学位論文要旨



No 214556
著者(漢字) 梅澤,忠雄
著者(英字)
著者(カナ) ウメザワ,タダオ
標題(和) 「コンベンション都市戦略論」 : コンベンション都市とは何か。どのような背景からコンベンション都市へと変身してしいくのか。戦略的にコンベンション都市をつくり出す方法論はいかなるものかを解明する。
標題(洋)
報告番号 214556
報告番号 乙14556
学位授与日 2000.02.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14556号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 森地,茂
 東京大学 教授 篠原,修
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京工業大学 教授 渡辺,貴介
内容要旨 情報化時代の都市計画としてのコンベンション都市戦略

 情報化と世界化が一般化したいわゆる情報化時代の中で都市をある価値に向かって誘導したり、そのプロセスを制御したりすることが出来るという観点があるとすれば、それを情報化時代の都市計画と呼ぶことが出来るであろう。従来の即物的かつスタティックな都市計画論に対し、論者はこのような認識に立ち情報都市を情報を媒介にダイナミックに制御誘導し、形成成長させていくことが可能であり、その方法論の確立が重要であり、それが今後確立されるべき都市計画論であると考え、過去30年間の間の与えられた都市計画の実践の中で、仮説構築、実験的展開、結果の分析を繰り返した。その仮説的都市計画論をコンベンション都市戦略論として、ここに展開を試みんとするものである。

大交流時代の到来とコンベンション都市の一般化

 1970年代初頭のジャンボジェットの就航以来、世界はいわゆる大交流時代へと大きく変革の歩を進めた。世界中の、特に先進国の市民やビジネスマン、学者、その他あらゆるジャンルの人々にとって誰も思いついた時に、世界のどこへでも行って、どういう人とも会って意見交換が出来る状況が作り出された。この状況は、その後の30年間驚異的なスピードで進展した。いわゆるフェイスツーフェイスの情報交換の大規模な一般化ということである。このことはテレビが社会にもたらした効果、はたまた現代の通信衛星、パソコン、インターネットが社会にもたらした効果以上の大きな変化をもたらした。人々が思考法や価値観のみならず、ライフスタイルやビジネスのスタイルを大きく変革することになった。解決すべき課題やテーマがあれば、それに関係した人々が世界中から集まって一堂に会する、そして議論をし、解決案を共有し、散会するといったことがいわゆるコンベンションと呼ばれるビジネス様式として確立してきた。先進国サミットに代表にされるような世界の枢要人物10人(随行やプレスを含めれば1万人規模)といったような超高集約度のものから、エイズ対策のための世界会議のような10万人規模のもの、コンピューター業界のように裾野の広い業界を背景にした30万人規模のコムデックス(コンピューター・ディーラーズ・エクスポジション)のような大規模トレードショー、自動車ショーのように一般消費者も巻き込んだ100万人〜200万人規模のパプリックショーに至るまで、多様な展開が見られるようになった。そのようなコンベンションの開催を受けとめる施設としてのコンベンションセンターの概念も確立し、巨大なコンベンションセンターを持ち、恒常的にコンベンション開催をすることによって、それをその都市の経済活動の中心に据えるコンベンション都市が確立してきた。

情報創造マシーンとしてのコンベンション

 情報化時代は社会による情報消費のされ方が著しく早い。そしてその情報消費のスピードが年々加速されている。情報は常に大量に消費されてしまうので、新しい情報が次々と創造されなければならない。情報創造のマスプロ化、計画化が必要とされてくる。それが理論的に可能か、計画的に情報創造などということが都合よくできるか、という議論は常に課題として残っているが、とりあえずあるテーマについてその世界の枢要な関係者が集まり交流するコンベンションという様式は有力な情報創造の手段であることは経験的にわかってきた。コンベンションの情報創造に果たす役割への認識は着実に定着してきた。コンベンションの情報生産性を高める新ノウハウの開発も次々となされた。より精密な情報創造マシーンとしてコンベンションが確立し、それを支える新たなプロフェッショナルやスペシャリストたちの存在がクローズアップされるようになった。また併行してプロフェッショナルとしてのコンベンション都市の存在が浮かび上がってきた。

観光を補完し、観光を凌ぐまでになったコンベンション

 コンベンションが開催され、コンベンションに参加する大勢の客がその都市を訪れる。彼らは張りつめた学会、会議、商談の少しの間や、あるいは、その後に解放された気分になりたいがために、ダウンタウンの魅力スポットを訪れたり、開催地周辺の観光地に繰り出す。いゎゆるアフターコンベンションである。ドイツのハノーバー・、メッセのような巨大メッセ周辺の観光地は、それだけで1年分の稼ぎをするとまで言われている。観光地のハイシーズンにコンベンション開催期間がぶつかっては観光地はせっかくの商機を失うことにもなりがねない。本来の観光地のオフシーズンにコンベンション開催期間をセットするという知恵が生まれる。この関係、つまり観光が先か、コンベンションが先かという関係を突き詰めていくと、コンベンショシ客が一般観光客よりはるかに客単価が高い、つまりコンベンション客一人当たり消費額は一般観光客のそれの10倍程になるという事実が重要な意味持ってくる。つまり、主導権が徐々にコンベンションにとられてきているのである。こういった議論とその経験からコンベンションが周年フル稼動し、観光を潤す役割を持つというところにまで立ち至るのである。

新産業、新ビジネス創造のるつぼとしてのコンベンション

 多くの大規模なコンベンションが時代の価値を先取りし、新ビジネスや新産業がそこから生まれ出る新産業創造のるつぼとしての機能をはっきりと持ちはじめてきた。新ビジネスにありつきたい人はそれ故、自分に関心のあるコンベンションには必ず参加して、その業界の動きやトレンドを知り、そこを支えている人々と知己を得ようとする。アメリカ経済の再生にコンベンションが極めて重要な役割を果たしてきたことは、周知の事実なのである。事実コンベンションの一つのサービスとして、有料でどんな人とでも対等な形で引き合わせるというビジネスが存在しているのである。ベンチャー企業の社長の中には、大学生はおろか、高校生、中学生もいる。そんな社長たちが三つ揃いのスーツを着てエスタブリッシュされた老舗の世界企業の社長と全く対等に握手をし商談をする。そして対等にブースを設けて頑張っているところはさすがである。

新ノウハウ確立、新職能の確立

 1970年代後半から始まった、アメリカを中心としたコンベンションのフィーバーは、今や世界的なものとなっている。世界のどの都市もコンベンションを抜きに語られることはない。アジアやヨーロッパ、あるいはオセアニアもアメリカが開発してきたコンベンションのノウハウ導入に余念がない。コンベンションセンターといった巨大施設の設計や運営や資金調達、そしてリスクマネージメントのノウハウも確立してきた。どういう性格のどういうねらいを持ったコンベンション都市を目指すのかといったコンベンション都市戦略も多様な事例が出そろって、それぞれが極めて高い魅力を備え競い合っている。コンベンション産業も裾野が広がってきた。どの都市の行政当局も、商工会議所も議会も自らの都市を、コンベンション都市としてどのように性格付けていくかの議論に余念がなく、強力なコンベンション・ビューローづくりにまい進している。スペシャリストとしてのコンベンション・プランナーやコンベンション・オーガナイザーという高度な知的職能も大きく育ってきている。

コンベンション都市の戦略的展開ノウハウの確立

 コンベンション都市戦略はその知識集約度が大いに高まってきている。アメリカを見ると、リゾート都市の強化をコンベンションではかろうとするもの、ハイテク都市強化のための布石としてのコンベンション都市化、メディカル産業都市強化あるいはバイオ産業都市強化のためのコンベンション都市化等、多様な展開が見られる。ヨーロッパを見ると、EU統合といった歴史的経済地理の激変という大混乱の中で、どのように各都市が生き残るかといった、サバイバルゲームが展開されているがその中でコンベンションのノウハウが枢要な位置を占めている。アジアを見るとシンガポールや香港、あるいはマレーシアのように、コンベンションを国家経済戦略に据えて成功をおさめているところも出てきている。

日本における実験的展開・幕張メッセ

 幕張メッセの登場は、欧米の先進コンベンション関係者を驚かしめた。コンベンションを中心に、数兆円規模の民間投資を集結した新都心をわずか5年足らずの短時日に立ち上げるということは論者の独自の仮説であり、理論であり、戦略である。コンベンションを日本の新しい都市づくりのトレンドにし、コンベンションセンターの資金調達の新しい法律である民活法づくりもしてきた。それらの全プロセスを通して見聞きし、考察してきたこと、事業の実現プロセスのレビューから得られたことも整理した。

審査要旨

 本論文は、我が国の都市が激しい情報化と世界化といった時代の流れの変化の中で、その流れに適応していくための都市計画上の具体的方法論として「コンベンション都市戦略」が極めて有効であるという視点を提起し、かつまたそれを具体の都市開発事業に適用しそれを大きな成功に導くことにより、その理論の有効性を実証的に分析したものである。我が国の多くの都市は、従来、製造業とその製品の流通を背景として成長してきた。しかし、産業構造転換、世界化、情報化という激しく急速な時代変化の中で、各都市をどのように導き計画すべきか、都市間競争の中で生き残れというがそれには何をすべきなのか、都市の情報発信力を高めよとはどうすればよいということなのか、世界都市であれと言うがどうすればそうなれるのか、といった重要かつ本質的な課題をつきつけられている。そのような課題を前にして、本論文は現代必要とされている都市計画上の解として「コンベンション都市戦略」があるという認識を示し、その効果と実現の方法論を検証している。

 それぞれの都市が情報化の中で活力を持って生き延びていくために、コンベンションの重大性と本質を理解し、個性的なコンベンション都市へと変質していかなければならず、それによってそれぞれの都市が情報生産、情報創造をする能力を高め、ダイナミックさを取り戻しうるのであることを提起している。そのプロセスをコンベンション都市化と定義付けている。またそのための新しい都市施設としてのコンベンションセンターの具体像を示している。また国や自治体がこの情報化時代に向けたそれぞれの都市の変身を手助けすべきことも指摘している。現代の情報化社会にあってコンベンションということを最も良く理解し、巧みにそれを用いれば、巨大な新都市を短期間で立ち上げることすらも可能であり、幕張メッセと幕張新都心が世界でも初めてのその実験事例であるとして、コンベンション都市戦略論の有効性を示している。

 以下に本研究の概要を示す。まず、欧米で多くの試行錯誤の中から生まれてきたコンベンションとコンベンション都市、そしてコンベンション都市戦略が、情報化時代とどのような関係において重要な意味を持つのかを整理し理論化している。特にそれぞれの都市がコンベンション都市への変身をたどった系譜とコンベンション都市の多様性を鳥瞰しつつ、それらを貫く原理を追求し、その一般化を行っている。またコンベンションを都市にとっての有効性のサイドからだけでなく一つの巨大な新産業、コンベンションインダストリーの創造プロセスとしても捉えている。そして世界的なコンベンション都市化の動きとこのコンベンション産業の拡大とが相呼応している状況を解明している。特にコンベンション産業の潜在需要が極めて巨大であるため、コンベンション都市化や巨大コンベンションセンターの建設を積極的に推し進めても施設利用の需要不足に陥ることは本質的にはないことも指摘している。さらに、日本における潜在需要は既に顕在化している需要の10倍と見積もれるという状況にあることを示している。次に、巨大施設であり、また自動車型施設であると同時に人間型施設でもあるという双方の性格を有し、そして急速な成長(施設拡大)を要するといった、新しいタイプの都市施設としてのコンベンションセンターの計画、建設、運営方法について述べている。また、巨額の整備費を要する施設であるが、都市にとっての経済効果が充分期待し得るものであることを実証例で示している。最後に、以上で得られた知見を、具体的に、幕張メッセとそれを核に据えた幕張新都心の短時日での立ち上げに応用した際のプロセスと、その成果を示している。

 以上をもって「コンベンション都市戦略」というコンセプトが今後充分に一般性を持ち有効性があることを実証している。これによって情報化時代の都市計画の方向性について、一つの有効なあり方を示したといえる。

 以下に本研究により得られた主な知見を示す。

 1)世界中の活発な都市の多くは、情報化と世界化の流れをいち早く察知し変身のプログラムを展開しているが、その多くがコンベンションという概念を軸に据えていると言える。それぞれの都市の過去と未来を投影して多様な個性をもったコンベンション都市のデザインが可能となっている。それゆえに多くのコンベンション都市の共存が可能となっている。

 2)コンベンションセンターやコンベンション都市を使って繰り広げられるコンベンションという場が情報創造の場、新ビジネス創造の場となっており、情報化時代の進展とともにいよいよその重要性を増し規模の拡大を見るに到っている。情報化と新ビジネス創造といった2点で大きく先進国の中で出遅れてしまった日本の経済と都市の再生にとってコンベンション都市戦略は極めて重要であると考えられる。

 3)幕張メッセは、このような認識に基づいて日本で初めてつくられた世界水準をリードするコンベンションセンターであった。このような施設が新たな需要創造効果をもたらすことも立証された。また都市間競争の意識を強く刺激し、東京ビッグサイトや東京フォーラム、横浜MM21の国際会議場や展示場、埼玉アリーナといったコンベンション施設ラッシュをもたらすことも立証された。

 4)特に幕張メッセでは、それを核に新都市を一気に短時日に建ち上げるというプログラムの有効性が立証された。幕張メッセというトリガー(引き金)プロジェクト、つまり460億円の公的な先行プロジェクトによって1兆6000億円の民間投資プロジェクトが誘発されたことになる。コンベンションセンターの情報発信力が情報化時代の都市づくりにいかに有用であるかが明らかになった。

 以上の成果は、コンベンション都市という新たな都市開発の方法論と実績を多面的に分析するとともに、特に著者自らが主体的に関与した幕張メッセの事例を中心にして、その実効性と実現化方策をとりまとめたものであり、現代の都市計画論として極めて有益な知見といえる。以上より、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク