近来造船工場の生産管理については、設計、工作両面のコンピュータ化への動きに合わせ、当然システム化への動きが進展してきている。然し長い間試みられてきている割には、システム実用化は造船所によって多少差はあるが、全般に適用の範囲は部分的にとどまっている。 全面実用化が実現しない理由として、且って、(社)日本造船学会システム技術委員会が、システム化の問題点として次の4点をあげた。それがそのまま今日適用すると考えてもよい、というのが現状である。 (1)作業量の把握に必要な管理量の集計に多くの労力と時間を要し、しかも出図のタイミングが合わず、計画時点に間に合わない場合が生じる。 (2)手作業のために十分なシミュレイションが行われず、精度の高い計画が作成出来ない。 (3)日程計画の作成が、計画担当者個人の経験能力によるところが多く、標準的な計画になり難い。 (4)線表などの大日程の変更に対し、各工程の迅速な対応が難しい。また、各工程の変動をタイミング良く日程計画に反映する事が難しい。 なぜこの様にシステム化の進展が手間どっているか考えてみると、造船工場の生産管理は一見それ程複雑にはみえないが、設計・発注から、製造・検査・引渡しまでたくさんの職種があり、各職種、工程は密接に関連している。その中で職種、工程間の仕掛かりも少なく、整然と仕事を流していくためには、各工程毎に、仕事の負荷を早い段階でつかむ事が必要であり、負荷量を示す物量DATAが必要となる。DATAは時間の経過とともに精度が上がっていく性格を持つ。初期計画の段階から正確な数値を求めようとすると、前述の(1)項の様に、(1)「計画時点にタイミングが合わない」という事になる。そこで経験者は知識とノウハウをもって、概数で大勢を判断し、且つ対象建造船の船種・構造・仕様等によって、どこに問題が発生するか事前に見抜き、概数によって大局的に適切な計画をたてる事が出来、それに頼りがちとなる。そうすると、(3)「日程計画の作成が個人の経験・能力によるところが多く、標準的な計画になり難い」という事になる。更に(2)「手作業のために十分なシミュレイションが行われず、精度の高い計画が作成出来ない」(4)「大日程の変更に対し、迅速な対応が困難となり、各工程の変動をタイミング良く日程計画に反映する事が難しい」という事態になりがちとなる。 この様に、経験者の知識とノウハウに依存している生産管理のシステム化に対し、これまで我々はコンピュータの発達によって何もかも出来るという考え方にたちすぎて、経験者の知識・ノウハウを明確に位置づけてのアプローチが少なかった。これがシステム実用化の進まなかった大きな原因をなしていると考える。然し、経験者の知識・ノウハウの表出化というのは容易でない。 本研究では、生産管理のシステム化にあたり技術知の表出化に努めるとともに、表出化の限界を見定め、技術知に頼る部分とコンピュータに頼る部分を明確にし、両者を共存させたシステムを構築する。更に、長い問先輩達が築き上げたベテランのノウハウを、出来る限りルール化してシステムに組みこむ事によって、それ程の経験ない者でもある程度の予備知識を持っていれば、ベテランがやっているものに匹敵する効率的な生産計画が出来る事を目標にする。 なお研究を進めるにあたって、造船工場の中で最も基幹となる船殻工場に対象をしぼり、且つ研究にあたっては実例中心に問題解決を考える事とした。一般に造船の場合、問題を一般解の形にすると、アクティビティ(職種)リソース(設備、人員)、それぞれ調整余裕、相互の動的干渉があって、それらの関係づけが複雑で、適切なモデル化が難しくなる。問題を或る程度具体化し、局所化する事が必要である。但し解決方法が特異解とならぬ様、実例は当然特殊な工作法、特殊船による例を除き、標準的なタンカー・バルクキャリアーを対象に、標準的工作法での建造をとりあげていく事にする。又、随時日本造船界の実状について出来る限り情報を収集、検討し、解決が1造船所に限られたものでなく、普遍的なものである様努める。 研究では先ず現状把握として、船殻工場全体の生産管理の流れを整理した。その中で経験者の知識・ノウハウを最も必要としている部分は、「計画源流段階でブロック分割を中心とした建造要領の検討、決定」と「搭載、組立、加工各ステージでの大日程づくり」にある事が分かった。更にこれら経験者の知識・ノウハウに主として依存している部分を出来る限り表出化し、ルール化しようとする時、解決すべき課題は次の2点に集約される。 〔A〕ブロック分割方針と分割結果を評価する手法の明確化 〔B〕物量DATA不十分な初期段階で、搭載・組立・加エステージの作業物量をどう推定し、山ならしをどう行うか この課題認識のもと、研究を進めその結果、次の様な成果が得られた。 1.ブロック分割は建造開始にあたり、建造要領を定める最も大切な作業である。従来明確な判断基準がなかったが、(1)実現性(2)生産性(3)作業性の順に、評価する合理的な判断手法、方法を見出した。 2.加工から搭載に至る生産管理の流れを一貫させ、体系化し、システム・フローを完成させた。その際経験者の知識・ノウハウに依存してきた作業物量の推定、組立要領書に作成について、これを計画エキスパート・システムと位置づけこの中特に作業時間の推定は次の方式による事を提案した。 図表 3・工程最適化は一般に、「与えられた建造造船所設備のもと、対象船舶に最も適した工作法、生産管理を構築し、最も効率的な建造を行う」と定義づけられる。然し設備、工作法を含めると最適化は多様となり、最適解は環境によって変わってくる。本論文では最適化を平準化に限定して、これまでベテランにまかされていたムリ、ムダ、ムラをはぶく平準化方策を考察し、その手順を標準化した。その結果、ある程度の予備知識をもっていれば容易に理解出来る形とし、広く実用化出来る方策を提案した。なお、これら平準化については近い将来VISIBLEな形にソフトを開発し、パソコンによる徹底した平準化が現場で容易に可能となるであろう。 4.CADシステムの3次元化・高度化と生産管理システムは相関連して開発を進めていかなければならないものである。3次元CADからどんなブロック情報をどの時期にアウトプットを必要とするのか、生産管理システムサイドからきちっと要求を出していく事が効率的にCADを構築していくために必要である。これなくして、設計が3次元情報をどんなに細かく流しても成果は大きくならず、自己満足の結果に終わってしまうだろう。 設計フローの中で、どの時期にどういう情報をアウト・プット出来るか、研究成果を使って検証し、生産管理システム化に十分な設計フローを提案した。 以上 |