近年、人々が社会資本整備に求めるものとして、潤いのある生活環境の整備があり、その一つに都市水域の水質保全がある。都市水域の水質保全のために実施している現在の下水道整備は、分流式下水道が中心である。分流式下水道においては、都市域から流出する雨水、すなわち都市雨水は、未処理のまま放流されている。近年、都市雨水が清澄な水ではなく、とくに降雨の初期には著しく汚濁していることが指摘されている。 本論文は、分流式下水道で整備された都市域を対象に、都市雨水による汚濁負荷の流出特性を定量的に明らかにし、さらに都市雨水による汚濁負荷が原因となる水質汚濁の対策についての研究をとりまとめたものである。対象とした汚濁負荷は主としてBODとCODであるが、汚濁負荷流出の特性に関してはさらにSSも対象とした。 都市雨水による汚濁負荷流出特性に関しては、実験斜面を対象にした人工降雨による塩化ナトリウムの流出実験、および屋根、道路を対象とした人工降雨によるBOD、COD、SS負荷の流出実験の結果から次のことが明らかとなった。 汚濁負荷が比較的一様な流送特性を持つ物質から構成される場合には、「汚濁負荷の流出量は堆積負荷量に比例する」というSartor & Boyd仮定が適用できる。しかしながら、屋根および道路のように、汚濁負荷が多様な流送特性を持つ物質から構成される場合には、汚濁負荷の流出量は堆積負荷量に比例せず、堆積負荷量の累乗に比例する特性がある。すなわち、屋根および道路からのBOD、COD、SS負荷の流出量は、次式で予測することができる。 ここに、PT:異なる流送特性を持つ物質から構成される汚濁負荷の総堆積量[g]、kT:異なる流送特性を持つ物質から構成される汚濁負荷の負荷流出係数、m:定数(m>1、) 都市雨水による汚濁負荷流出特性に関する研究として、さらに、分流式下水道区域からの雨水量および汚濁負荷流出量の観測、観測結果の解析を行い、都市雨水による汚濁負荷の流出量予測式として次式を提案し、検証した。 ここに、KT:負荷流出係数、PT:流域堆積負荷量[g]、Q:雨水量[m3/s]、m:定数(BOD,CODではm=2、SSではm=1)、n:定数(BOD,CODではn=1、SSではn=1.3) ただし、(2)式は経験式であり、流域堆積負荷量の次元は[g]、雨水量の次元は[m3/s]である。また、負荷流出係数及び定数m、nは無次元である。 都市雨水による汚濁負荷が原因となる水質汚濁の対策についれは、先ず、降雨データから雨水量を予測し、雨水量から汚濁負荷流出量を予測するモデルを開発した。すなわち、降雨データから雨水量を予測する方法としては修正RRL法を用い、雨水量から汚濁負荷流出量を予測する方法としては(2)式を用い、それらを組み合わせて用いることにより、分流式下水道区域からの都市雨水による年間汚濁負荷流出量を予測する方法を提案した。 さらに、都市雨水による汚濁負荷の流出量を削減する対策案の効果予測を行うため、修正RRL法の有効降雨モデルを改良し、また、一定の条件を満たす雨水量と汚濁負荷流出量の累積値を計算することにより、雨水浸透、雨水の現地貯留、雨水の一時貯留・処理の各汚濁対策案の汚濁負荷流出量削減効果を予測するモデルを提案し、検証した。 分流式下水道区域からの都市雨水による汚濁負荷の流出に対して、本研究で得られた知見からの提言をまとめると次のようになる。 現時点で、都市雨水による水質汚濁の対策として最も効果的な方法は、降雨初期に流出する初期雨水を一時的に貯留し、貯留した雨水を降雨後に処理施設に送水し、処理する方法である。さらに、屋根排水等の浸透や現地貯留も同時に行えば、初期雨水を貯留する施設容量や処理する施設容量は小さくて済み、対策の効果・経済性が向上する。現在、わが国には分流式下水道の雨水による汚濁を防止する目的で作られた施設はないが、本研究で開発した、都市雨水による汚濁負荷流出の対策効果予測モデルを適用すれば、個々の対策の効果を事前に予測することが可能となり、分流式下水道区域からの都市雨水による汚濁に対して、最も効果的な水質汚濁防止計画を策定することが可能となる。 |