水蒸気爆発現象は、溶融炉心と水の相互作用として原子炉過酷事故に現れ、その影響の程度を支配する現象であり、原子炉の安全評価において水蒸気爆発と関連する事象を正しく評価することが重要である。このため理論解析、実験研究と並んで水蒸気爆発のモデル化と数値解析研究が進められてきている。数値解析の対象として水蒸気爆発を見ると、非平衡性が大きく高速で起こる現象であり、また、様々な物理が複合して複雑な様相を示す現象であるので、これまでは、水蒸気爆発を構成すると考えられるいくつかの段階のどれかについてのみの研究が個別に進められてきた。また、解析の実証という点とも相俟って、解析対象は中小規模の実験体系であることがほとんどであった。今後、これまでに得られた知見を活かし、原子炉過酷事故における水蒸気爆発を正しく評価し、影響の把握と防護策の有効性を確認していくためには、溶融炉心の落下に始まり粗混合へ至る初期過程を解析に含め、その後に続いて終息に至るまでの一貫する過程をシームレスに解析する手法を整え、現実の体系に即して様々な状況を解析できる枠組みを準備していく必要性が高くなってきている。 本論文は、以上の観点より、まず、落下する溶融物ジェットがブレークアップする初期過程の解明とモデル化を行い、次に、これを利用して水蒸気爆発の諸過程を統合して解析できるVESUVIUSコードを開発して原子炉安全解析の高度化に資することを目的に行った研究の成果をまとめたものであり、全体で8つの章から構成されている。 第1章は緒言であり、研究の背景をまとめ従来の研究を整理した上で、本研究の目的と意義を述べたものである。 第2章は溶融物粒子のブレークアップのモデル化と解析について述べた章である。レーリー・テーラー不安定性によるブレークアップをPilch式と構成方程式を組み合わせてモデル化し、MIXA06実験を対象として解析と実験データとの比較を行っている。 第3章はジェットブレークアップの力学的な機構を抽出して等温条件下でのブレークアップを検討した章である。これまでの知見を整理し、原子炉格納容器内で起こりうるシナリオに適用して考察し、落下距離の長さからこのモードでの顕著なブレークアップは生じないと評価している。 第4章は高温ジェットブレークアップに関する章である。まず、実験データをデータベースとして整理し、事象進展の過程を明らかにしている。ブレークアップの特性は流れの時間オーダーと熱的機構に支配されることから、このふたつに関する指標を提案し、指標の値によってモードが分類できること、格納容器内の支配的なモードはジェット先頭でのレーリー・テーラー不安定性とジェットバルク表面でのケルビン・ヘルムホルツ不安定性であることを示している。 第5章は格納容器内の高温ジェットブレークアップを検討し、また、計算の流れについて説明した章で、第2〜4章の結果から格納容器内のシナリオを評価し、考慮すべきモードを明らかにしている。 第6章はジェットブレークアップのモデル化と解析についてまとめている。ジェット表面上のケルビン・ヘルムホルツ不安定性による溶融物ブレークアップのモデルに蒸気膜モデルを加えてVESUVIUSコードに組み込んでいる。解析結果を複数の実験データと比較し、モデルの妥当性を検証している。 第7章はVESUVIUSコードの統合化と統合解析について述べた章である。まず、トリガリング、細粒化、伝播の過程をモデル化し、感度解析および実験との比較により検証している。次に、統合化したコードの構造と特性について述べ、全体の検証としてKROTOS44実験の解析を行っている。これにより統合解析の計算機能を確認し、また、実験と解析で結果が良く一致する結果が得られることを示している。 第8章は結論であり、本研究で得られた成果をまとめた章である。 以上を要するに、本論文は水蒸気爆発現象の数値解析に関して、溶融物ジェットがブレークアップしていく過程を解明し、原子炉格納容器内での支配的なブレークアップメカニズムを明らかにして解析モデルを開発し、さらにこれらを組み込んだ統合解析コードを開発して実験との比較によりモデルおよび統合解析の妥当性と有効性を合わせて示したものであり、工学における数値解析および原子力安全解析の進展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |