本研究は、非選択制遮断作用、遮断作用、およびニトログリセリン様の血管拡張作用を併せ持つニプラジロールが、緑内障点眼治療薬として臨床応用可能な薬剤であるかどうか調べるために家兎眼および人眼での眼圧下降作用、房水動態における影響を検討し、下記の結果を得ている。 1.ニプラジロール点眼液の家兎眼の眼圧に及ぼす影響を調べた。0.06%、0.125%、0.25%、0.5%ニプラジロール点眼液は、0.06%〜0.25%の濃度で用量依存性の眼圧下降作用を示し、0.25%が最大の眼圧下降作用を示す最低の濃度であった。0.25%ニプラジロール点眼により、薬剤点眼側だけでなく基剤点眼側にも弱い眼圧下降が認められた。また、0.25%ニプラジロール点眼液は、14日間反復点眼しても薬剤耐性は認められず眼圧下降作用は減弱しなかった。0.5%チモロール点眼液と0.25%ニプラジロール点眼液の眼圧下降作用を比較したところ、2剤とも同等の眼圧下降作用が認められた。チモロール点眼液点眼5分後チモロール点眼液を追加点眼したところ、チモロール単回点眼の場合と比較し眼圧下降作用に変化が認められなかったが、チモロール点眼後にニプラジロールを追加点眼した場合、その眼圧下降作用に増強が認められた。 2.ニプラジロール点眼液の家兎眼の房水動態に及ぼす影響をフルオロフォトメトリーを用いて検討した。ニプラジロール点眼後、ニプラジロール点眼側の房水産生量は低下し、更に、uveoscleral outflowが増加することが明らかとなった。房水産生量の低下は、基剤点眼側にも認められた。ニプラジロール点眼により、房水流出率、血液房水柵透過性に変化は認められなかった。以上より、ニプラジロールの眼圧下降作用機序は、房水産生量の減少とuveoscleral outflowの増加であることが示された。 3.ニプラジロール点眼後の視神経乳頭循環に対する影響を、レーザースペックル眼底末梢循環解析装置を用いて計測した。ニプラジロール点眼液1日2回14日間点眼後、ニプラジロール点眼側のNB値は増加し、点眼により視神経乳頭循環が良くなることが示唆された。 4.ニプラジロール点眼液の人眼における眼圧下降作用を検討した。0.06%、0.125%、0.25%、0.5%ニプラジロール点眼液は、有意に点眼側の眼圧を下降させた。最大の眼圧下降作用を示す最低のニプラジロール点眼液の濃度は家兎眼と同様0.25%であった。0.25%ニプラジロール点眼液は、0.5%チモロール点眼液と同等の眼圧下降作用を示した。8日間の反復点眼試験でもニプラジロール点眼液は、実験期間中チモロール点眼液と同等の眼圧下降作用が認められた。また、1、5、8日目ともほぼ全測定時間で有意な眼圧下降作用が認められ、8日間その眼圧下降作用は減弱しなかった。 5.フルオロフォトメトリーを用いて人眼におけるニプラジロール点眼液の眼圧下降機序を検討した。Jones-Maurice II法で算出した房水産生量は、ニプラジロール点眼後、ニプラジロール点眼側で有意に低下した。一方、房水流出率および上強膜静脈圧は変化を来さなかった。得られた実験値からuveoscleral outflowを算出した結果、ニプラジロール点眼によりuveoscleral outflowは増加することが示された。房水蛋白濃度に対してニプラジロール点眼液は増加作用を示したが、前房内蛋白流入係数に影響を及ぼさなかった。これより、ニプラジロール点眼による房水蛋白濃度の増加が血液房水柵の破綻によるものではなく、房水産生量の低下によるものと示唆された。実験1〜3の期間中、ニプラジロール点眼により臨床上問題となるような自覚症状、他覚所見は認められなかった。 以上、本論文は、ニプラジロール点眼液が房水産生量の低下、uveoscleral outflowの増加という2つの機序による充分な眼圧下降作用を有し、家兎眼では視神経乳頭血流を増加させることを明らかにした。本研究は、ニプラジロールが、より進歩した新しい緑内障治療薬となりうることを証明し、この薬剤の臨床応用は緑内障治療に恩恵をもたらすことと思われ、学位授与に値するものと考えられる。 |