ミニサテライト(MN)は5-100ヌクレオチドを繰り返し単位とし、0.5-30kbpの長さをもつサテライト配列であるが、ヒト腫瘍におけるMN変異すなわちMNの繰り返しの個数変化及びMN座位での組み換えの役割については未だ不明であり、MN変異誘発機構とマイクロサテライト不安定性(MSI)との関連についても十分に検討されていない。本研究は(1)ヒト散発性大腸がん・胃がんにおけるMN変異の個数・頻度及び変異の個数と腫瘍のstage或いは分化度との関連について検討すること、(2)MN変異とMSIの関連を検討すること、を目的とし、下記の結果を得ている。 1.ヒト散発性大腸がん34例および散発性胃がん24例の手術サンプルにおけるMN変異頻度を3種類のMNプローブを用いたDNAフィンガープリント法にて解析した。大腸がんの19例(56%)、胃がんの6例(25%)においてMN変異が認められ、大腸がんにおいて有意に高頻度であった。 2.各腫瘍における変異の個数を決定しその分布を調べたところ、大腸がんでは0個と4個を中心とした2つのピークが見られたが、胃がんでは0個を中心とした1つのピークのみが見られた。変異の個数を1個以下と複数個に分類すると、複数個のMN変異を有する例が大腸がんでは11例(32%)、胃がんでは2例(8%)と大腸がんで有意に高頻度であった。 3.変異の個数と腫瘍のstage及び分化度との関連を解析したが、相関は見られなかった。 4.大腸がんサンプルを用いてマイクロサテライト変異の解析を行い、MN変異との関連について検討した。マイクロサテライト12lociをPCRにて増幅し9-12lociを検索したところ32例中2例においてMSIが認められたが、1例はMN変異を有さず、他の1例は4個のMN変異を有していた。またMSI(+)の大腸がん症例2例はともに右側結腸がんであったのに対しMSI(-)の大腸がん29例中右側がんは4例のみで、MSI(+)の大腸がん症例においては右側がんが有意に高頻度であった。しかし複数のMN変異を有する症例と0または1個のMN変異を有する症例との間では右側がんの頻度に差はなかった。 以上、本論文はヒト大腸がんにおいてはMNの繰り返しの個数変化及びMN座位での組み換えが高頻度かつ多重に生じているが、ヒト胃がんではこれらのMN変異が多重に見られる症例はまれであること、MNの個数は腫瘍のstage及び分化度とは関連がないことを明らかにした。これらのことから多数のMN変異を有するヒト大腸がん症例ではMN不安定性の獲得が発がんに関与している可能性が示唆された。また本論文は複数個のMN変異を誘発する機構はMSIを生じる機構とは別であると考えられることを明らかにした。 本研究の成果がヒト腫瘍におけるMN変異の意義解明に果たした役割は重要であり、学位の授与に値するものと考えられる。 |