本研究は、ヒト言語との類似点を持つ鳥類の発声を烏自身が如何なるメカニズムにより認識するかを知る端緒を得る目的で、動的プログラミング(DPマッチング)等のヒト音声認識アルゴリズムを応用してセキセイインコのコンタクトコールを自動分類可能な手法を開発し、これらを用いて実際のコールを分類させてその有効性を調べ、さらに鳥自身の分類との比較により鳥自身がコール識別に際して注目しているパラメータの類推を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.ヒト音声認識に用いられることの多い、DPマッチング法を含むいくつかのアルゴリズムを応用し、セキセイインコのコンタクトコールの識別を行う計算機プログラムを作成し、これらのプログラムに、ソナグラムによって容易に識別できるコール・識別が比較的難しいコールのグループ分けを行わせたところ、2つのピーク周波数を用いるDPマッチングプログラム(DP2peak)が最も良い成績をあげた。 2.さらに心理実験によって得られたセキセイインコ自身のコール識別結果との比較を行ったところ、DP2peakの改良版である2つの代表的ピーク周波数を用いるプログラム(DP2of3)が最も良い相関を示した。 3.各プログラムによる成績を比較することにより、セキセイインコ・コンタクトコールを正しくグループ分けし、さらにセキセイインコ自身の知覚をシミュレートするには、(1)2周波数の同時比較、(2)時間伸縮、(3)周波数寛容性、の3つの性質が重要であると結論づけることができた。 以上、本論文は、これまで知られていなかったセキセイインコがコールを個体別に識別するに当たって注目するパラメータについて、強い示唆を与える結果をはじめて示した。これはセキセイインコの脳における音声知覚の基礎的研究の方向付けに貢献し得るものである上、コンタクトコールが生涯変遷することから、アナロジーを経てヒトの音声獲得・聴覚可塑性の仕組みの解明につながる可能性を秘めている論題であり、学位の授与に値するものと考えられる。 |