本研究は、乳房温存療法の術式及び切除域決定に重要となる乳癌の乳房内局所進展(乳管内進展巣及び多発病巣)を術前に検出するため、造影helical CTを130例の乳癌症例に施行し、病理組織像と対比のもと、臨床応用を検討したものである。また次に、腋窩リンパ節腫脹を主訴とする潜在性乳癌や、異常乳頭分泌を主訴とする非触知乳癌に造影helical CTを施行し、その検出能の検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1。造影helical CTと病理組織像との詳細な対比によりスライス毎に局所進展を含めて両者がよく対応していることが示された。他の画像診断との局所進展の有無に対する感度の比較では、マンモグラフィー(MMG)・乳房超音波(US)・造影helical CTでそれぞれ33%、53%、86%とCTが有意に優れていた。特異度はそれぞれ87%、89%、92%であった。 2。造影helical CT上局所進展に対する偽陽性症例の病理像は異型乳管過形成、乳管内乳頭腫、小葉間線維化等であった。造影helical CT上偽陰性となった症例はnon-comedo type、組織学的異型度が低いものが多いといった特徴が認められた。comedo type、微小浸潤巣といった遺残時局所再発率が高いといわれている亜型の局所進展は全例造影helical CTで描出可能であった。 3。造影されなかった非浸潤性小葉癌との対比により、造影された非浸潤癌の周囲での新生血管誘導、幼弱な間質誘導に差があることが示された。これにより造影CTで検出されるものは癌化に伴う新生血管と間質を見ている可能性が示唆された。 4。局所進展巣の進展範囲を含めた腫瘤径の検討では、MMGと病理標本との差が2cm以内に留まるものが83%(49/59)であるのに対し、CTでは差異は90%(53/59)で、2cmの安全域をもって切除するwide excisionの切除域決定に有用な診断手段と考えられた。実際に乳房温存療法を施行した24例中断端陽性となったのは1例で、造影helical CTを併用することで、より適切な切除域が決定できる可能性が高い事が判明した。 5。非触知乳癌8例に造影helical CTを施行し、広範なlow papillary typeの非浸潤癌1例を除き局在診が可能であった。MMG,USを用いても局在が不明だった6例中5例は造影CTによってのみ局在診が可能であった。 以上、本論文は造影helical CTの乳癌の局所進展の診断における有用性、及び他の画像診断では描出されない非触知乳癌の局在診における有用性が示された。局所進展描出への試みはMRIを用いた報告が近年出されているが、helical CTを用いた場合、MRIと比べ検査時間の短縮、検査費用の抑制、一呼吸で撮影可能なため呼吸運動を考慮せずに手術時と同じ背臥位で撮影できるといった有利な点が多々ある。本研究は造影helical CTを用いた局所進展描出の先駆的研究の一つであり、乳房温存療法の切除域決定に重要な役割を果たす研究と考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |