近年、インターネットでは過多の情報が流れ、情報の受け手から見ると、いわゆる「情報の洪水化現象」が起きている。このため、多量な情報の中から欲しい情報を高速に検索する技術や、多量情報の全体を概観する技術等の確立が要望されている。本論文では、広く利用されている二値画像表現の文書図面情報に着目して、多量の情報を人に一度に提示するために、文書図面情報を高品質・高圧縮に変換して一覧表示する技術の確立を目的としている。 従来、二値画像表現の文書図面情報に対する縮小変換は、主にファクシミリ解像度変換に対する研究が行われてきた。主なものに、SPC法、論理和法、補間投影法、高速画素密度変換方式などが挙げられる。また、ソフトコピー通信における二値画像符号化方式として国際標準化されているJBIG法が挙げられる。しかし、いずれも比率として1に近い比較的大きな比率が対象であり、高圧縮変換を行うと変換画に切れ、かすれなどが生じて品質が悪く、情報が欠落していた。一方、電子図書館システムの研究においては、二値文書図面情報をCRTディスプレイへ中間調を利用して縮小表示する研究がなされてきた。しかし、ハードコピー表示とソフトコピー表示に対する品質評価の検討がなく、また、二値画像領域での高品質縮小変換方法との比較評価も不十分であった。 多量な画像提示には、文書図面情報の特徴を高度に認識し、かつ、比率1/10のような高圧縮変換を行ったときにおいても高品質な変換画像を生成できる縮小変換法が必要である。今後、より高度なディジタルドキュメントとして要望されている技術に、多量な情報の全体ビジュアル化、ドキュメント速読、データマイニングなどがあり、これらを解決する技術の1つとして、高圧縮技術による概覧手法がきわめて有用である。 本論文において、高圧縮技術を確立する課題として、(1)より多くの情報をハンドリングするための高圧縮比率の実現、(2)情報内容を保存しつつ内容理解するための高品質表現、(3)小さなデータ量で実現するための二値表現、の3点を挙げる。これらの課題を克服するために、(1)細線の認識処理、(2)品質劣化を防止した細線保存処理、(3)あらゆる変換比率に対応した細線保存処理、(4)線分という概念を発展させて有効情報を獲得して保存する処理、の4つの対策を実現することにした。 最初に、ETP法について説明する。ETP法は、(1)細線の認識、(2)品質劣化を防止した細線保存、(3)変換比率に適応する参照画素、の特微を有している。また、細線判定条件として3種類の条件を有する変換法であり、変換画品質の劣化が少ない変換法である。しかし、高圧縮比率へ適用すると、変換画品質の劣化が生じてしまう。この劣化は、細線が多重に存在するときに、細線保存が拮抗することにより発生してしまうものである。 さらに高圧縮な比率の変換を実現するために、多重に細線が存在するときには、原画像の中にある有効情報を獲得して保存するEIP法を開発した。図1にEIP法における有効情報判定方法を示す。まず、背景情報と有効情報をあらかじめ検出し、保存対象線分が多重に存在するかを検出し、多重に存在するときには有効情報のみを保存する処理である。この判定処理を行うことにより、有効情報を獲得した変換画を作成することができる。EIP法の変換画を作成して、有効情報が保存できること、かつ、保存した情報がひずみ少なく保存できていることを確認し、EIP法の変換画品質がETP法より良好であることを確認した。 図1 EIP法における有効情報判定 変換画の品質の観点から、EIP法の有効性を明らかにするため、ハードコピーとソフトコピーに対する主観評価実験を行い、評価を実施した。品質指標として中間調表現のBGS法を取り上げ、また、従来法の代表的変換法としてOR法とPhotoshop法を取り上げ、併せて評価実験を実施した。評価結果の一例を図2(ハードコピー評価における変換比率と変換画品質の関係)に示す。図2から、EIP法は、2つのテストチャートおよび全ての変換比率において有効情報を保存することにより、BGS法を含めた他の変換法より品質が高い変換法であることがわかる。特に、線画(地図)のテストチャートのとき、EIP法で1/10まで縮小したときにMOS3.0の品質が得られ、他の変換法で1/5縮小したときと同等の品質であることを示している、 図2 ハードコピーにおける変換比率と変換画品質の関係 また、ソフトコピーに対する評価では、EIP法は1/5より小さな変換比率の領域において品質低下の少ない変換法であることを明らかにした。図3に変換画の一例(明朝体文字と線画)を示す。図3のEIP法を見ると、有効情報が良好に保存され品質が良いことがわかる。BGS法のように細線が薄くなることや、OR法とPhotoshop法のように線が切れることが生じていないからである。 図3 変換画の例 本評価で用いたBGS法は1画素16階調表現を用いているため、同一データ量換算時でのEIP法との品質評価を行った。その結果、データ量換算時ではEIP法がBGS法よりも格段に品質が良い。 また、通信領域への適用を考慮してEIP法とBGS法のGIF符号データの比較を行ったところ、EIP法はBGS法の1/2〜1/4のデータ量であることが判明した。なお、処理が複雑なEIP法は、ソフト処理において他の変換法より処理時間を要する。このため、EIP法の高速化方策を示し、これによりサービス適応への見通しを得た。以上から、EIP法の適用領域は、(1)1/5未満の高圧縮変換、(2)高解像度の表示機器へ出力する場合、(3)通信への適用(小データ量)、(4)ファクシミリなどの安価な二値画像出力機器への適応、である。一方、低解像度の中間調表示が可能な出力媒体へ1/5より大きな比率で出力する場合には、BGS法が適していると言えよう。 本論文提案の縮小変換法を情報処理システムへ適用し、そのシステム概要および効果について示している。最初に、ファクシミリ情報案内システムへ適用したときの構成と、具体的な効果を示した。特に、縮小変換装置には高速化処理が要求され、また、低価格化が要求されることから、メモリ構成によるハードウェア構成の提案を行い、変換処理部が容量IMオーダのメモリで構成できることを示した。EIP法を用いてファクシミリ文書100ページを1枚へ変換したときの概覧出力例を図4に示す。これにより、多量な画像の情報内容を即座に、簡易に把握することができることがわかる。 図4 概覧出力の例 次に、イントラネット型の文献閲覧システムへの適用例を示した。ソフトコピー表示でクライアント端末において約36枚程度の画像一覧ができ、これにより、検索や情報分別等が高速に行え、効果が顕著であることを示した。また、電子図書館システムのプロトタイプを実現し、ホストセンタにおいて原画像を1/5に縮小してからクライアントへ配送する圧縮画像配信方式の有効性を確認した。 また、本アルゴリズムを大型液晶ディスプレイファクシミリ端末(MITEDAS)へ適用した例を示し、さらに、より高範囲なシステム領域に適応させるために画像変換LSI化を実現した。さらに、インターネットでのプラグインソフト利用形態での可能性、カラープロジェクタへの適用の可能性について言及している。以上から、情報通信処理システムにおいて高圧縮ソフトによる概覧手法により、情報の高速な検索や、高速な内容分別、瞬時の内容理解などの効果が大きいことを明らかにした。 本論文での高品質縮小技術による概覧手法は、二値文書図面情報に対してのいわゆる要約技術であり、二値文書図面情報を高度に、高速に理解を支援するための核技術である。また、二値文書図面情報は、ディジタルドキュメントとしてその利用シーンが拡大していくとともに、その重要性がますます高まっていくであろう。今後、マルチメディア情報の流通において、各コンテンツに応じた要約技術とマルチメディアを統合した高度化技術の進展により、情報のより快適な流通とその消費活動の支援を進めていくことができるであろう。 |