材料に対し非接触で超音波の送受信を可能にするレーザー超音波は、鉄鋼など実用材料の信頼性評価に広く用いられている超音波探傷法の適用範囲を大きく拡大する技術として期待されているが、非破壊検査技術としての確立にはさらなる研究開発が必要となる。本論文では、レーザー超音波の定量的非破壊評価への適用において重要となる、レーザー超音波技術の特性解析・基礎実験、超音波発生伝播のシミュレーション法の開発、超音波受信の基礎技術の開発、さらに微小欠陥評価への適用を行うことにより、材料の非破壊評価法としてのレーザー超音波の可能性を明らかにしている。 第1章では、材料の信頼性確保のための非破壊検査の概要と、特に超音波探傷法による材料評価における利点と問題点を述べている。さらに、レーザー超音波技術の超音波探傷への適用することにより、高温中の材料の評価、材料表面の微小領域の材質評価が可能であり、非破壊材料評価の適用分野の拡大に寄与することを述べ、レーザー超音波の材料評価法としての研究の意義を示している。 第2章では、レーザー超音波の原理と基礎技術についての実験を行い、基礎技術の確立と、材料評価のための可能性を示している。まず、パルスレーザーの固体材料への照射により超音波を発生させる技術について、超音波発生の原理と実験による得た超音波波形を示し、レーザー超音波で発生する超音波波形の一般的特長を述べている。レーザー干渉法による定量的な超音波計測法としてのホモダイン干渉法の特長を超音波振動変位の実測と圧電素子の波形シミュレーションを用いて示している。また、粗面の鋼板や溶射皮膜試料でも圧電素子による超音波受信と異なり定量的超音波検出が可能なことや、加熱炉中の固体材料を炉の外からパルスレーザーとホモダイン干渉計を用いて超音波送受を行い、温度と音速の変化から高温材料の弾性的変化や相変態の検出が可能なことを検証している。 第3章では、パルスレーザー照射による超音波発生伝播の2次元計算機シミュレーション法の開発と、各種照射条件での計算による発生超音波の特性の解析について述べている。まず、差分法による弾性波伝播のシミュレーション法を基礎に、波動方程式の本質を考慮して新しく考案した計算法についての原理を述べ、差分法では問題のある表面境界部の超音波変位を正確に計算できる本計算法の有効性を示している。さらに、パルスレーザー照射による表面加熱の熱応力と溶融気化にともなう圧力を本計算法に取り入れてレーザー照射による超音波発生をモデル化するという方法を述べ、実験波形と計算波形との比較により、モデルの妥当性を示すとともに、さらに本方法で可能になった材料中のレーザー超音波の伝播挙動の可視化の有用性を述べている。 第4章では、超音波の定量的検出等に優れた光ヘテロダイン干渉法を用い、超音波検出のための高性能化を図った超音波検出システムの開発について述べている。さらに、同一計測点での試料表面の面内と面外の超音波振動の検出が可能なシステムを考案し、その検出原理を述べるとともに、圧電素子より同時に発生する縦波と横波の超音波振動検出の実験によりその機能を実証し、従来では光学系の調整が容易ではない、面内と面外の超音波振動の同一点での計測が、新しい光学系により構成の変更無しにできることを示している。 第5章では、表層微小欠陥を対象とした非接触超音波画像化システムの開発について述べている。まず、第4章で開発された光ヘテロダイン干渉システムを超音波検出に用いる、非接触超音波画像化システムの構成と、試料を動かすことなく画像化を可能にするために考案した2次元レーザービーム走査装置についてその原理を述べている。表層欠陥のモデル試料として長さ1.5mmの刻印により内部欠陥を作った金属板接着試料を用い、試料を2次元平面走査させながら、超音波透過法による画像化実験を行い、モデル試料の内部欠陥を完全に非接触で超音波強度のマッピングにより画像化することに成功している。さらに、2次元レーザービーム走査装置を用いることにより、非接触かつ試料を動かすことなく超音波画像をえることにも成功している。さらに、実際の疲労き裂試験片における深さ0.4mmのき裂の画像化を試み、目視が困難な閉じた表面き裂でもき裂の周りに超音波の干渉縞が生じ画像として非接触検出が可能なことを明らかにしている。 第6章では、第3章の計算法の原理を発展させた、材料の結晶異方性や異種材料の組み合わせに適用可能な3次元超音波シミュレーション法の開発とその超音波材料評価への有効性について述べている。まず、3次元弾性波伝播計算機シミュレーション法の導出原理を示し、本手法の異方性材料や複合材料への適用の可能性について述べている。さらに異方性を有するステンレス柱状晶において、超音波群速度の角度分布の解析解と本手法を用いた超音波伝播の計算結果が良く一致し、さらに超音波伝播の強度分布も同時に可視化可能であることを示している。実際の非破壊評価技術への適用として、クリープボイド量と超音波音速との関係についての定量的な解析や、セラミック繊維強化金属基複合材の繊維のレーザー超音波による画像検出の際の問題点について、本手法によるシミュレーションにより検討を行っている。 第7章では、以上の研究結果を総括するとともに、非破壊材料評価へのレーザー超音波の応用に対する将来への展望を述べている。 以上、本論文では、非破壊材料評価への適用が期待されるレーザー超音波について、基礎計測技術の検討から材料評価のためのシステム開発までを系統的に研究し、レーザー超音波の新しい材料評価手法としての有効性を示している。また、新しい着想に基づく超音波伝播の計算機シミュレーション法も開発することにより、超音波を用いた材料評価の可能性を発展させており、これらの研究は材料研究への寄与が非常に大きいと判断される。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |