軽水炉では、ウラン酸化物燃料(UO2燃料)の高燃焼度化、ウラン-プルトニウム混合酸化物燃科(MOX燃料)の利用が電気事業により進められている。高燃焼度化により、UO2にガドリニアGd2O3を添加した(U,Gd)O2燃料の利用割合も増加する。燃料を健全に利用するには、燃料挙動を評価する必要がある。軽水炉の燃料では、燃焼度増加により、 ・核分裂生成(FP)ガスの蓄積と照射損傷による燃料ペレットの熱伝導率低下、それによる燃料温度の上昇 ・燃料ペレットから放出されるFPガスの増加、それによる被覆管内圧の上昇 ・燃料ペレットの微細組織の変化、それによる熱および機械特性の変化 が生じると考えられている。従来の燃料挙動の解析には、燃料ペレット平均燃焼度が指標として用いられてきた。高燃焼度化、MOX燃料利用、(U,Gd)O2燃科増加により、燃料ペレット内の局所燃焼度分布は複雑になる。このため、精度よい燃料挙動の評価には、局所燃焼度をもとにした解析が必要になる。本研究では、UO2燃料ペレット外周部の局所燃焼度、MOX燃料ペレット内のPuスポットの局所燃焼度、(U,Gd)O2燃料ペレット内の非対称な局所燃焼度を明らかにし、局所燃焼度が燃料挙動へ与える影響を検討した。 UO2燃料ペレット内では、原子核238Uは共鳴エネルギー領域の中性子吸収断面積が大きく、238Uの中性子吸収がペレット外周部で中心部より大きくなる(自己遮蔽効果)。238Uの中性子吸収により生成するPu濃度はペレット外周部で増大し、Puの核分裂によりペレット外周部で出力密度および局所燃焼度は高くなる(リム効果)。リム効果は燃焼度とともに顕著になる。高燃焼時にUO2燃料ペレットの外周部では、気孔率の増加、Xeの欠損、結晶粒の微細化が観察されている。この領域、微細組織は、リム領域、リム組織と呼ばれている。本研究では、UO2燃料ペレット内のリム領域の局所燃焼度を計算した。リム効果を解析するため、原子核235U、238Uの中性子共鳴吸収断面積を超多群(17632群)核定数ライブラリで処理し、径方向1次元の中性子輸送計算および燃焼計算を行うコードANRBを用いた。高燃焼度まで照射したUO2燃料ペレット(45-85MWd/kgHM)のPu濃度の測定値と、ANRBコードによるPu濃度の計算値は、外周部の増大を含み、よく一致した。Pu核分裂によりペレット外周部の局所燃焼度は、高燃焼時にペレット平均燃焼度の2-3倍になった。この比は、初期235U濃縮度、[減速材体積]/[燃料体積]比、ペレット平均燃焼度により変化した。電子線元素分析EPMAによりペレット外周部でXeが欠損した部分が認められ、その領域をリム領域と特定し、リム領域の局所燃焼度を計算した(図1)。リム領域の内側境界では、局所燃焼度は一定(70-80MWd/kgU)となり、外周に向かって増加した。UO2燃料ペレットのリム組織は局所燃焼度が70-80MWd/kgUを超えると形成されることが明らかになった。リム組織形成しきい燃焼度は、ペレット形式PWR型-BWR型、初期235U濃縮度1.38-8.25%、平均出力密度28-70kW/kgUの範囲では変化しなかった。商用UO2燃料ペレット内で局所燃焼度が70MWd/kgU以上になる領域から、燃焼進展にともなうリム組織の生成割合が推定された。 図1 燃料ペレット内の計算した局所燃焼度と測定したXe濃度の比較(PWR通常型、初期235U濃縮度8%、ペレット平均燃焼度74MWd/kgU)。 軽水炉のMOX燃料ペレットは、高Pu濃度([Pu]/[Pu+U]=15-30%)のMOX親粉末と、天然あるいは劣化UO2の母材(U母材)との機械的混合法により製造されるため、MOX燃料ペレット内にPu濃度の高い、外径20-100mの微細領域が、U母材中に離散的に存在する。これらはPuスポットと呼ばれ、照射後のMOX燃料ペレット内のPuスポットではリム組織と類似した微細組織が観察されている。本研究では、MOX燃料ペレット内のPuスポットの局所燃焼度を計算した。アクチニド核種(U,Pu,その他TRU)および重要核種の断面積は、連続エネルギー核定数ライブラリで処理し、モンテカルロ法による2次元中性子輸送計算および燃焼計算を行うコードVIMBURNを用いた。機械式混合法で製造され、照射後試験の行われたMOX燃料(38.8MWd/kgHM)について、PuスポットおよびU母材のPu濃度の測定値、Nd濃度の測定値から推定された局所燃焼度と、VIMBURNコードの計算値はそれぞれよく一致した。商用PWR17x17型MOX燃料ペレット内のPuスポットの局所燃焼度を計算した(図2)。Puスポットの局所燃焼度とペレット平均燃焼度の比は、ペレット中心からの距離が大きくなるほど増加し、ペレット外周部では3-6倍になった。この比は、[Puスポットの初期Pu濃度]/[ペレット平均の初期Pu濃度]比により変化した。Puスポットの寸法(20-100m)による局所燃焼度の差(2%)は小さかった。商用PWRから取り出されるMOX燃料ペレット(ペレット平均燃焼度34MWd/kgHM以上)では、全領域のPuスポットの局所燃焼度は70MWd/kgHMを超えた。局所燃焼度が70MWd/kgHMを超えるとPuスポットにリム組織と類似した微細組織が形成されるとすれば、Puスポットの微細組織変化は、MOX燃料ペレットからのFPガス放出開始が加速される要因の一つであると推定された。 高燃焼度化燃料集合体では、燃料棒の最大出力比を抑え、増倍率の燃焼度変化を小さくするため、(U,Gd)O2燃料を利用する割合が大きくなる。原子核155Gd、157Gdは熱群エネルギーの中性子吸収断面積が大きいため、(U,Gd)O2燃料ペレット内では、隣接する燃料棒の235U濃縮度、周辺水領域の影響により、出力密度および燃焼度の分布が非対称になる。本研究では、燃料集合体の2次元中性子輸送計算および燃焼計算を行うコードFLEXBURNを開発し、(U,Gd)O2燃料ペレット内の非対称な局所燃焼度を計算した。FLEXBURNコードでは、計算体系を詳細な凸四角形メッシュで表現し、中性子輸送計算はdiscrete ordinates法(Sn法)に基づき、角度方向ごとに中性子が四角形メッシュを透過、漏洩する確率を計算し、中性子輸送方程式を数値的に解く。詳細な計算メッシュを用い、角度方向を処理することにより、非均質な体系の中性子束分布を計算し、出力密度、局所燃焼度、原子数密度の分布を算出する。臨界集合体試験装置で(U,Gd)O2燃料棒とUO2燃料棒で構成された正方格子炉心の燃料棒出力比が測定され、その測定値とFLEXBURNコードの計算値はよく一致した。BWR8×8型燃料集合体の(U,Gd)O2燃料ペレット内の非対称な燃焼度分布を、1/4円領域の局所燃焼度をもとに解析した。1/4円領域の最大と最小燃焼度領域の径方向の燃焼度分布を比較した(図3)。両領域の最外周部の燃焼度の差は、燃焼初期に最大38%、燃料ペレット平均燃焼度20MWd/kgUまで10%以上であった。(U,Gd)O2燃料ペレットの1/4円領域の平均燃焼度を比較し、最大と最小の平均燃焼度の差は、燃焼初期に最大値19%、ペレット平均燃焼度15MWd/kgUまで10%以上であった。これらの燃焼度差は、減速材ボイド率が増加するほど大きくなった。(U,Gd)O2燃料ペレット内の局所燃焼度は、燃焼初期から燃料ペレット平均燃焼度15MWd/kgUまで径方向および周方向に10%以上非対称であることが明らかになった。(U,Gd)O2燃料ペレット内では、径方向および周方向の領域により、焼き締まり、スウェリングに差が生じることが推定された。 図表図2 照射したPWR17×17型MOX燃料ペレット内のPuスポットとU母材の燃焼度(初期割合[Pu+Am]/[Pu+U+Am]=Puスポット30%およびペレット平均10%、ペレット平均燃焼度40MWd/kgU)。 / 図3 BWR8×8型燃料集合体の(U,Gd)O2燃料ペレット内の局所燃焼度(235U濃縮度3%,添加Gd2O3濃度4.5wt%,減速材ボイド率40%)。 |