学位論文要旨



No 214462
著者(漢字) 島内,昌仁
著者(英字)
著者(カナ) シマウチ,マサヒト
標題(和) アクチビンAの初期胚の発育と着床に対する促進作用に関する研究
標題(洋)
報告番号 214462
報告番号 乙14462
学位授与日 1999.10.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14462号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 橋都,浩平
 東京大学 助教授 山下,直秀
 東京大学 助教授 辻,浩一郎
 東京大学 講師 門脇,孝
内容要旨

 本研究は、activinAの胚に対する作用を明らかにすることを目的とした。まずマウス初期胚を用いて2細胞期胚から胚盤胞までの胚発育に対する作用を検討した。つぎにマウスやウマではactivinAが胚盤胞の着床に関与するという報告があるので、ヒトの子宮内膜と胎盤についてactivinA鎖のmRNAの発現について検討した。

I.実験材料および方法実験1)マウス初期胚の発育に対するアクチビンの作用

 マウスの卵管と子宮からそれぞれ2細胞期胚と胚盤胞(vivo群)を採取し、37℃、5%CO2、95%airの条件下で培養した。培養液にactivinAを1、10、100ng/ml添加した群をそれぞれA1、A10、A100群とし、無添加群をA0群とした。follistatinを10および20ng/ml添加した群をF10群、F20群とした。activinA10ng/mlにfollistatin10ないし20ng/ml同時添加群をA10+F10群、A10+F20群とした。

 1.2細胞期胚を24時間培養後に8細胞期胚形成率を算出し、48時間培養後に胚盤胞形成率を算出した。また8細胞期胚から胚盤胞への移行率を算出した。

 2.胚盤胞を形成する細胞数の測定:各群の胚盤胞を核染色し蛍光顕微鏡でカウントした。

 3.glucose取り込み能の測定:胚盤胞1個あたりのglucose取り込み量を、H3ラベルの2-deoxy-glucoseの取り込み量として測定した。

 4.胚盤胞移植実験:偽妊娠雌マウスの左右子宮角へ胚盤胞を移植し、10日後に着床率を比較した。

 5.胚盤胞移植時の子宮内activinAの着床率への影響について検討:2細胞期胚をactivinA無添加で48時間培養し得られた胚盤胞を、培養液5lと共に移植して10日後に着床率を比較した。無添加群をA0群とし、培養液にactivinA10ng/ml添加群をA10群、follistatin 10ng/ml添加群をF10群とし、同時添加群をA10+F10群とした。

実験2)ヒト子宮内膜および胎盤におけるactivin A mRNAの発現

 1.子宮内膜および胎盤からのmRNA抽出

 同意のもとに得られた子宮内膜と胎盤からmRNAを抽出した。

 2.reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)

 mRNAを逆転写し、cDNA合成後PCRを行った。primerは、5’末端を504-521の18mer、3’末端は946-963の18merを作成し460base pairを増幅する場所に設定した。

 3.電気泳動とバンドの確認

 PCR産物を電気泳動し目的のサイズのバンド(460base pair)を確認した。次にPCR産物をsubcloning後、dideoxy法でcloneの塩基配列を決定し、結果をデーターベースサーチにより解析した。

 実験結果の統計的解析

 student t検定ないし2検定を行い、p<0.05を有意とした。

II.結果実験1)マウス初期胚の発育に対するアクチビンの作用1.8細胞期胚形成率

 A0、A1、A10、A100、A10+F10、A10+F20、F10、F20の各群はそれぞれ38%、54%、57%、63%、44%、40%、37%、40%であり濃度の上昇と共に8細胞期胚形成率は上昇する傾向を示した。A10+F10,およびA10+F20の2群はA10群より有意に低下した。F10、F20群とA0群との間には有意差はなかった。

2.胚盤胞形成率

 A0、A1、A10、A100、A10+F10、A10+F20、F10、E20の各群はそれぞれ36%、53%、56%、60%、43%、37%、32%、30%であり、濃度の上昇とともに胚盤胞形成率も上昇した。follistatin同時添加では、効果が失われたが、F10、F20群とA0群との間には有意差はなかった。

3.8細胞期胚からの胚盤胞形成率

 A0、A1、A10、A100、A10+F10、A10+F20、F10、F20の各群はそれぞれ94%、98%、98%、95%、97%、92%、86%、75%であり各群間に有意差はなかった。

4.胚盤胞を形成する細胞数

 各群の胚盤胞の細胞数は33から35で有意差は認めなかった。卵管内で発育したvivo群は42で他の各群より有意に多かった。

5.胚盤胞の2DG取り込み量

 各群は76-103(fmol/embrio/h)で有意差はなかったが、vivo群は419で他の各群より有意に多かった。

6.着床率

 A0、A1、A10、A100、A10+F10、A10+F20、F10、F20の各群およびvivo群はそれぞれ31%、37%、43%、46%、26%、25%、21%、18%、44%であった。A1群とA100群の間に有意差が認められ、activinAの濃度の上昇とともに着床率が向上する傾向が認められた。A10+F10群とA10+F20群はA10群との間に有意差がないが、両群をまとめた群を作るとA10群との間に有意差が認められた。follistatin同時添加ではactivinAの効果が失われた。

7.胚盤胞移植時の培養液中activinAの着床率への影響

 A0、A10、A10+F10、F10の各群はそれぞれ24%、30%、14%、10%であった。A0群とA10群の間に有意差は認められなかったが、A10群はA10+F10およびF10群より高かった。またA0群とF10群との間にも有意差があり、子宮内にactivinAが存在すると着床率が向上し、follistatinは着床率を低下させた。

 実験2)ヒト子宮内膜および胎盤におけるactivinA鎖mRNAの発現

 子宮内膜と胎盤ともに目的とするactivinA鎖(460base pair)に対応するバンドを認めた。PCR産物をサブクローニングを行った結果、データベースサーチにより既知のヒトactivinA鎖と同一であることを確認した。

III.考察

 実験1においてactivinAが1〜100ng/mlの濃度において濃度依存的に2-cell blockを解除し、2細胞期胚を高率に胚盤胞まで発育することを確認した。follistatinを同時に添加するとこの2-cell blockの解除効果は失われ、activinAに特異的な作用と考えられた。一方follistatinを単独に10,ないし20ng/mlの濃度で添加しても無添加群と差がなかった。未受精卵から胚盤胞に至るまでactivinA鎖のmRNAの発現が報告されているため、2細胞期胚自身がactivinAを産生してautocrine的に作用する可能性も考えられるが、follistatinを単独で添加しても胚発育に影響は認められず、胚自身が産生するactivinAの作用は明らかではなかった。一方、卵管上皮にはA鎖の発現が報告されており、卵管上皮から産生されるactivinAが、胚の発育に関与している可能性が示唆された。activinAの効果は、HCG投与後41〜44時間の2細胞期胚には認められるが、その前後の段階の2細胞期胚では認められないという報告がある。すなわちactivinAの2cell-block解除効果には時間的に有効なwindowがあり、それは2細胞の中期にあたる。本実験ではHCG投与44時間後の2細胞中期胚を用いたので、activinAが有効に作用したものと考えられた。

 activinA添加各群の8細胞期胚形成率とその後の胚盤胞形成率を比較すると、添加各群では8細胞期胚の95〜98%が胚盤胞を形成したが、無添加群でも94%が胚盤胞を形成した。したがってactivinAが8細胞期から胚盤胞までの胚発育に促進効果を持つとは言えない結果となった。activinAが初期胚の卵割スピードを変化させうるとの報告があるので、各群の胚盤胞の細胞数を検討したところ、影響は認められなかった。activinAには2-cell blockの解除効果はあるが、卵割スピードは変化させないと考えられた。

 つぎにactivinAが胚盤胞のviabilityに影響を与えるのか検討した。まずglucoseの取り込み量を指標とした。actiyinA添加群は対照群と有意差がなかった。各群の胚盤胞を構成する細胞数は同じであることを確認しているので、activinAは胚盤胞に影響を与えていないものと考えられた。

 つぎに着床率という観点から検討した。activinAを添加して培養した胚盤胞は着床率が向上した。つぎに子宮内に存在するactivinAの作用について検討した。結果は胚盤胞と共にactivinAを注入すると着床率が向上し、同量のfollistatinを同時に注入するとその効果が失われた。またfollistatinを単独に注入しても着床率は低下した。このことからactivinAが胚盤胞の着床に関与している可能性が示唆された。

 実験2において、ヒトの子宮内膜と胎盤にactivinA鎖のmRNAの発現を確認した。activinAは絨毛細胞の分化増殖に関与すると報告されており、ヒトにおいても着床に関与している可能性が示唆された。

 本研究によってactivinAがマウス初期胚の2-cell blockを解除する効果を持つと同時に、胚盤胞の着床にも関与することが示された。またヒトの子宮内膜にactivinA鎖のmRNAが発現していることが確認された。今後さらなる検討を行うことでactivinAが実際の臨床においても体外受精の胚培養や胚移植に利用できる可能性が示唆されたものと考えられた。

審査要旨

 本研究は、両生類における中胚葉誘導作用や赤芽球分化誘導因子など多彩な機能を持つ分化調節因子の1つと考えられているactivinが、受精後の初期胚の発育と子宮内膜への着床に対する作用を明らかにすることを目的としている。まず、マウス初期胚を用いて胚培養と着床実験を行って検討し下記の結果を得ている。

 1.マウス初期胚の2細胞期胚から胚盤胞までの培養実験では、activinAは1〜100ng/mlの濃度において濃度依存的に2-cell blockを解除し、2細胞期胚を高率に胚盤胞まで発育する効果を持つことを確認した。follistatinをactlvinAと同時に添加するとこの2-cell blockを解除する効果は失われactivinAが2-cell blockを解除する効果はactivinAに特異的な作用であると考えられた。一方follistatinを単独に10,ないし20ng/mlの濃度で添加しても無添加群と差を認めなかった。

 2.activinAの8細胞期から胚盤胞までの胚発育に対する作用を検討したところ、activinAを1〜100ng/mlの濃度で添加した各群では8細胞期胚から胚盤胞への発育率は95〜98%であったが、無添加群でも94%が胚盤胞を形成したため、activinAは8細胞期胚から胚盤胞までの胚発育には促進効果をもってはいないものと考えられた。

 3.activinAは初期胚の卵割スピードを変化させうるのか、activinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞を、その構成する細胞数を核染色して比較し検討したところ、細胞数に影響は認められなかった。

 従ってactivinAは2-cell blockを解除する効果は持つが、卵割スピードは変化させないものと考えられた。

 4.activinAが胚盤胞のviabilityに影響を与えうるのか、胚盤胞1個毎に取り込むglucose量を指標として検討したところ、activinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞と対照群の胚盤胞との間に有意差がなかった。各群の胚盤胞を構成する細胞数は同じであることを確認しているので、activinAは胚盤胞のglucose取り込み量を指標とするとviabilityに影響を与えていないものと考えられた。

 5.しかしactivinAを1〜100ng/mlの濃度で培養液に添加して発育した各群の胚盤胞と対照群の胚盤胞を偽妊娠雌マウスの子宮に移植して10日後に着床、率を比較したところactivinAの添加濃度の増加とともに着床率が向上する傾向が認められた。activinAの存在下で発育した胚盤胞は着床能が高くなるものと考えられた。

 6.胚盤胞が子宮内膜に着床する際の子宮内のactivinAの効果を検討するために、activinA無添加の条件で培養して得られた胚盤胞をactivinA 10ng/mlの培養液とともに移植すると、着床率は向上する傾向を認め、注入する培養液にactivinAと同量のfollistatinを同時に添加したり、follistatinを単独に添加すると着床率は低下した。従ってactivinAは胚盤胞が子宮内膜に着床する時に、促進的に作用するものと考えられた。

 最後にマウスやウマでは子宮内膜にactivinA鎖のmRNAが発現していることが報告されているので、ヒトでも同様なことが言えるのか検討し、下記の結果を得ている。

 7.ヒトの子宮内膜と胎盤におけるactivinA鎖のmRNAの発現を確認した。activinAは絨毛細胞の分化増殖に関与すると報告されており、ヒトにおいてもactivinAが着床に関与している可能性が示唆された。

 以上、本研究によってactivinAがマウス初期胚の2-cell blockを解除する効果を持つと同時に、胚盤胞の着床にも関与することを明らかにした。またヒトの子宮内膜にactivinA鎖のmRNAが発現していることを確認し、ヒトにおいてもactivinAが子宮内膜に発現していることが示唆された。本研究は今後さらなる検討を行うことでactivinAが実際の臨床においても体外受精の胚培養や胚移植に利用できる可能性を示唆するもので学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク