本研究は,近年helical CTの普及と共に発展してきたvirtual endoscopyの技術が持つ欠点(周囲の情報がわからない、病変の色調がわからない、液体貯留に隠れた病変が見えない、など)のいくつかを克服し、実際の消化管病変の画像診断にさらに役立てるため、virtual endoscopyの画像とその視方ベクトルに直交するMPR画像をほぼリアルタイムに合成するソフトウェアを新しく開発し、胃疾患の診断における最適撮像条件、臨床上の有用性について検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.通常のvirtual endoscopyの画像において、深さを規定することにより、視点のある位置を起点とする視方ベクトル(navigation方向のベクトル)が定められ、さらに視野径を規定することで、視方ベクトルに対し直交し始点を中心とした円を底面とする円柱が空間を削り込む形で取り除かれる。それにより円柱内のvirtual endoscopyの表面画像が除去され、表面画像が円柱の前方の底面と交わる境界の外側に視方ベクトルに直交したMPR画像を張り付けるという新しいソフトウェアを開発し、Computed Sectional Probe(CSP)法と呼ぶことにした。また、視方ベクトルに直交する形の3方向のMPR画像も得られるように改良しSynchronized Reference Images(SRI)と名づけた。 2.撮像の最適条件を決定するため、櫛型ファントームとポリープ型ファントームを試作し、5種類のスライス厚・ピッチの組み合わせにより撮像した。その結果、臨床の場における胃疾患の撮像には、3mm厚、1.5ピッチが最適と考えられた。 3.上記の結果から実際のCT検査では、胃を発泡剤で膨らませた後、経静脈的に造影剤を注射しながら、helical modeを用い、スライス厚3mm、1.5ピッチで、一呼吸停止下にスキャンした。CSP法のためにFOVを縮小し、detail algorithmにて1.5mm間隔で画像再構成を行い、胃病変の有無・その質的診断、胃癌と考えられた場合は肉眼分類・深達度の判定を行い、確定診断と比較した。CSP法の処理時間は1症例につき平均28分であった。 4.内視鏡または上部消化管透視にて胃疾患の疑われた60症例(胃癌46病変、良性潰瘍5病変、良性ポリープ2病変、胃炎2症例、粘膜下腫瘍5病変、胃静脈瘤2症例、悪性リンパ腫2病変、胃外性圧迫3症例)に対してCT検査を行ないCSP法を用いたところ、胃病変の検出率・質的診断に関し、早期胃癌・良性潰瘍を除いて100%の正診率を得た。また、病期診断の確定した胃癌41病変において肉眼病理学的分類との一致率86%(進行胃癌)及び59%(早期胃癌)、深達度診断の正診率54%、検出できた32病変での深達度診断の正診率69%、T-stagingの正診率78%を得た。 以上、本論文はvirtual endoscopyとMPR画像を組み合わせたCSP法を開発し、粘膜面の表面画像情報と断層増による深部の情報を同時に表示するという特徴から、CSP法が胃疾患の存在診断・鑑別診断・胃癌の病期診断に有用であることを明らかにした。本研究により開発されたCSP法は、胃癌の診断において従来の内視鏡と超音波内視鏡の中間に位置する情報を提供してくれる検査法たりうると考えられ、胃癌の術前診断のみならず、大腸・気道・側頭骨・血管・尿路など他の部位にも応用可能で3次元画像診断全体に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられた。 |