本研究はこれまで予測困難であった腹部大動脈瘤(AAA)の拡張や破裂に関与する因子を明らかにすることを主な目的としており、まずコンピューターを用いた3次元再構築法により瘤の3次元形態の検討を行い、得られた3次元のデータを含めた臨床データの解析から以下のような結果を得ている。 1.コンピューターを用いた3次元再構築法により実際のAAAの形態を忠実に描出できることが明らかになった。現在臨床的に利用可能な3次元画像診断法で得られるのは瘤の血液腔の3次元像であるため、80%に壁在血栓を伴うAAAでは瘤の全体像(瘤壁)の描出は難しい。3次元再構築法は現時点でAAAの全体像(瘤壁)の3次元形態を評価できる唯一の方法といえる。 2.AAAの3次元形態を検討した結果、きわめて多様であることがわかった。さらにこの多様性も、蛇行と拡張の2要素と限局性の突出の有無にわけることにより比較的簡潔な分類が可能であることも明らかになった。 3.蛇行は左弯曲型と右弯曲型の2種類に分類され、拡張様式は球型、紡錘型、双球型、分岐部型の4種類に分類された。実際のAAAは基本的にこれらの蛇行と拡張様式の組み合わせに、瘤壁の限局性の突出が加わり多様な形態を示していると考えられた。 4.瘤壁の限局性突出は破裂例に有意に多く認められた。大動脈の弯曲が少ない例では、AAAの3次元再構築像によりこの瘤壁の限局性突出が容易に認識できた。 5.AAAの拡張は従来、横径の拡張として評価されてきたが、このほかに3次元の瘤全体の定量的評価として妥当と考えられた瘤の体積の拡張についても検討を行った。その結果、最大瘤横径拡張速度(EX-D cm/ycar)の予測式として、瘤断面積(X cm2)、喫煙の有無(Y=1:喫煙、Y=0:非喫煙)、蛇行様式(Z=1:右弯曲型、Z=0:左弯曲型)の組み合わせによる重回帰式 の決定係数、重相関係数が最も高値を示し、P値からみてもっとも信頼度が高いことがわかった。また瘤体積拡張速度の予測式としては、瘤体積(X cm3)、BUN(Y mg/dl)を用いた重回帰式 の決定係数、重相関係数が最も高値を示し、P値からみてもっとも信頼度が高いことがわかった。 6.AAAの破裂については、拡張期血圧(X mmHg)、最大瘤横径拡張速度(Y cm/ycar)、最大瘤横径と瘤縦経の比(Z)の組み合わせによる判別式 の判別的中率と相関比が最も高く、P値からみて最も信頼性の高い予測が可能なことが明らかになった。 以上、本論文はAAAの3次元形態の解析を初めて行い、そこで得られる計測値や形態上の特徴によりこれまで困難であったAAAの拡張や破裂の予測が高い精度で可能なことを明らかにした。以上の新しい知見はAAAの手術適応を決める際の新たな指針になりうるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |