アルドラーゼは解糖系の主要な段階で機能する酵素の一つで、六炭糖と三炭糖の間の開裂・縮合を触媒する。アルドラーゼは高等動物においては脳型(C型)、筋型(A型)、肝型(B型)の三種類のアイソザイムが存在し組織特異的発現を行い、発生・分化に伴って発現の転換を行うことが知られている。ラットとヒトにおいてゲノム遺伝子の解析の結果から、A型ではプロモーターの使い分けが組織特異的にみられ、B型、C型ではプロモーターに結合する組織特異的転写因子により発現が調節されていると報告されている。アフリカツメガエル(ゼノパス)のゲノム構造を解析し、これらと比較することでアイソザイムの組織特異的発現制御を進化的に考察することができると考え、ゼノパスアルドラーゼC遺伝子のゲノム構造と、プロモーター解析を行った。 ゼノパスにおいてもアルドラーゼはC型、A型、B型の三種類のアイソザイムが存在し組織特異的発現が観察され、それぞれのcDNAがクローニングされている。このC型遺伝子のゲノム構造を調べるためにセノパスの肝臓よりゲノムDNAを調製し、ゲノムライブラリーを作成し、アルドラーゼC型cDNAをプローブとしてスクリーニングを行い、ゲノムクローンを得た。その転写開始点を決定し、転写開始点から上流1.6kbpをふくむ全体のシーケンシングの結果、アルドラーゼC型遺伝子は全長約9.6kb、9コのエキソンで構成されており、プロモーター領域にはゼノパス、ヒト、ラットに共通するGC boxと16bpからなるアルドラーゼC特異的エレメント(ACSE)が存在していた。全体の遺伝子構成、タンパク質をコードする領域の構造は既知のヒト、ラットの脳型遺伝子と同じでよく保存されていたが、制御領域の構造はTATA-1ikeエレメント、CCAAT boxがみられ、GC boxしかみられないヒト、ラットと異なっていた。 アイソザイムのプロモーターの進化とゼノパスアルドラーゼC遺伝子の転写制御機構を明らかにするために、プロモーター領域の解析を行なった。まず転写開始点上流1.6kbはゼノパスの発生段階においてC型遺伝子の発現制御に充分であるかを調べるために、転写開始点上流1.6kbをCAT遺伝子につないだリポーター遺伝子を構築した。それをゼノパス受精卵に注入し、発生させステージ毎の転写活性を測定した。その結果、実際に観察されたのと同じ発生段階でアルドラーゼCの発現パターンがみられた。またこの1.6kbをlacZを発現するプラスミドに挿入し、カエルの受精卵に注入、発生させ、ステージにおける発現を染色して調べたところ頭部に限定された発現がみられた。以上のことから転写開始点上流1.6kbは発生段階特異的、組織特異的発現を調節するのに充分であると判断した。 ゼノパスアルドラーゼC遺伝子のシークエンスをコンピューターで解析した結果、転写開始点上流1.6kbまでの領域は正または負の転写制御に関わると予想されるいくつかのシスエレメントを含んでいた。この遺伝子の転写制御にどのエレメントが必須であるかを明らかにするため、この1.6kbのDNA断片の5’側からの欠失断片を作成しCAT遺伝子につないだリポーター遺伝子を構築した。それをゼノパス受精卵に注入またはゼノパス腎臓由来のA6細胞(アルドラーゼC遺伝子を発現している)にトランスフエクションし、それぞれの転写活性を測定した。転写開始点から上流68bpをもつ-68CAT(CAAT、GC、TATA-like box、ACSEを含む)は1.6kbpまでの配列をもつpXAC-CATに比べると受精卵の系で1.7倍の転写活性を示すことから-1,595bpから-68bpの間に転写抑制エレメントが含まれていることが示唆された。A6細胞では転写の抑制はみられなかったが、転写活性は-68CATでも充分に保たれていることから-68までのプロモーター領域があればはアルドラーゼC型遺伝子の発現に充分であることがわかった。 第1イントロン(4kbp)に転写を調節する領域がないか調べるために、第1イントロンを含んだものと、それが部分的に欠失しているものをCAT遺伝子につなぎ、A6cellにトランスフェクションし、活性を測定したところ、転写活性は第1イントロンのあるなしにかかわらず変化がなかった。 この68bpに存在するエレメント(GC、CCAT、TATA-like box、ACSE)の機能を明らかにするために、-68CATのそれぞれのエレメントを変異させたものを、A6細胞にトランスフェクションし転写活性を測定した。TATA-1ike boxを変異させたもので60%の減少がみられたがCCAT、ACSEに変異をおこしたものは転写活性に影響を与えなかったのに対し、GC boxを2塩基置換した-68CATGCmは殆ど活性を示さなかった。さらにA6細胞の核抽出液を用いたゲルシフトアッセイ、DNaseIフットプリンティングでGC boxに特異的に結合する核蛋白質因子の存在がみられた。これらのことからゼノパスアルドラーゼC型遺伝子はGC boxに依存する転写様式をとることが明らかになった。 |