ベリリウムは、核特性に優れていることや低原子番号材料等であることから、核融合炉ブランケットの中性子増倍材料及びプラズマ対向材料として注目されている。しかし、核融合炉材料として必要とされる中性子照射条件は、従来データが取得されていた領域よりも高照射量・高温領域であるばかりでなく、必要な特性データもさまざまなものがある。しかも、これまでの報告は信頼性に欠けるものもあり、必要なデータそのものが得られていない事も多かった。 本研究は、これらの状況に鑑み、ベリリウムの中性子照射効果に関する研究として、微細構造、機械的特性、熱的特性及びトリチウム放出特性に着目し、そのデータ取得を行い、核融合炉ブランケット及びプラズマ対向機器の設計に資するとともに、これらのデータを総合的な知見でまとめ、中性子照射下での総合的な挙動を予測し、今後の問題点等を明らかにしたものであり、全部で6章から構成されている。 第1章は序論であり、本研究の背景・目的・概要について述べている。 第2章では、微細構造変化に及ぼす中性子照射の影響について述べている。ホットプレス・真空鋳造法・回転電極法により製造した結晶粒径の異なるベリリウム試料をJMTRで中性子照射(高速中性子照射量:1.3〜4.3×1021n/cm2(E>1 MeV)、照射温度:327〜616℃)し、密度測定、破壊強度測定後の破面SEM観察及び金相観察を行った。これらの試料のスエリングは、結晶粒径が大きいほど、また純度が高いほど小さくなる傾向が見られた。SEM観察等の結果とあわせて、結晶粒からのヘリウムガスの放出や製造時に導入される初期欠陥量によって、スエリングが影響を受けると結論している。 第3章では、機械的特性に及ぼす中性子照射の影響について議論している。前章で述べた試料について、曲げ・引張・圧潰試験片の強度を測定した結果、結晶粒径の小さい試料では、照射温度が高くなると急激に強度が低下することが明らかとなった。この原因は、結晶粒界のヘリウムガスバブルが破壊機構を粒界割れに変化させたためであるとしている。これに対して、結晶粒径の大きな試料では強度の変化が少なく、結晶粒界のヘリウムバブルの影響を受けにくいことが明らかになった。また、結晶粒径の大きなベリリウム微小球についても、圧潰強度の急激な低下は見られなかった。更に、JMTRのベリリウムサーベランス試験結果から、Fe不純物の多い試料の強度が低下することが明らかになった。 第4章では、熱的特性に及ぼす中性子照射の影響について述べている。レーザフラッシュ法を用いて、中性子照射したベリリウム試料および照射後に加熱することによりスエリングを起こさせた試料の熱拡散率及び比熱を測定した。試料はディスク状のホットプレス製ベリリウムであり、照射条件は、高速中性子照射量が4.5×1020n/cm2(E>1 MeV)、照射温度が約200℃である。この結果、中性子照射により、熱伝導率が僅かに低下することが明らかとなった。また、スエリングを起こさせた試料に関しては、スエリング量の増加に応じて熱伝導率が低下した。このようにスエリングの効果が顕著に表れたのは、スエリングによって密度が低下したためである。更に、スエリングさせた試料の熱伝導率をモデル計算の結果と比較することにより、スエリングの効果はMeredithの式で予測できることを結論している。 第5章では、中性子照射したベリリウムディスク及び微小球からのトリチウム放出特性について述べている。ベリリウムディスク及び微小球の照射条件は、高速中性子が4.5×1020及び8.5×1019n/cm2(E>1 MeV)であり、照射温度は約200℃である。トリチウム放出曲線からこれらの試料中のみかけのトリチウム拡散係数を求めた結果、ベリリウムのトリチウム放出挙動は表面酸化膜の影響を大きく受けることが明らかとなった。また、表面酸化膜とトリチウム放出挙動についての関係を詳細に検討したところ、ガススイープ中での加熱によって、表面酸化膜厚が増加するモデルを用いることにより、ベリリウム金属と表面酸化膜の拡散係数を推定することができた。 第6章は結言であり、本研究の成果を要約するとともに、金属ベリリウムが実際の核融合炉ブランケット環境で用いられる際の挙動について推察することにより、その際の問題点について検討を行い、今後の研究課題についての提案を行っている。 以上を要約すると、本論文は、核融合炉用金属ベリリウムの中性子照射効果に関して、各特性についての学問上および設計上重要なデータを取得するとともに、これらの結果を総合的な知見でまとめ、中性子照射下での金属ベリリウムの挙動予測を行うと共に、今後の問題点の摘出を試みたものであり、システム量子工学、とりわけ核融合炉工学に寄与するところが大きいと考えられる。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |