審査要旨 | | 板鰓類(サメ・エイ類)は近年世界各地で生息数の減少や絶滅の危機が指摘されている。有効利用するにせよ保護を行うにせよ,まず必要なことは資源評価の基礎となる繁殖生態の解明である。しかし,野外での観察や研究が困難なため,板鰓類の繁殖に関する知見はきわめて乏しいのが視状である。そこで,本研究では沖縄水族館における飼育観察と野外における標本採集から,沖縄周辺海域に分布する板鰓類の繁殖生態を明らかにし,板鰓類の資源管理の基礎を築いた。本論文の概要は以下の通りである。 第1章の緒論では,板鰓類の繁殖生態に関する過去の報告を概括し,また沖縄周辺海域に分布する板鰓類の種類を整理して,沖縄水族館が現在までに世界にぬきんでた板鰓類の繁殖を行った実績を総括した。 第2章では本研究が水族館で飼育した18種と周辺海域から採集した13種に基づいて行われたこと,また繁殖様式をまず卵生と胎生に2分し,胎生を偶発胎生と真正胎生に分け,真正胎生を卵黄依存型と母体依存型,さらに母体依存型を卵食・共食い型,胎盤類似物型,卵黄嚢胎盤型に大別した。繁殖行動は,交尾前行動,交尾行動,分娩に分け,卵生種については産卵行動も観察したことを記述した。 第3章では沖縄周辺海域に分布する種類が現在まで119種知られていること,また上述の区分に従って繁殖様式を分類すると,もっとも多い様式は卵黄依存型胎生で40種,次いで卵生が26種,胎盤類似物型胎生が21種,卵黄嚢胎盤型胎生が19種,卵食・共食い型胎生が9種,偶発胎生が2種であることを明らかにした。また,沖縄水族館の飼育種の繁殖様式では,卵生4種,胎生は12種であった。 第4章では沖縄水族館における飼育記録を包括し,現在まで71種の飼育に成功し,最長はサメ類ではオオメジロザメの20年5ヶ月,エイ類ではウシバナトビエイの23年4ヶ月で共に世界最長記録となったことを記述した。この他,日本最長の飼育記録は4種を数えた。新生児から1年以上生存したものがサメ類で7種,エイ類で3種であり,ネムリブカでは同腹の番から3世代飼育に成功したことを記載した。 第5章ではまず飼育下での繁殖記録を世界と日本に分けて総述した。また,沖縄水族館での飼育観察から,交尾行動,産卵・分娩記録,孵化・妊娠日数,性成熟年齢と繁殖開始の大きさ,第3世代の繁殖,産仔数又は産卵数,飼育板鰓類の繁殖期,さらに野外から採集した種類の繁殖生態を解明した。合計23種の交尾行動を観察した結果,交尾パターンは,巻きつき型,並行型,交叉型,腹腹型,腹背型A(雄が上位),腹背型B(雌が上位)の6型に分類できた。メジロザメ類では分娩時の胎仔は腹面上向きの尾位が正常であることも初めて明らかにした。また,ホオジロザメの繁殖様式が共食い・卵食型で,1腹当たりの胎行数は3-10尾であることも本研究で初めて解明した。さらに,ジンベエザメの繁殖様式が卵黄依存型胎生であることも世界に先駆けて報告した。 第6章は考察で,飼育下の繁殖成功度を新生仔の生存率を指標として概観すると,卵黄嚢型胎生と胎盤類似物型胎生がもっとも高く,これらの型において新しい環境への適応力が高いことを推測した。また,飼育下で得られた繁殖に関する様々な情報を改良して野生の板鰓類に応用すれば,板鰓類全体の繁殖生態の解明が可能であり,ひいては板鰓類の資源推定も可能になることを論じた。 以上要するに,本論文は沖縄周辺海域における板鰓類の繁殖生態を明らかにすることにより,板鰓類の適正利用や保護を行う際の重要な基礎的知見を提供したもので,学術上,応用上寄与するところが少なくない。よって,審査委員一同は,本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |