学位論文要旨



No 214406
著者(漢字) 加藤,博史
著者(英字)
著者(カナ) カトウ,ヒロシ
標題(和) マクロファージ細胞膜上の25-hydroxycholesterolによる細胞増殖抑制
標題(洋)
報告番号 214406
報告番号 乙14406
学位授与日 1999.07.28
学位種別 論文博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 第14406号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 助教授 岩田,力
 東京大学 助教授 田中,信之
 東京大学 助教授 土屋,尚之
内容要旨 A.目的

 これまでに、我々が樹立したマクロファージハイブリドーマのクローンの一部に細胞間の接触によって相手の細胞の増殖を抑制する活性を有するものがあること、この抑制活性は細胞膜画分の脂質成分中に存在すること、等について報告してきた。本研究では、これらのマクロファージ細胞膜由来の脂質成分を薄層クロマトグラフィー(TLC)、GC-MS、NMR等の手法を用いて分析し、増殖抑制活性の中心となる分子を特定を試みた。さらに、マウス脾臓付着性細胞(SAC)の培養中にマクロファージを活性化することで知られている種々の刺激物質を加えて、細胞増殖抑制活性の誘導の可否を検討することにより、生体内における同様の機構の存在について検討した。

B.材料と方法

 マクロファージハイブリドーマ:CKBマウス由来のSACとマウスマクロファージ様腫瘍細胞株P388D1を細胞融合し、ハイブリドーマを作成した。

 膜脂質の抽出:細胞増殖を抑制するクローンNo.5、8と細胞増殖を抑制しないクローンNo.16、39の細胞膜画分よりBligh and Dyer法およびHexan-Water法によって脂質画分を抽出した。

 細胞増殖抑制活性の検出:得られた脂質をマウスthymoma細胞株BW-5147とともに2日間培養して、BW-5147による[3H]チミジンの取り込み量を測定した。BW-5147単独での[3H]チミジンの取り込み量と比較し、増殖抑制活性を算出した。

 薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いた解析:抽出によって得られた脂質成分をTLCによりChloroform:Methanol比7:3、9:1、29:1の溶媒で展開、分離した。展開後、50%硫酸を噴霧し、120℃、2分加熱することにより可視化した。

 脾臓付着性細胞(SAC)の培養:DBA/2マウスから得られたSACを1-1,000U/mlのリコンどナントマウスIFN-とともに10%FCS合有RPMI1640培地中で1-3日間培養し、回収したSACの細胞膜画分からBligh and Dyer法およびHexan-Water法によって抽出した脂質成分について細胞増殖抑制活性を測定した。

C.結果

 クローンNo.5の細胞膜由来の脂質をBW-5147の培養中に添加したところ、濃度依存的に細胞増殖の抑制が観察された。この脂質成分をTLCを用いてChloroform:Methanol=29:1の溶媒で展開、分離したところ、特定のスポットから全体の90%以上の活性が回収されることが観察され、このスポットは25-hydroxycholesterolと同じRf値を示した。このスポットについてGC-MSおよびNMRを用いて分析することにより、25-hydroxycholesterolであることが確認された。細胞増殖を抑制するクローンNo.5、8の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されたが、細胞増殖を抑制しないクローンNo.16、39の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されなかった。

 SACをIFN-、PMA、カルシウムイオノフォアA23187,LPSとともに培養したところ、PMA刺激によって高い細胞増殖抑制活性が誘導されたが、この抑制はインドメタシンの添加によって解除されたことから、PMA刺激によりSACから分泌されたプロスタグランジンE2によるものであると考えられた。IFN-によっても培養開始12時間後から顕著な細胞増殖抑制活性が誘導されたが、この抑制はインドメタシンの添加によっても解除されなかった。

 また、IFN-によって誘導されるSACの細胞増殖抑制活性は、細胞膜をBligh and Dyer法およびHexan-Water法を用いて抽出することによってHexane層に回収され、抽出前の全細胞におけるものとと同程度の抑制活性が検出された。

D.考察

 本研究において、マクロファージハイブリドーマの細胞膜上に存在する細胞増殖抑制活性を有する脂質は、25-hydroxycholesterolであることが明らかになった。25-hydroxycholesterolを含むoxysterol familyは、動植物の細胞に存在し、多様な生物活性を有することが知られており、本研究においてもそれを支持する結果となった。また、マクロファージハイブリドーマに見いだされた細胞増殖抑制活性が、IFN-刺激によってSACの細胞膜画分の脂質成分に誘導されることが確かめられた。このことから、生体内においても同様にマクロファージが膜上の脂質を用いて細胞増殖を制御する機構が存在することが示唆された。

審査要旨

 本研究は、マクロファージハイブリドーマのクローンの一部に見いだされた細胞増殖抑制活性を解析し、増殖抑制活性の中心となる分子を特定を試みたものであり、また生体内における同様の機構の存在について検討を行い、以下の結果を得ている。

 1.マクロファージハイブリドーマクローンNo.5の細胞膜由来の脂質をBW-5147細胞の培養中に添加したところ、濃度依存的に細胞増殖の抑制が観察された。この脂質成分をTLCを用いてChloroform:Methanol=29:1の溶媒で展開、分離したところ、特定のスポットから全体の90%以上の活性が回収されることが観察され、このスポットは25-hydroxycholesterolと同じRf値を示した。

 2.1.のスポットについてGC-MSおよびNMRを用いて分析することにより、25-hydroxycholesterolであることが確認された。細胞増殖を抑制するクローンNo.5、8の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されたが、細胞増殖を抑制しないクローンNo.16、39の細胞膜由来の脂質成分中には25-hydroxycholesterolのスポットが観察されなかった。

 3.脾臓付着性細胞(SAC)をIFN-によって刺激を行ったところ、培養開始12時間後から顕著な細胞増殖抑制活性が誘導されたが、この抑制はインドメタシンの添加によっても解除を受けず、プロスタグランジンE2によるものではないと考えられた。

 4.IFN-によって誘導されるSACの細胞増殖抑制活性は、細胞膜をBligh and Dyer法およびHexan-Water法を用いて抽出することによってHexane層に回収され、抽出前の全細胞におけるものとと同程度の抑制活性が検出された。

 以上、本論文においてマクロファージハイブリドーマの細胞膜上に存在する細胞増殖抑制活性を有する脂質は、25-hydroxycholesterolであることが明らかになった。また、マクロファージハイブリドーマに見いだされた細胞増殖抑制活性が、IFN-刺激によってSACの細胞膜画分の脂質成分に誘導されることが確かめられた。本研究は、マクロファージによる細胞増殖制御の機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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