学位論文要旨



No 214517
著者(漢字) 星地,亜都司
著者(英字)
著者(カナ) セイチ,アツシ
標題(和) 転移性脊椎腫瘍に対する術中照射療法
標題(洋)
報告番号 214517
報告番号 乙14517
学位授与日 1999.12.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14517号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 教授 花岡,一雄
 東京大学 助教授 齋藤,英昭
 東京大学 助教授 郭,伸
 東京大学 講師 五嶋,孝博
内容要旨

 【目的】転移性脊椎腫瘍患者36名に対し、新たに術中電子線照射療法を施行し、良好な成績を得た。その方法と結果を報告する。

 【研究の背景】従来、転移性脊椎腫瘍に対する治療法として外部分割照射が第一選択として行われてきた。脊髄性麻痺が急激に進行している場合や脊椎不安定性が強い場合、あるいは外部照射後の局所再発の場合には、全身状態が許されれば、手術療法が選択されてきた。手術治療においては、脊椎の解剖上の特殊性から腫瘍切除不十分となる。そのため局所再発が問題となる。著者は、転移性脊椎腫瘍の局所制御向上を目的として病巣に開創照射を行う方法を応用した。本法は、健常部を保護し、病巣のみに大線量を照射することにより従来の治療法の限界を打破しようとしたものである。

 【対象および方法】脊椎に術中照射を行う際に最も問題となるのは、脊髄被爆を回避することである。照射筒出口に鉛板のシールドを用いてこの問題の解決を計った(図)。使用線源として、病巣の深さに適したエネルギーを選択できる電子線を使用した。術中照射線量は約20Gyとした。転移性脊椎腫瘍患者38名(男22名、女16名。手術時年齢40-84歳、平均61歳)に術中照射療法を計画した。原発部位は、肺癌9名、腎癌5名、乳癌4名、前立腺癌3名、甲状腺癌3名、大腸癌3名、子宮癌3名、咽頭癌2名、その他6名であった。術前後の疼痛、麻痺の評価、単純X線写真、MR1による画像の評価を最終経過観察時まで行った。

図表

 【結果】術中照射を予定した38名中2名で、術中、腫瘍からの出血のために血圧低下をきたし照射を断念した。術中照射を施行できた36名中34名で最終経過まで追跡可能であった。うち27名が術後1ヶ月から45ヶ月(平均12.8ヶ月)で死亡した。死因はすべて癌であった。7名が生存しており、術後経過期間は16ヶ月から54ヶ月(平均30ヶ月)である。全例において、術中照射による副作用は認められなかった。疼痛および麻痺はほぼ全例で改善した。死亡例生存例ともに臨床上および画像上、局所再発は1例もなく、良好な局所コントロールが得られ、当初のねらいが達成できた。

 【考察】担癌患者に脊椎転移が生じた場合、局所を治癒させることにより疼痛や麻痺から患者を救い、QOL向上につながる。術中照射療法は、この目的に大きく寄与しうる治療法である。すでに外部照射を受け反復外部照射施行不能である例にも使用できる、という特徴を有しており、外部照射に感受性の良くない腫瘍の治療にも応用できる。今後、転移性脊椎腫瘍治療の際の大きな武器になりうる。

審査要旨

 本研究は転移性脊椎腫瘍患者に手術を行った場合、局所制御率向上のために術中電子線照射併用療法が有効であることを初めて報告したものである。以下のような結果を得ている。

 1、照射筒出口に鉛板を設置することで、脊髄を被爆から保護でき、病巣部に直接1回大線量照射ができることをシミュレーションにて示した。

 2.転移性脊椎腫瘍は外科治療のみでは局所根治的な切除ができないため局所再発の点で治療効果に限界がある。放射線療法単独でも放射線抵抗性腫瘍に対する有効性の限界、既に照射を施行後に再発した症例に使用できないという限界がある。また放射線治療では急速に脊髄性麻痺が進行している症例では麻痺を救えないという限界がある。本研究においては、手術による腫瘍mass reductionと残存腫瘍への術中電子線約20グレイの照射療法を組み合わせる方法を36例に臨床応用し、局所再発の有無をMRIにて追跡調査を行った。その結果、局所再発例がなく良好な局所制御を得られていた。脊髄性の麻痺の改善や除痛効果の点でも有効であった。また重篤な副作用もみられなかった。

 以上、本論文は、術中照射療法が転移性脊椎腫瘍の治療成績を向上させうる新しい方法であることを示したものであり、今後、脊推転移患者のQuolity of life向上に貢献しうるものであるので、学位の授与に値するものと考えられる。

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