本研究は、両生類における中胚葉誘導作用や赤芽球分化誘導因子など多彩な機能を持つ分化調節因子の1つと考えられているactivinが、受精後の初期胚の発育と子宮内膜への着床に対する作用を明らかにすることを目的としている。まず、マウス初期胚を用いて胚培養と着床実験を行って検討し下記の結果を得ている。 1.マウス初期胚の2細胞期胚から胚盤胞までの培養実験では、activinAは1〜100ng/mlの濃度において濃度依存的に2-cell blockを解除し、2細胞期胚を高率に胚盤胞まで発育する効果を持つことを確認した。follistatinをactlvinAと同時に添加するとこの2-cell blockを解除する効果は失われactivinAが2-cell blockを解除する効果はactivinAに特異的な作用であると考えられた。一方follistatinを単独に10,ないし20ng/mlの濃度で添加しても無添加群と差を認めなかった。 2.activinAの8細胞期から胚盤胞までの胚発育に対する作用を検討したところ、activinAを1〜100ng/mlの濃度で添加した各群では8細胞期胚から胚盤胞への発育率は95〜98%であったが、無添加群でも94%が胚盤胞を形成したため、activinAは8細胞期胚から胚盤胞までの胚発育には促進効果をもってはいないものと考えられた。 3.activinAは初期胚の卵割スピードを変化させうるのか、activinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞を、その構成する細胞数を核染色して比較し検討したところ、細胞数に影響は認められなかった。 従ってactivinAは2-cell blockを解除する効果は持つが、卵割スピードは変化させないものと考えられた。 4.activinAが胚盤胞のviabilityに影響を与えうるのか、胚盤胞1個毎に取り込むglucose量を指標として検討したところ、activinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞と対照群の胚盤胞との間に有意差がなかった。各群の胚盤胞を構成する細胞数は同じであることを確認しているので、activinAは胚盤胞のglucose取り込み量を指標とするとviabilityに影響を与えていないものと考えられた。 5.しかしactivinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞と対照群の胚盤胞を偽妊娠雌マウスの子宮に移植して10日後に着床、率を比較したところactivinAの添加濃度の増加とともに着床率が向上する傾向が認められた。activinAの存在下で発育した胚盤胞は着床能が高くなるものと考えられた。 6.胚盤胞が子宮内膜に着床する際の子宮内のactivinAの効果を検討するために、activinA無添加の条件で培養して得られた胚盤胞をactivinA 10ng/mlの培養液とともに移植すると、着床率は向上する傾向を認め、注入する培養液にactivinAと同量のfollistatinを同時に添加したり、follistatinを単独に添加すると着床率は低下した。従ってactivinAは胚盤胞が子宮内膜に着床する時に、促進的に作用するものと考えられた。 最後にマウスやウマでは子宮内膜にactivinA鎖のmRNAが発現していることが報告されているので、ヒトでも同様なことが言えるのか検討し、下記の結果を得ている。 7.ヒトの子宮内膜と胎盤におけるactivinA鎖のmRNAの発現を確認した。activinAは絨毛細胞の分化増殖に関与すると報告されており、ヒトにおいてもactivinAが着床に関与している可能性が示唆された。 以上、本研究によってactivinAがマウス初期胚の2-cell blockを解除する効果を持つと同時に、胚盤胞の着床にも関与することを明らかにした。またヒトの子宮内膜にactivinA鎖のmRNAが発現していることを確認し、ヒトにおいてもactivinAが子宮内膜に発現していることが示唆された。本研究は今後さらなる検討を行うことでactivinAが実際の臨床においても体外受精の胚培養や胚移植に利用できる可能性を示唆するもので学位の授与に値するものと考えられる。 |