本論文は、「Efficient Operation Planning of Multibeam Communication Satellites Based on Combinatorial Optimization Methods(組み合わせ最適化手法を用いたマルチビーム通信衛星の効率的運用の研究)」と題し、通信衛星の主流となっているマルチビーム衛星の運用計画を系統的に扱う技術を確立することを目的として、運用プランを作成するための主要な課題をシステム最適化の観点から解析することに重点をおいて、組み合わせ最適化問題に基づいたモデル化と定式化および大規模な問題を効率的に解くためのアルゴリズムについて論じている。全体で7章からなり、英文で書かれている。 第1章は「Introduction(序論)」であり、構成が複雑なマルチビーム衛星の性能を最大限に発揮させるために必要とされる効率的な運用プランの要求条件と従来手掛けられていない課題を指摘し、組み合わせ最適化手法を用いた解析法の有効性を論じることにより、本論文の背景と目的を明らかにしている。 第2章は「Multibeam Satellites and Operation Planning(マルチビーム衛星の運用計画)」と題し、周波数チャネル毎のビーム接続および中継器への回線割当を最適決定するための混合整数計画モデルを述べ、割当問題を利用した新しい解法を提案している。アルゴリズムの性能をシミュレーションで評価し、従来の分枝限定法と比較して計算量が大幅に削減され、厳密な最適解からの劣化がわずかであることを検証している。これにより、大規模な問題の取り扱いが初めて可能となった。 第3章は「Minimization of Cochannel Interference(同一チャネル干渉の軽減手法)」と題し、同一周波数帯で運用される隣接衛星間で生じる同一チャネル干渉を軽減するために、キャリア周波数を最適調整する手法を論じている。1対の中継器の周波数帯域を微小セグメントに分割し、離散的に周波数を割り当てる新しいモデルを提案し、このモデルに対して、ボトルネック型割当問題による定式化と辞書式最小化問題を多項式オーダーで解くアルゴリズムを開発している。種々の帯域幅のキャリアが混在する問題はNP完全であることを証明し、深さ優先探索の分枝限定法による解法を示している。開発したアルゴリズムの性能をシミュレーションにより検証するとともに、実際的な応用手法を詳説して、周波数帯の効率的利用と静止衛星軌道の有効利用を達成するための具体的な指針を示している。 第4章は「Operation Planning of FDMA Transponders(周波数分割多元接続方式の運用計画)」と題し、熱雑音の他にFDMAキャリアの共通増幅に伴う混変調雑音や同じ周波数を共用する中継器間で生ずる同一チャネル干渉を全て考慮して、所望の搬送波対雑音電力比(C/N)が得られるようキャリア周波数を設定する手法を提案している。第3章で述べた基本モデルを拡張してキャリア周波数を割り当てる手法を述べ、解法として分枝限定法の適用方法を示している。また、処理の高速化を狙った分枝限定法の並列化と実装方法を述べ、実測により並列化による計算加速効果を確認している。その結果、周波数割当の最適化の後にキャリア電力を調整することにより、C/Nが充分に改善され、地球局のキャリア送信電力も低減されることをシミュレーションに基づいて明らかにしている。 第5章は「Operation Planning of SS/TDMA Systems(SS/TDMA方式の運用計画)」と題し、TDMAフレーム内でビーム接続の切替を伴うSS/TDMAの運用プランを作成するための全体手順を論じている。線形計画法を用いた回線需要のビーム接続への割当モデルおよび巡回セールスマン問題を利用してスイッチ切替回数を削減した最短スイッチ切替シーケンスの作成手法などを開発し、効率的な運用プランを作成する方法を詳説している。実用規模の例題によるシミュレーションで、これらの性能を確認している。また、衛星間リンクを伴うSS/TDMAのスイッチ切替シーケンスを作成するための新しいアルゴリズムを提案し、計算量を削減しつつ従来手法に勝る性能を達成できることをシミュレーションで確認している。 第6章は「Burst Scheduling Algorithms(バーストタイムプランの作成手法)」と題し、TDMA運用のバースト信号の伝送時間帯や回線割当の構成を規定したバーストタイムプラン(BTP)を作成するために、複数の中継器とバーストを送受信するトランスポンダホッピングおよび多対地宛てバーストなど実際的な運用条件を考慮したBTP作成アルゴリズムを初めて提案している。ビンパッキング問題を利用した多対地バーストの作成およびスケジューリングモデルを適用したバースト伝送時間帯の割当を基本とし、割り当て済みのバーストを再割り当てしつつ新しいバースト信号を順次スケジュールする手順を新たに考案している。開始・完了時刻の制約付きスケジューリング問題に基づいてこの問題がNP完全であることを証明し、分枝限定法と動的計画法を組み合わせたアルゴリズムを開発している。シミュレーションと応用例により実用的な大規模問題を扱える性能を確認し、有効性を明らかにしている。 第7章は「Conclusion(結論)」であり、本研究で得られた成果をまとめるとともに、開発した手法の応用を衛星通信以外の分野も含めて紹介し、衛星通信の新技術と運用手法を中心に将来の展望についても述べている。 以上を要するに、本論文は、組み合わせ最適化手法に基づいてマルチビーム衛星の運用計画問題を解析する方針に従って、主要な課題の新しいモデル化と定式化を新たに提唱し、計算量の削減に配慮したアルゴリズムと性能評価を論じたものである。その結果、これまで経験的な手法に頼ることの多かった大規模衛星システムの運用計画を系統的に扱うことが可能となり、今後の衛星通信技術ならびに電子情報通信工学の進展に寄与するところが少なくない。 よって、著者は博士(工学)の学位論文審査に合格したものと認める。 |