本論文は、我が国の都市が激しい情報化と世界化といった時代の流れの変化の中で、その流れに適応していくための都市計画上の具体的方法論として「コンベンション都市戦略」が極めて有効であるという視点を提起し、かつまたそれを具体の都市開発事業に適用しそれを大きな成功に導くことにより、その理論の有効性を実証的に分析したものである。我が国の多くの都市は、従来、製造業とその製品の流通を背景として成長してきた。しかし、産業構造転換、世界化、情報化という激しく急速な時代変化の中で、各都市をどのように導き計画すべきか、都市間競争の中で生き残れというがそれには何をすべきなのか、都市の情報発信力を高めよとはどうすればよいということなのか、世界都市であれと言うがどうすればそうなれるのか、といった重要かつ本質的な課題をつきつけられている。そのような課題を前にして、本論文は現代必要とされている都市計画上の解として「コンベンション都市戦略」があるという認識を示し、その効果と実現の方法論を検証している。 それぞれの都市が情報化の中で活力を持って生き延びていくために、コンベンションの重大性と本質を理解し、個性的なコンベンション都市へと変質していかなければならず、それによってそれぞれの都市が情報生産、情報創造をする能力を高め、ダイナミックさを取り戻しうるのであることを提起している。そのプロセスをコンベンション都市化と定義付けている。またそのための新しい都市施設としてのコンベンションセンターの具体像を示している。また国や自治体がこの情報化時代に向けたそれぞれの都市の変身を手助けすべきことも指摘している。現代の情報化社会にあってコンベンションということを最も良く理解し、巧みにそれを用いれば、巨大な新都市を短期間で立ち上げることすらも可能であり、幕張メッセと幕張新都心が世界でも初めてのその実験事例であるとして、コンベンション都市戦略論の有効性を示している。 以下に本研究の概要を示す。まず、欧米で多くの試行錯誤の中から生まれてきたコンベンションとコンベンション都市、そしてコンベンション都市戦略が、情報化時代とどのような関係において重要な意味を持つのかを整理し理論化している。特にそれぞれの都市がコンベンション都市への変身をたどった系譜とコンベンション都市の多様性を鳥瞰しつつ、それらを貫く原理を追求し、その一般化を行っている。またコンベンションを都市にとっての有効性のサイドからだけでなく一つの巨大な新産業、コンベンションインダストリーの創造プロセスとしても捉えている。そして世界的なコンベンション都市化の動きとこのコンベンション産業の拡大とが相呼応している状況を解明している。特にコンベンション産業の潜在需要が極めて巨大であるため、コンベンション都市化や巨大コンベンションセンターの建設を積極的に推し進めても施設利用の需要不足に陥ることは本質的にはないことも指摘している。さらに、日本における潜在需要は既に顕在化している需要の10倍と見積もれるという状況にあることを示している。次に、巨大施設であり、また自動車型施設であると同時に人間型施設でもあるという双方の性格を有し、そして急速な成長(施設拡大)を要するといった、新しいタイプの都市施設としてのコンベンションセンターの計画、建設、運営方法について述べている。また、巨額の整備費を要する施設であるが、都市にとっての経済効果が充分期待し得るものであることを実証例で示している。最後に、以上で得られた知見を、具体的に、幕張メッセとそれを核に据えた幕張新都心の短時日での立ち上げに応用した際のプロセスと、その成果を示している。 以上をもって「コンベンション都市戦略」というコンセプトが今後充分に一般性を持ち有効性があることを実証している。これによって情報化時代の都市計画の方向性について、一つの有効なあり方を示したといえる。 以下に本研究により得られた主な知見を示す。 1)世界中の活発な都市の多くは、情報化と世界化の流れをいち早く察知し変身のプログラムを展開しているが、その多くがコンベンションという概念を軸に据えていると言える。それぞれの都市の過去と未来を投影して多様な個性をもったコンベンション都市のデザインが可能となっている。それゆえに多くのコンベンション都市の共存が可能となっている。 2)コンベンションセンターやコンベンション都市を使って繰り広げられるコンベンションという場が情報創造の場、新ビジネス創造の場となっており、情報化時代の進展とともにいよいよその重要性を増し規模の拡大を見るに到っている。情報化と新ビジネス創造といった2点で大きく先進国の中で出遅れてしまった日本の経済と都市の再生にとってコンベンション都市戦略は極めて重要であると考えられる。 3)幕張メッセは、このような認識に基づいて日本で初めてつくられた世界水準をリードするコンベンションセンターであった。このような施設が新たな需要創造効果をもたらすことも立証された。また都市間競争の意識を強く刺激し、東京ビッグサイトや東京フォーラム、横浜MM21の国際会議場や展示場、埼玉アリーナといったコンベンション施設ラッシュをもたらすことも立証された。 4)特に幕張メッセでは、それを核に新都市を一気に短時日に建ち上げるというプログラムの有効性が立証された。幕張メッセというトリガー(引き金)プロジェクト、つまり460億円の公的な先行プロジェクトによって1兆6000億円の民間投資プロジェクトが誘発されたことになる。コンベンションセンターの情報発信力が情報化時代の都市づくりにいかに有用であるかが明らかになった。 以上の成果は、コンベンション都市という新たな都市開発の方法論と実績を多面的に分析するとともに、特に著者自らが主体的に関与した幕張メッセの事例を中心にして、その実効性と実現化方策をとりまとめたものであり、現代の都市計画論として極めて有益な知見といえる。以上より、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |