子宮内膜癌の進行症例、再発症例において現行の治療薬では奏功率に限界があり、新たな抗腫瘍薬の開発は重要な課題である。本研究では、ヒト子宮内膜癌HEC-1細胞株に対するソマトスタチンアナログの抗腫瘍効果を初めて明らかにしたものでそのメカニズム等で下記の結果を得ている。 1.ヌードマウスに継代移植したHEC-1腫瘍を用いたin vivo実験においてRC-160投与群は、対照群に比較して腫瘍の増大は、明らかに抑制された。2群間の統計学的有意差がみられたのは、投与開始15日目以降であった。腫瘍体積倍加時間もRC-160投与群では、有意に延長していた。腫瘍重量と腫瘍体積/マウス体重比も、投与群において有意に抑制されていた。マウス体重は2群間に有意差を認めたが、腫瘍体積/マウス体重比の減少によりRC-160の腫瘍増殖抑制効果は明らかであると考えられた。また、マウス血清IGF1レベルは、投与群で有意に減少した。 2.In vitroの実験系においてHEC-1細胞は10-3ng/mlから100ng/mlのEGFの添加によりすべての濃度で有意に増殖促進された。また、10-11から10-5MのRC-160の添加によりHEC-1細胞は濃度依存性に増殖は抑制された。 さらにEGF1ng/mlにより刺激された増殖効果はRC-160の添加により抑制された。 3.ヒト子宮内膜癌HEC-1細胞株におけるソマトスタチンレセプターの存在をbinding assayを用い、検討したところ、Kd5.43nM、Bmaxl400binding sites/cellの高親和性のソマトスタチンレセプターの存在が明らかになった。また、RT-PCR法を用い、HEC-1細胞より抽出したmRNAよりレセプターサブタイプを検討した結果、サブタイプ2、3が存在することが判明した。ソマトスタチンアナログRC-160はサブタイプ2、及び5に高親和性を持つことよりレセプターを介するHEC1細胞への抗腫瘍効果はサブタイプ2を介している可能性が考えられた。 4.HEC-1細胞株において、EGFにより惹起されるEGFレセプターのタイロシンリン酸化へのソマトスタチンアナログRC-160の影響を抗フォスフォタイロシン抗体を用いたWestern blottingにて検討した。その結果、RC-160の添加によりタイロシンリン酸化は著明に抑制することから、RC-160のこの経路への干渉作用を示した。 以上、本論文は子宮内膜癌細胞株HEC-1においてソマトスタチンアナログRC-160の抗腫瘍効果を明らかにし、そのメカニズムの一つとしてEGFレセプターのタイロシンリン酸化の抑制を示し、また間接的な効果として血清IGF-I値の減少を示した。In vivoの実験系においてRC-160投与群のマウス体重減少を認めているため、臨床応用には、さらなる検討が必要であるが、このような子宮内膜癌に対する新たな抗腫瘍薬の開発は、臨床的にも予後不良な再発、及び進行子宮内膜癌の治療に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |