学位論文要旨



No 214439
著者(漢字) 下村,郁夫
著者(英字)
著者(カナ) シモムラ,イクオ
標題(和) 土地区画整理事業の照応原則と換地制度の再構成
標題(洋)
報告番号 214439
報告番号 乙14439
学位授与日 1999.09.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14439号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 大方,潤一郎
 東京大学 助教授 浅見,泰司
 東京大学 教授 西谷,剛
内容要旨

 土地区画整理事業の中核は従前地を換地に置き換える平面換地である。平面換地は換地制度やその運用によって現実化される。だが換地制度には不明確さがあり、またその運用は換地制度の趣旨や上位の法目的にいつも合致するわけではない。さらに換地制度は換地手法に制約を課している。そこでこの論文は照応原則を中心に換地制度とその運用の実態を分析し、次の6つの項目を中心に制度改正を提案してその有効性を検証するとともに制度改正に際して考慮すべき事項を提示する。

(1)照応原則とそれに代わる換地割付基準

 換地制度の中核は照応原則であるが、照応原則が定める6つの照応項目は照応に影響する一次的要因の大ざっぱな集約であり、その含意はあいまいである。また照応原則は地権者の権益を保護するために不可欠ではない。むしろ(1)土地利用の整序、(2)土地の集約による土地利用の効率化、(3)地権者の意向の尊重によるパレート最適化、を促進するためには、別の換地割付基準を採用すべきである。この換地割付基準の概要は次の通りである:(1)財産的価値の照応と地権者間の公平の2つの原則を定めること、(2)法令上に公益性要件を列挙し、事業ごとに換地設計において配慮する公益性とそれに基づく換地割付の方法を定めること、(3)公的施行者が弱い公益性に基づいて換地割付を行う際には地権者の3分の2同意を得ること。

(2)申出換地制度

 照応原則の位置の制約を逃れる有力な手法は地権者の申出に基づいて申出換地区域内の換地を定める申出換地である。法律上の申出換地は法律によって照応原則の適用を排除する。運用上の申出換地は(1)地権者の同意、(2)利用状況の照応、の2つを主要な論拠として照応原則の適用を排除し、またはその内容を変更する。だが効果において両者を区分することは困難である。そこで一般的な申出換地制度を導入して申出換地の利用を根拠づけるべきである。この際には申出換地の公益性、比例原則、目的達成の確実性、申出要件などについて考慮しなければならない。

(3)小規模宅地対策

 多くの土地区画整理事業の施行に不可欠な小規模宅地対策には(1)減歩率の修正、(2)換地不交付、(3)付け保留地、(4)付け換地、の4つがある。その中心は減歩率の修正であるが、これは小規模宅地の減歩を緩和し、一般宅地に強減歩を強いる点で照応原則の重要な例外である。一方、法律上の小規模宅地対策には非現実的な制約がある。だが小規模宅地対策の無限定な実施には財産権の保護や地権者間の公平の観点から大きな危険が含まれている。そこで小規模宅地対策の実施主体を拡大するとともにその内容を限定的に拡大すべきである。

(4)権利の再編成手法

 土地区画整理事業の平面換地の例外である立体換地と宅地の共有化には多くの制約がある。だが土地区画整理事業を既成市街地の整備に活用するためには、平面換地を超えて底地権と借地権の再編成を行う必要がある。そこで次に掲げる権利の再編成手法を取り入れるべきである:(1)底地権と借地権の独立宅地化、(2)借地権の設定による事業費負担、(3)借地権の不交付、(4)底地権の集約、(5)借地権の集約、(6)一人立体換地、(7)複数の宅地の共有化、(8)宅地に関する権利の自由再編。この際、権利の再編成には(1)減価補償金地区における減歩緩和、(2)土地の高度利用、(3)借家権の保護、の観点から建築を包含すべきであり、さらに地権者が建築の主体となる機会を与えるべきである。また借家権を保護するために権利の再編成は、(1)借家権が不存在の場合、(2)借家人がそれに同意する場合、のいずれかに限って行うべきである。

(5)宅地の移動

 土地区画整理事業は宅地を換地手法によって移動するが、現在の換地手法は宅地の移動にいくつかの制約を課している。宅地を移動する手段には換地手法のほか証券化手法(土地に関する権利を証券化した上で土地と交換する制度)と交換手法(土地と土地を交換する制度)がある。証券化による宅地の権利の流動化は土地区画整理事業を超える問題であり、また現行の換地設計の制約は換地手法自体に由来するものではないので、証券化手法を直ちに採用する理由はない。一方、交換手法の導入は宅地を換地手法とは独立に施行地区内で、または施行地区の内外にわたって移動させることを可能にする。したがって交換手法を土地区画整理法に位置づけることが望ましい。

(6)複数の土地区画整理事業の結び付け

 現行制度には複数の土地区画整理事業を結び付ける仕組みがない。だが広域的な面整備を行うためには複数の土地区画整理事業を結び付け、それらの間で宅地を移動したり、減歩負担を移転することが望ましい。そこで複数の土地区画整理事業を結び付ける連結制度(同格の複数の土地区画整理事業を連結する制度)と統合制度(下位に位置する複数の土地区画整理事業を統合する制度)を導入すべきである。

審査要旨

 土地区画整理事業の中核は従前地を換地に置き換える平面換地である。平面換地は換地制度やその運用によって現実化される。だが換地制度には不明確さがあり、またその運用は換地制度の趣旨や上位の法目的にいつも合致するわけではない。さらに換地制度は換地手法に制約を課している。そこでこの論文は照応原則を中心に換地制度とその運用の実態を分析し、次の6つの項目を中心に制度改正を提案してその有効性を検証するとともに制度改正に際して考慮すべき事項を提示した。

(1)照応原則とそれに代わる換地割付基準

 換地制度の中核は照応原則であるが、照応原則が定める6つの照応項目は照応に影響する一次的要因の大ざっぱな集約であり、その含意はあいまいである。また照応原則は地権者の権益を保護するために不可欠ではない。むしろ(1)土地利用の整序、(2)土地の集約による土地利用の効率化、(3)地権者の意向の尊重によるパレート最適化、を促進するためには、別の換地割付基準を採用すべきである。この換地割付基準の概要は次の通りである:(1)財産的価値の照応と地権者間の公平の2つの原則を定めること、(2)法令上に公益性要件を列挙し、事業ごとに換地設計において配慮する公益性とそれに基づく換地割付の方法を定めること、(3)公的施行者が弱い公益性に基づいて換地割付を行う際には地権者の3分の2同意を得ること。

(2)申出換地制度

 照応原則の位置の制約を逃れる有力な手法は地権者の申出に基づいて申出換地区域内の換地を定める申出換地である。法律上の申出換地は法律によって照応原則の適用を排除する。運用上の申出換地は(1)地権者の同意、(2)利用状況の照応、の2つを主要な論拠として照応原則の適用を排除し、またはその内容を変更する。だが効果において両者を区分することは困難である。そこで一般的な申出換地制度を導入して申出換地の利用を根拠づけるべきである。この際には申出換地の公益性、比例原則、目的達成の確実性、申出要件などについて考慮しなければならない。

(3)小規模宅地対策

 多くの土地区画整理事業の施行に不可欠な小規模宅地対策には(1)減歩率の修正、(2)換地不交付、(3)付け保留地、(4)付け換地、の4つがある。その中心は減歩率の修正であるが、これは小規模宅地の減歩を緩和し、一般宅地に強減歩を強いる点で照応原則の重要な例外である。一方、法律上の小規模宅地対策には非現実的な制約がある。だが小規模宅地対策の無限定な実施には財産権の保護や地権者間の公平の観点から大きな危険が含まれている。そこで小規模宅地対策の実施主体を拡大するとともにその内容を限定的に拡大すべきである。

(4)権利の再編成手法

 土地区画整理事業の平面換地の例外である立体換地と宅地の共有化には多くの制約がある。だが土地区画整理事業を既成市街地の整備に活用するためには、平面換地を超えて底地権と借地権の再編成を行う必要がある。そこで次に掲げる権利の再編成手法を取り入れるべきである:(1)底地権と借地権の独立宅地化、(2)借地権の設定による事業費負担、(3)借地権の不交付、(4)底地権の集約、(5)借地権の集約、(6)一人立体換地、(7)複数の宅地の共有化、(8)宅地に関する権利の自由再編。この際、権利の再編成には(1)減価補償金地区における減歩緩和、(2)土地の高度利用、(3)借家権の保護、の観点から建築を包含すべきであり、さらに地権者が建築の主体となる機会を与えるべきである。また借家権を保護するために権利の再編成は、(1)借家権が不存在の場合、(2)借家人がそれに同意する場合、のいずれかに限って行うべきである。

(5)宅地の移動

 土地区画整理事業は宅地を換地手法によって移動するが、現在の換地手法は宅地の移動にいくつかの制約を課している。宅地を移動する手段には換地手法のほか証券化手法(土地に関する権利を証券化した上で土地と交換する制度)と交換手法(土地と土地を交換する制度)がある。証券化による宅地の権利の流動化は土地区画整理事業を超える問題であり、また現行の換地設計の制約は換地手法自体に由来するものではないので、証券化手法を直ちに採用する理由はない。一方、交換手法の導入は宅地を換地手法とは独立に施行地区内で、または施行地区の内外にわたって移動させることを可能にする。したがって交換手法を土地区画整理法に位置づけることが望ましい。

(6)複数の土地区画整理事業の結び付け

 現行制度には複数の土地区画整理事業を結び付ける仕組みがない。だが広域的な面整備を行うためには複数の土地区画整理事業を結び付け、それらの間で宅地を移動したり、減歩負担を移転することが望ましい。そこで複数の土地区画整理事業を結び付ける連結制度(同格の複数の土地区画整理事業を連結する制度)と統合制度(下位に位置する複数の土地区画整理事業を統合する制度)を導入すべきである。

 本研究は、以上のように、土地区画整理事業における照応原則を中心に換地制度とその運用実態を主として法律学的側面から分析し、有益な制度改正提案を出して、その有効性を検証しており、都市計画学上の重要な学問的貢献となっている。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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