No | 214400 | |
著者(漢字) | 河野,道宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コウノ,ミチヒロ | |
標題(和) | 若年性頸椎flexion myelopathyの病態生理に関する研究 : 頸椎MRIを用いた正常例との比較検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 214400 | |
報告番号 | 乙14400 | |
学位授与日 | 1999.07.28 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第14400号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 頸椎症の特殊型である、きわめてまれな頸椎flexion myelopathyは、ほとんどが若年の男性に発症し、一側性または一側優位性の手・前腕の筋萎縮が徐々に進行し、数年で進行が停止するという特徴を持つ。本症の神経放射線学的特徴として、脊髄造影・MRI上、前屈時に下位頸椎の硬膜後壁の前方移動が見られ、脊髄が伸張する所見や、頸髄が前方に存在する椎体と前方移動してきた硬膜後壁により圧迫を受ける所見が認められる。この疾患の原因は不明とされているが、頸椎前屈が脊髄症の発生に関与していることがほぼ確定している。背景に脊椎と脊髄の発育不均衡が存在することが疑われているが未だ証明はされていない。また、本症が男性に圧倒的に多い理由も全くといっていいほど究明されていない。 本研究は若年性頸椎flexion myelopathyのMRI画像に計測という手段を持ち込み、脊椎脊髄不均衡の傍証を得ようとし、また、罹患率の男女差の原因を頸椎の男女差に求め、男女の対照群と疾患群のMRIを比較検討したものである。 自験9例の若年性頸椎flexion myelopathy症例中、6例で頸推単純X-P上、前屈位,中間位でmalalignmentを認め、後屈位でこれが矯正される現象を認めた。また,中間位の頸椎MRIでは頸髄が直線状に最短距離を走行している所見を呈している症例があり、本症症例においては中間位ですら脊髄が伸張されているのではないかとの仮説をたてた。そこで、健常人と本症患者の頸椎頸髄に差があるのかが研究の対象となった。また、本症の罹患率の男女差の背景に頚椎の男女差が存在しないかについても検討の対象とした。 自験の若年性頸椎flexion myelopathy症例9例を疾患群とした。疾患群は全例男性で年齢は18-25才(平均20.0才)で身長は162-178cm(平均170.6cm)であった。疾患群に年齢分布を合致させた対照群は、14才以上29才以下の男女で、内訳は女性群12例,男性群22例である。なお、疾患群と男性群に身長の有意な差はなかった。さらに,男性群を低身長群(7例)と高身長群(15例)に二分し、また、男性群のうち動態MRI(前屈,中間,後屈)を撮像し得た10名を、疾患群との動態MRIの比較に用いた。 頸椎MRIのT1強調画像を拡大印刷し、digitizerにて各パラメーターにつき計測した(Fig.1 A,B)。総和下位頸髄後方距離(5P+6P+7P)の数値が大きいほど下位頚髄が脊柱管内で前方に位置することを意味し、総和下位頸髄角度(4A+5A+6A)が大きいほど下位頸髄の形態が直線に近付くことを意味する。頸髄長,頸椎長の比較には、身長差の要素を除外するためにこれらを身長で除した値、すなわち、頸髄、頸椎が身体に対して占める割合(頸髄・身長比、頸椎・身長比)を用いた。また,頸椎型を点数化し、頸椎形態の評価を試みた。 対照男性群の中で,低身長群と高身長群を比較すると,高身長群の方が有意に頸髄型が直線に近かった(p<0.05)。頸椎型は高身長群の方が直線に近い傾向を示した(p<0.1)。また、頸椎・身長比、頸髄・身長比は身長の高低に影響されなかった。男女の比較では,身長は有意に男性群で大きかったにもかかわらず(p<0.0001)、頸椎型、頸髄型は逆に女性群の方が有意に直線に近かった(それぞれ、p<0.005、p<0.05)。頸椎・身長比、頸髄・身長比は有意な差を認めず、これらの比は性の違いにも影響されないことが示された。 疾患群と男性群との比較では、疾患群は中間位では頸椎・身長比、頸髄・身長比が対照群に比して有意に大きかったが(いずれもp<0.05)、後屈をすることによりこの有意差は消失した。また、疾患群は男性群に比して、頸椎・頸髄型は有意差を呈するにはいたらなかったがより直線に近く、下位頸髄は有意に脊柱管の後方に位置した(p<0.05)。疾患群と女性群の比較では,疾患群が有意に身長、頸椎・身長比、頸髄・身長比が大きかったが(それぞれ、p<0.001、p<0.01、p<0.05),頸髄型、頸椎型は有意差を認めなかった。動態MRIについては疾患群、対照群とも,後屈位が有意に頸椎長,頸髄長は最短で中間位、前屈位の順に頸椎長、頸髄長は増大し、脊髄の位置は前方となった(すべてp<0.05)。また,疾患群と対照群の頸椎頸髄の動態変化には特に有意な差を認めなかった。 本研究の結果の総括を行うと、本症は健常人に比して頸髄がより直線状に近く、中間位ですら脊髄が伸張されているのではないかとの仮説は、疾患群と男性群との中間位頸椎MRIの比較により,疾患群で有意に頸椎・身長比、頸髄・身長比が大きく、下位頸髄が有意に後方に位置し頸椎頸髄型がより直線に近かったことから、妥当性を持つものと考えられた。頸椎X-Pでのmalalignmentが後屈位で矯正されたこと,疾患群の中間位で対照群に比して有意に大きかった頸椎・身長比,頸髄・身長比が後屈位ではその有意差を認めなくなったことより、本症患者にとって、頸椎、頸髄が短縮する後屈位が最も無理のない状態であることが推測された。また、頸椎の男女差については、女性群は男性群に比べ,頸椎,頸髄が直線に近いことがわかった。しかし、男性のみからなる疾患群はむしろ女性に近似する頸椎・頸髄型を呈していた。女性群と疾患群との比較では,身長、頸椎長,頸髄長の身体に占める比率が有意に女性群で小さいことがわかった。すなわち、同じ直線状の頸椎・頸髄型でも頸椎長,頸髄長の絶対値が圧倒的に小さいことがわかった。このことが女性がmyelopathyを来たしにくい原因であるか否かは不明であるが、ひとつの新しい知見である。 本研究において、(1)若年の男女の頸椎・頸髄型に明確な差異が存在すること、(2)本症の頸椎・頸髄が身体に占める比率が健常人に比して大きく、頸椎・頸髄型は女性型(直線状)に近似すること、(3)本症において頸椎X-P上、頸椎・頸髄不均衡を示唆する所見を認めること、をはじめて報告した。過去の文献にこれらの知見を加えることによって、本症の病因と考えられてきた脊椎脊髄不均衡説の傍証を成しえたと考える。 | |
審査要旨 | 本研究は若年性頸椎flexion myelopathyの病因として想定されている脊椎脊髄不均衡を、頸椎MRIを用いて証明を試み、また、本症の罹患率の男女差の原因を頸椎の男女差に求めて、若年男女の頸椎MRIを比較検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.対照男性群の中で,低身長群と高身長群の比較により,高身長群の方が有意に頸髄型が直線に近く、頸椎型も直線に近い傾向を示した。男女の比較では,身長は有意に男性群で大きかったにもかかわらず、頸椎型、頸髄型は逆に女性群の方が有意に直線に近く、若年層には頸椎型、頸髄型の男女差が存在することが示された。また、頸椎長、頚髄長が身長に占める割合(頸椎・身長比、頸髄・身長比)は身長の高低、性に影響されないことが示された。 2.疾患群(全例男性)と男性群との比較では、疾患群は頸椎中間位では頸椎・身長比、頸髄・身長比が対照群に比して有意に大きかったが、後屈をすることによりこの有意差は消失した。また、疾患群は男性群に比して、頸椎・頸髄型はより直線に近く、下位頸髄は有意に脊柱管の後方に位置した。疾患群と女性群の比較では,疾患群が有意に身長、頸椎・身長比、頸髄・身長比が大きかったが,頸髄型、頸椎型は有意差を認めなかった。 3.本研究の結果の総括から、本症患者は脊椎脊髄不均衡に基いて、健常人に比して、頸椎中間位ですら脊髄が伸張されてより直線状に近いのではないかとの仮説は、疾患群と男性群との中間位頸椎MRIの比較により,疾患群で有意に頸椎・身長比、頸髄・身長比が大きく、下位頸髄が有意に後方に位置し頸椎頸髄型がより直線に近かったことから、妥当性を持つものと考えられた。 4.本症患者の中間位頸椎X-Pで認められたmalalignmentが後屈位で矯正されたこと,疾患群の中間位で対照群に比して有意に大きかった頸椎・身長比,頸髄・身長比が後屈位ではその有意差を認めなくなったことより、本症患者にとって、頸椎、頸髄が短縮する後屈位が最も無理のない状態であることが推測された。 5.また、頸椎の男女差については、女性群は男性群に比べ,頸椎,頸髄が直線に近いことがわかった。しかし、男性のみからなる疾患群はむしろ女性に近似する直線状の頸椎・頸髄型を呈していた。女性群と疾患群との比較では,身長、頸椎長,頸髄長の身体に占める比率が有意に女性群で小さいことがわかった。すなわち、同じ直線状の頸椎・頸髄型でも頸椎長,頸髄長の絶対値が圧倒的に小さいことがわかった。このことが女性がmyelopathyを来たしにくい原因であるか否かは不明であるが、ひとつの新しい知見である。 本研究において、(1)若年の男女の頸椎・頸髄型に明確な差異が存在すること、(2)本症の頸椎・頸髄が身体に占める比率が健常人に比して大きく、頸椎・頸髄型は女性型(直線状)に近似すること、(3)本症において頸椎X-P上、頸椎・頸髄不均衡を示唆する所見を認めること、がはじめて示された。過去の文献にこれらの知見を加えることによって、本症の病因と想定されてきた脊椎脊髄不均衡説の傍証が成され、また、本症のリスクファクターの解明や理想的な治療のあり方に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54136 |