本研究は、視野障害者の自覚的生活不自由度評価を目的とした調査表を開発し、代表的視野障害疾患において、この調査表で評価された視野障害者の自覚的生活不自由度と代表的視野計であるハンフリー自動視野計で測定された部位別視野障害程度との関係を明らかにすることにより、視野障害者の自覚的生活不自由度を反映する部位別視野障害程度に基づく新たな評価法を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.視野障害者の自覚的生活不自由度評価を目的として、生活項目を7項目-単語の読み、文章の読み書き、歩行、交通機関を用いた移動、食事、着衣・整容、その他-に分類した30間からなる自覚的生活不自由度調査表を開発した。 2.開発した調査表で評価された代表的視野障害疾患患者(緑内障、網膜色素変性、ならびにその他の原因疾患による視野障害者)の自覚的生活不自由度と視力、ならびにハンフリー自動視野計による部位別視野障害程度との関係を検討した結果、各疾患における典型的な視野障害形式が異なっているにも関わらず、いずれの疾患群においても、視力データの中では優位眼視力(log10MAR換算)、視野データの中では中心10°以内、殊に5°以内下半視野網膜感度が最も強く自覚的生活不自由度と関係した。 さらに、重回帰分析の結果でも、優位眼視力、非優位眼視力(いずれもlog10MAR換算)、ならびに中心5°以内下半視野網膜感度の3データのみが自覚的生活不自由度に対して有意の関与を示し、得られた重回帰式から予測された自覚的生活不自由度は、調査表の調査結果に基づく実際の自覚的生活不自由度と強く関係した。これらの結果から、視野障害者の自覚的生活不自由度は、原因疾患に関わらず、これら3データによって最も的確に評価されうると考えられた。 そこで、得られた重回帰式に基づき、日常生活上での重要度に応じて重み付けをしたこれら3データから求められる%Loss of visual functionを、視野障害者の自覚的生活不自由度を反映する総合的な視機能障害程度指標として求める評価法を開発した。対象の%Loss of visual functionが調査表の調査結果に基づく実際の自覚的生活不自由度と強く関係したことからも、本評価法は視野障害者の自覚的生活不自由度を反映する総合的な視機能障害程度評価法として極めて有用であると考えられた。 3.現在、我が国における視覚障害者の視機能障害程度評価法として用いられている視覚障害等級が、視野障害者の自覚的生活不自由度を的確に反映する評価法であるか否かを検討した結果、現行の視覚障害等級は、平成7年の基準改正により、上位等級にも新たに視野基準が設定された点ではるかに改善が見られるものの、依然として視野障害者の自覚的生活不自由度を的確に反映する視機能障害程度評価法とは言い難いことが示された。 以上、本論文は、これまで実生活上での不自由度を的確に反映する評価がなされていなかった視野障害者の視機能障害程度をより的確に評価するための評価法として、自覚的生活不自由度を反映する中心5°以内下半視野に基づく新たな視野障害程度評価法を開発した。本研究は、視野障害者の視機能障害程度を的確に評価し、個々の視野障害者に対してquality of lifeの向上を目的とした適切なリハビリテーションを行っていく上で、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。 |