本研究は蛋白工学的手法を用い、血中半減期が延長しその他の性状に悪影響の無い新規血栓溶解剤の候補物質を探索するため、16種類のpro-UKの変異体を作製した後、それぞれの薬物動態及び生化学的性状を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.pro-UKの上皮性成長因子(EGF)様ドメイン内に欠失を持つ変異体(2種類)の発現ベクターを作製し、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現させた。培養上清から精製したサンプルをSDS-PAGEで解析したところ、還元条件下でも、非還元条件下でも一本のバンドであり、精製品は一本鎖型であることが示された。EGF様ドメイン内の欠失が正確に起こっていることをアミノ酸シークエンスで確認した。 2.ラットにおける各欠失変異体の血中半減期を測定したところ、天然型のそれに比べて有意に延長されていた。このことからEGF様ドメインの一部欠失が、血中半減期の延長に有効であることが示された。 3.天然型及び欠失変異体をプラスミンで活性化した後、合成基質Glt-Gly-Arg MCAに対する酵素動力学定数を測定したところ、天然型と欠失変異体との間に有意な差は無く、EGF様ドメインの一部欠失が酵素活性に影響しないことが示された。次に、フィブリン親和性を調べるために、フィブリン/セライトへの吸着能を測定したところ、33-42-、及び10-42pro-UKの吸着能が著しく低下していた。このことからEGF様ドメインの第三ループが、フィブリン/セライトへの吸着に関与していることが示唆された。さらに、一本鎖型から二本鎖型への転換速度を調べたところ、EGF様ドメイン内の欠失が大きいほど、転換速度が大きく低下していた。欠失変異体において、フィブリン/セライトへの吸着能や二本鎖型への転換速度が低下していたのは、欠失によりpro-UK分子のコンホメーショシが大きく変わったためであると考えられた。 4.コンホメーションに与える影響がより少ないと考えられるアミノ酸置換型の変異体(以下、置換変異体)14種類を、CHO細胞のDHFR増幅系を用い作製した。EGF様ドメイン内に導入しアミノ酸置換変異が正確に起こっていることを各発現ベクターのDNAシークエンスで確認した。精製したサンプルをSDS-PAGEで解析したところ、精製品は一本鎖型であることが示された。 5.ラットにおける各置換変異体の血中半減期を測定したところ、S26T-、N32P-、P34A-、K35A+K36A-、及びC33A+C42A pro-UKの血中半減期が有意に延長されていた。これらの変異部位は、第3ループが破壊されたC33A+C42A pro-UKを除き、第2ループと第3ループの境界付近に集中していた。 6.天然型と置換変異体の酵素動力学定数間に有意な差は無く、EGF様ドメイン内のアミノ酸置換は酵素活性に影響しないことが示された。次に、フィブリン/セライトへの吸着能を測定したところ、電荷の無いグリシンを正電荷のリジンに置換したG16K-とG18K-及び、負電荷のアスパラギン酸を電荷の無いアスパラギンに置換したD45N pro-UKの吸着能が天然型と比較して有意に増大していた。一方、正電荷のリジンを電荷の無いアラニンに置換したK35A十K36A pro-UKはほとんど吸着能を喪失していた。第3ループを破壊したC33A+C42A pro-UKの吸着能も有意に低下していた。さらに、一本鎖型から二本鎖型への転換速度を測定したところ、Y24A-とG38A+G39A pro-UKの転換速度が有意に増大していた他は、天然型のそれとほぼ同等であった。 以上、本論文は蛋白工学的手法を用いて作製した16種類のpro-UK変異体の血中半減期及び生化学的性状を解析することにより、新規血栓溶解剤の候補物質を8種類(S26T-、N32P-、P34A-、Y24A-、G38A+G39A-、G16K-、G38K-、D45N pro-UK)見いだすと供に、pro-UK分子内の変異と血中動態及び生化学的性状との関係を明らかにした。本研究は理想的血栓線溶剤の創出、並びにpro-UK分子の構造活性相関の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |