本研究は認知機能の生理学的指標として重要な事象関連電位P300のオドボール課題に焦点を当て、P300単一波形の特性を明らかにするため、適応型相関フィルタを原法とする相関フィルタによる解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.P300単一波形の特徴は下降脚が急峻な陽性の非対称波形で持続時間約200ms、ピーク潜時変動〔ジッター〕絶対値平均は27ms、S.D.14msであった。波除去のために用いた10Hz共振フィルタは聴性長潜時成分も減衰させ、P300との成分間相関解析は困難であった。また共振フィルタのP300への影響については振幅及び波形の非対称性の減少、単一反応潜時ジッターの短縮、相関値の上昇という点が示された。また従来から行われてきた単純加算波形の振幅では有意差の認められない被検者群においても、相関フィルタを用いた単一反応ごとの解析により有意な相関値の低下を示す例が示された。 2.記録部位によるP300の特性について、潜時で有意差を認めず、振幅ではPzが他の3部位より有意に大きかった。相関フィルタ法による頭皮上部位間相関の解析結果では、FzとCzがPzとOzよりも有意に相関が高かった。青年群と中高年群の比較では、潜時、振幅、部位間相関とも有意差は見られなかったが、総単純加算波形上ではN2,NSWに、Fz,Ozでは、P300の潜時と振幅に異なった傾向が示された。 3.非標的P300波形の特徴は、Fzで上昇脚が、Pz,Ozで下降脚が急峻な陽性の非対称波形で、持続時間200ms、ジッター絶対値平均は30ms、S.D.35ms、で標的P300ジッターと有意差は認められなかった。優位部位は標的P300と異なりPz,Cz,Ozでほぼ同振幅であることが示された。相関フィルタによる高い相関値を示す単一反応を選択加算した非標的P300は単純加算の標的P300よりその振幅が大きく、潜時は短縮していた。同一データでも加算法により潜時と振幅で有意差が認められ、SN比では総単純加算法が、高振幅な波形を得るには相関フィルタによる選択加算法が優れていることが示された。高い相関を示す非標的P300単一反応の出現様態は刺激呈示確率に従い、標的刺激との関連は認められなかった。従って標的P300と非標的P300とは別々の機構により出現し、それぞれ異なる生理学的意味を持つ誘発反応と考えられた。 以上、本論文は聴覚オドボール課題におけるP300において、相関フィルタを用いた単一反応levelの解析からP300単一反応波形の特徴を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、非標的P300の特徴も明らかにし、併せて単純加算法のみによる解析の問題点も指摘した。よって今後のP300単一反応解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |