学位論文要旨



No 214508
著者(漢字) 八木,ひとみ
著者(英字)
著者(カナ) ヤツキ,ヒトミ
標題(和) ゼノパスアルドラーゼC遺伝子のクローニングとプロモーター解析
標題(洋) Cloning of the Xenopus laevis aldolase C gene and analysis of its promoter function in developing Xenopus embryos and A6 cells
報告番号 214508
報告番号 乙14508
学位授与日 1999.12.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第14508号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 塩川,光一郎
 東京大学 教授 平井,百樹
 東京大学 教授 西郷,薫
 東京大学 教授 雨宮,昭南
 東京大学 助教授 廣野,雅文
内容要旨

 アルドラーゼは解糖系の主要な段階で機能する酵素の一つで、六炭糖と三炭糖の間の開裂・縮合を触媒する。アルドラーゼは高等動物においては脳型(C型)、筋型(A型)、肝型(B型)の三種類のアイソザイムが存在し組織特異的発現を行い、発生・分化に伴って発現の転換を行うことが知られている。ラットとヒトにおいてゲノム遺伝子の解析の結果から、A型ではプロモーターの使い分けが組織特異的にみられ、B型、C型ではプロモーターに結合する組織特異的転写因子により発現が調節されていると報告されている。アフリカツメガエル(ゼノパス)のゲノム構造を解析し、これらと比較することでアイソザイムの組織特異的発現制御を進化的に考察することができると考え、ゼノパスアルドラーゼC遺伝子のゲノム構造と、プロモーター解析を行った。

 ゼノパスにおいてもアルドラーゼはC型、A型、B型の三種類のアイソザイムが存在し組織特異的発現が観察され、それぞれのcDNAがクローニングされている。このC型遺伝子のゲノム構造を調べるためにセノパスの肝臓よりゲノムDNAを調製し、ゲノムライブラリーを作成し、アルドラーゼC型cDNAをプローブとしてスクリーニングを行い、ゲノムクローンを得た。その転写開始点を決定し、転写開始点から上流1.6kbpをふくむ全体のシーケンシングの結果、アルドラーゼC型遺伝子は全長約9.6kb、9コのエキソンで構成されており、プロモーター領域にはゼノパス、ヒト、ラットに共通するGC boxと16bpからなるアルドラーゼC特異的エレメント(ACSE)が存在していた。全体の遺伝子構成、タンパク質をコードする領域の構造は既知のヒト、ラットの脳型遺伝子と同じでよく保存されていたが、制御領域の構造はTATA-1ikeエレメント、CCAAT boxがみられ、GC boxしかみられないヒト、ラットと異なっていた。

 アイソザイムのプロモーターの進化とゼノパスアルドラーゼC遺伝子の転写制御機構を明らかにするために、プロモーター領域の解析を行なった。まず転写開始点上流1.6kbはゼノパスの発生段階においてC型遺伝子の発現制御に充分であるかを調べるために、転写開始点上流1.6kbをCAT遺伝子につないだリポーター遺伝子を構築した。それをゼノパス受精卵に注入し、発生させステージ毎の転写活性を測定した。その結果、実際に観察されたのと同じ発生段階でアルドラーゼCの発現パターンがみられた。またこの1.6kbをlacZを発現するプラスミドに挿入し、カエルの受精卵に注入、発生させ、ステージにおける発現を染色して調べたところ頭部に限定された発現がみられた。以上のことから転写開始点上流1.6kbは発生段階特異的、組織特異的発現を調節するのに充分であると判断した。

 ゼノパスアルドラーゼC遺伝子のシークエンスをコンピューターで解析した結果、転写開始点上流1.6kbまでの領域は正または負の転写制御に関わると予想されるいくつかのシスエレメントを含んでいた。この遺伝子の転写制御にどのエレメントが必須であるかを明らかにするため、この1.6kbのDNA断片の5’側からの欠失断片を作成しCAT遺伝子につないだリポーター遺伝子を構築した。それをゼノパス受精卵に注入またはゼノパス腎臓由来のA6細胞(アルドラーゼC遺伝子を発現している)にトランスフエクションし、それぞれの転写活性を測定した。転写開始点から上流68bpをもつ-68CAT(CAAT、GC、TATA-like box、ACSEを含む)は1.6kbpまでの配列をもつpXAC-CATに比べると受精卵の系で1.7倍の転写活性を示すことから-1,595bpから-68bpの間に転写抑制エレメントが含まれていることが示唆された。A6細胞では転写の抑制はみられなかったが、転写活性は-68CATでも充分に保たれていることから-68までのプロモーター領域があればはアルドラーゼC型遺伝子の発現に充分であることがわかった。

 第1イントロン(4kbp)に転写を調節する領域がないか調べるために、第1イントロンを含んだものと、それが部分的に欠失しているものをCAT遺伝子につなぎ、A6cellにトランスフェクションし、活性を測定したところ、転写活性は第1イントロンのあるなしにかかわらず変化がなかった。

 この68bpに存在するエレメント(GC、CCAT、TATA-like box、ACSE)の機能を明らかにするために、-68CATのそれぞれのエレメントを変異させたものを、A6細胞にトランスフェクションし転写活性を測定した。TATA-1ike boxを変異させたもので60%の減少がみられたがCCAT、ACSEに変異をおこしたものは転写活性に影響を与えなかったのに対し、GC boxを2塩基置換した-68CATGCmは殆ど活性を示さなかった。さらにA6細胞の核抽出液を用いたゲルシフトアッセイ、DNaseIフットプリンティングでGC boxに特異的に結合する核蛋白質因子の存在がみられた。これらのことからゼノパスアルドラーゼC型遺伝子はGC boxに依存する転写様式をとることが明らかになった。

審査要旨

 本論文は1章のみからなり、ゼノパス(アフリカツメガエル)のアルドラーゼC遺伝子のクローニングとそのプロモーター機能の解析結果について述べられている。

 アルドラーゼは解糖系の主要な酵素で、6単糖を3単糖に解裂する働きをもつ。これには高等動物ではC(脳型)、A(筋型)、B(肝型)の3つの遺伝子が知られている。これらは、発生・分化の重要なマーカーとなるので、注目されてきたが、発生系での遺伝子解析はほとんどなされていなかった。

 申請者はゼノパスのC型遺伝子のcDNAクローニングを行う研究において、過去に協力研究者として参加したが、その後、自らそのゲノム遺伝子のクローニングを試み、ほぼ遺伝子の全構造を明らかにすることに成功した。そして、その遺伝子を用い、その基本転写活性を担っている構造に特に注目して解析を進め、本研究を完成させた。

 まづ、ゼノパスの肝臓よりゲノムDNAライブラリーを作製した。つぎに、アルドラーゼCcDNAをプローブとしてスクリーニングを行い、約12KbのDNA断片を得た。その全ヌクレオチド配列および転写開始点を決定し、この遺伝子が全長役9.6Kbで9個のエキソンを含むことを明らかにした。さらに、その5’-上流域1.6Kbの内部構造を種々検討し、重要な転写調節領域として、GCボックスを含むことを明らかにした。

 転写活性の検討は、主として、5’-上流域をCAT遺伝子、または-ガラクトシダーゼ遺伝子に連結し、これらのDNAコンストラクトをゼノプス受精卵またはA6細胞にトランスフェクトする方法を用いた。このような検討の結果、この1.6Kbのプロモーター領域には発生の時期および発現部位を調節するエレメントが含まれていると思われる結果が得られた。そこで、このDNAを5’-側から順次欠失させたDNA断片を作製し、CATレポーターアッセイを行った。その結果、転写開始点から68bpまでの上流域に基本転写活性を調節する重要な領域があることを発見した。この結果は受精卵へのDNA注入実験のみならずA6細胞でのトランスフェクション実験においても確認された。他方で、第一イントロン(4Kbという長いものである)を種々欠失させた遺伝子では、特に活性の変動はなく、このことから、このアルドラーゼC遺伝子の転写活性は主として転写開始点のごく近傍にあるエレメントによって調節されていると考えられた。

 そこで、この領域に注目し、そこの存在するGCボックス,CCATボックス、TATA様ボックス、およびACSE(アルドラーゼC特異的配列)を種々変異させ、その発現活性をA6細胞に於けるトランスフェクションアッセイで検討した。その結果、上にも述べたように、GCボックスの存在が決定的に重要であるという結論に達した。なお、A6細胞の核抽出物を用いたゲルシフトアッセイ、DNaseIを用いたフットプリンティングにより、このGCボックスに特異的に結合する蛋白性の因子が実際にA6細胞の核の中に存在することが示唆された。

 なお、本論文は大内田守、厚地靖雄、向井常博、塩川光一郎、堀勝治との共同研究のかたちで発表されているが、一貫して論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与は充分であると判断される。

 したがって、博士(理学)を授与できると認める。

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