークプラグの高性能化を図る上で,依然として以下のような問題点が残されている.第一に過早点火であるが,これは火花放電による点火以前に燃焼が開始する現象であり,エンジンそのものにも重大な損傷を与える.第二に,スパークプラグの発火部にカーボンを主体としたデポジットが付着する,いわゆるくすぶり汚損の発生である.くすぶり汚損は絶縁抵抗を低下させることにより火花放電の発生を困難にする第三は,スパークプラグの要求電圧の低減化である.火花放電に必要な高電圧を漏洩させず密閉された燃焼室内に導入することが求められている.第四は,点火性の向上である.混合気を確実に点火させることが,機関出力の向上、燃料消費率の改善,排気エミッションの低減等の観点から重要課題となっている.第五は,スパークプラグの火花放電による電波雑音の発生である.これにより,自動車に搭載された電子装置の誤作動,放送受信の障害等の問題が発生している.第六は,耐久性の向上である.近年,エンジンの整備性の悪化および整備コスト低減のため,スパークプラグの長寿命化が求められている. 以上のような観点から,本論文ではスパークプラグにおいて重要な上記6項目の性能向上を探求することにより,高性能スパークプラグの実用化に資する指針を得ることを目的としている. 第1章は序論であり,本研究の背景を述べ,関連する研究の成果とその問題点を検討し,本論文全体を概観することで研究の目的と意義を明確にしている. 第2章では,過早点火特性を詳細に調べるとともに,それに影響を及ぼす因子を明らかにした上で,過早点火を抑制する手法について検討を行っている.まず,イオン電流測定を適用した実用的な過早点火検出手法を確立させ,発火部先端温度が上昇すると過早点火が発生することを明らかにしている.また,スパークプラグ各部の温度測定および電気抵抗回路網による温度の推定から,絶縁体およびメタルシェルの熱伝導率を低くすること,発火部絶縁体を細くすることが発火部の温度低減に有効であることを示している. 第3章では,くすぶり汚損の発生挙動を実験的に把握し,くすぶり汚損発生を抑制する手法について検討している.まず,シリコンオイルを絶縁体発火部に塗布することにより,付着したカーボン粒子の移動による電極間での電路の形成を抑制することを示している.また,火花放電により付着したカーボン粒子を焼失,または飛敗させる手法が耐くすぶり汚損性の向上に有効であることを明らかにしている. 第4章では,スパークプラグの要求電圧に影響を及ぼす因子を明らかにするとともに,要求電圧の低減化について検討している.その結果,中心電極を細くすること,および第3電極を配置することにより要求電圧を低減させることができることを明らかにしている. 第5章では,スパークプラグの点火特性に及ぼす電極形状の影響を調べるとともに,点火性を向上させるための電極形状について検討している.その結果,電極を細くすること,火花間隙を広くすること,および発火部を燃焼室中央部へ突き出すことにより点火性が向上することを明らかにしている. 第6章では,電波雑音の発生源が容量放電電流であることを示すとともに,分布定数回路を用いた解析により容量放電電流の特性を明らかにしている.また,容量放電電流を抑制するため火花間隙と直列に抵抗を挿入した抵抗入りプラグは、電波雑音低減に有効であること,挿入する抵抗体を長くするとその低減効果が大きいことを示している. 第7章では,電極消耗の機構を調べるとともに,電極消耗に影響を及ぼす要因を明らかにした上で,スパークプラグの耐久性を向上させるため電極材質の検討を行っている.その結果,ニッケル電極では,シリコンの添加量を多くし,アルミニウムを少量添加すると,耐久性が向上することを明らかにしている.また,希土類酸化物を添加したイリジウム電極は耐久性向上に有効であることを見出している. 第8章は結論であり,本研究において得られた結果を要約している. 以上要するに,本論文はスパークプラグの高性能化を図る上での問題点を明らかにするための実験および解析を行い,それらの結果に基づいて種々の問題点を解決するための手法を提案し,高性能スパークプラグの実用化に資する指針を示したものであり,内燃機関工学および燃焼学上貢献するところが大きい. よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |