本論文は「半固定無線通信方式の回線品質設計と評価パラメータに関する研究」と題し、携帯型端末を用いる高速無線通信のための無線回線設計とその品質について論じたものであって全7章より成る。 第1章は「緒論」であって、無線方式を固定通信、移動通信、半固定通信に分類している。半固定通信ではパーソナルコンピュータ等を端末とし、端末は自由に移動するが、通信時に一時停止して基地局と通信を行なう。本論文ではこの半固定通信(Nomadic)を対象として研究を行なうとして本論文の扱う範囲を明かにし、本論文の構成を示している。 第2章は「品質規格の概要」と題し、無線通信の回線品質評価に用いられる品質パラメータについて解説している。エラー品質パラメータとしては、SESR(severely errored second ratio),ESR(errored second ratio),CLR(cell loss ratio),CER(Cell error ratio)がある。本章では半固定通信ではランダム雑音が支配的品質劣化の要因であるとして、ビット誤り率(BER)とこれらの品質パラメータの間の関係を明らかにしている。 第3章は「半固定通信方式の回線断率推定法」と題し、SES(severely errored second)を半固定通信環境で求める方法について述べている。まず半固定通信の端末使用環境において受信電力の分布の実測を行ない、ガンマ分布の理論曲線に合うことを示している。半固定通信方式では移動通信に比べて変動サイクルがゆるやかなフェージング特性を有している。この特性を利用してビット誤り率10-3、回線断率1%を実現するには、所要信号対雑音比は25〜30dBである。移動通信環境ではこれに対して32〜44dBが主要であるとして、半固定通信の特徴を示している。 第4章は「半固定通信方式における品質パラメータ解析」と題し、無線アクセス区間の品質パラメータを明らかにしている。まずITU-T勧告を根拠として無線区間に配分されるSESR,ESR,CLRの設計目標を示し、QPSK方式で156Mb/sまでの伝送を行なうとして、SESR,ESR,CLRを理論的に求める式を明らかにしている。これにもとずいて、分布フェージングでは=6以下ではSESR規格を満足すれば、ESR,CLRは自動的に満足されることを示し、目標値を実現するフェードマージンを伝送速度ごとに明らかにしている。 第5章は「固定通信方式における品質パラメータ解析」と題し、固定通信の特性を解析し、これと対比して本論文の主題とする半固定通信の特質を明らかにしている。16QAMで50kmの区間のリンクについて、SESRの規格を満たすフェードマージン、ESR,CLRとBERの関係を求めている。 第6章は「品貿設計に関する統合的考察」と題し、BER,S/N,時間率の3者の関係を品質空間として定義し、これらを統合的に評価する方法を明らかにしている。半固定通信/固定通信/移動通信におけるS/N比,BER,時間率の関係をQPSKおよび16QAMについて定通信/移動通信におけるS/N比,BER,時間率の関係をQPSKおよび16QAMについてとりまとめ、品質設計の支配的要因を考察している。 第7章は「結言」であり本論文の成果をとりまとめている。 以上のように本論文では半固定通信について、所要の品質を満足する無線回線設計の方法を明らかにしたものであって通信工学に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |