本研究は、マクロファージハイブリドーマのクローンの一部に見いだされた細胞増殖抑制活性を解析し、増殖抑制活性の中心となる分子を特定を試みたものであり、また生体内における同様の機構の存在について検討を行い、以下の結果を得ている。 1.マクロファージハイブリドーマクローンNo.5の細胞膜由来の脂質をBW-5147細胞の培養中に添加したところ、濃度依存的に細胞増殖の抑制が観察された。この脂質成分をTLCを用いてChloroform:Methanol=29:1の溶媒で展開、分離したところ、特定のスポットから全体の90%以上の活性が回収されることが観察され、このスポットは25-hydroxycholesterolと同じRf値を示した。 2.1.のスポットについてGC-MSおよびNMRを用いて分析することにより、25-hydroxycholesterolであることが確認された。細胞増殖を抑制するクローンNo.5、8の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されたが、細胞増殖を抑制しないクローンNo.16、39の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されなかった。 3.脾臓付着性細胞(SAC)をIFN-によって刺激を行ったところ、培養開始12時間後から顕著な細胞増殖抑制活性が誘導されたが、この抑制はインドメタシンの添加によっても解除を受けず、プロスタグランジンE2によるものではないと考えられた。 4.IFN-によって誘導されるSACの細胞増殖抑制活性は、細胞膜をBligh and Dyer法およびHexan-Water法を用いて抽出することによってHexane層に回収され、抽出前の全細胞におけるものとと同程度の抑制活性が検出された。 以上、本論文においてマクロファージハイブリドーマの細胞膜上に存在する細胞増殖抑制活性を有する脂質は、25-hydroxycholesterolであることが明らかになった。また、マクロファージハイブリドーマに見いだされた細胞増殖抑制活性が、IFN-刺激によってSACの細胞膜画分の脂質成分に誘導されることが確かめられた。本研究は、マクロファージによる細胞増殖制御の機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |