学位論文要旨



No 214564
著者(漢字) 大野,伊左男
著者(英字)
著者(カナ) オオノ,イサオ
標題(和) 造船工場生産管理システム化への考察
標題(洋)
報告番号 214564
報告番号 乙14564
学位授与日 2000.02.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14564号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野本,敏治
 東京大学 教授 金原,勲
 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 大和,裕幸
 東京大学 助教授 青山,和浩
内容要旨

 近来造船工場の生産管理については、設計、工作両面のコンピュータ化への動きに合わせ、当然システム化への動きが進展してきている。然し長い間試みられてきている割には、システム実用化は造船所によって多少差はあるが、全般に適用の範囲は部分的にとどまっている。

 全面実用化が実現しない理由として、且って、(社)日本造船学会システム技術委員会が、システム化の問題点として次の4点をあげた。それがそのまま今日適用すると考えてもよい、というのが現状である。

 (1)作業量の把握に必要な管理量の集計に多くの労力と時間を要し、しかも出図のタイミングが合わず、計画時点に間に合わない場合が生じる。

 (2)手作業のために十分なシミュレイションが行われず、精度の高い計画が作成出来ない。

 (3)日程計画の作成が、計画担当者個人の経験能力によるところが多く、標準的な計画になり難い。

 (4)線表などの大日程の変更に対し、各工程の迅速な対応が難しい。また、各工程の変動をタイミング良く日程計画に反映する事が難しい。

 なぜこの様にシステム化の進展が手間どっているか考えてみると、造船工場の生産管理は一見それ程複雑にはみえないが、設計・発注から、製造・検査・引渡しまでたくさんの職種があり、各職種、工程は密接に関連している。その中で職種、工程間の仕掛かりも少なく、整然と仕事を流していくためには、各工程毎に、仕事の負荷を早い段階でつかむ事が必要であり、負荷量を示す物量DATAが必要となる。DATAは時間の経過とともに精度が上がっていく性格を持つ。初期計画の段階から正確な数値を求めようとすると、前述の(1)項の様に、(1)「計画時点にタイミングが合わない」という事になる。そこで経験者は知識とノウハウをもって、概数で大勢を判断し、且つ対象建造船の船種・構造・仕様等によって、どこに問題が発生するか事前に見抜き、概数によって大局的に適切な計画をたてる事が出来、それに頼りがちとなる。そうすると、(3)「日程計画の作成が個人の経験・能力によるところが多く、標準的な計画になり難い」という事になる。更に(2)「手作業のために十分なシミュレイションが行われず、精度の高い計画が作成出来ない」(4)「大日程の変更に対し、迅速な対応が困難となり、各工程の変動をタイミング良く日程計画に反映する事が難しい」という事態になりがちとなる。

 この様に、経験者の知識とノウハウに依存している生産管理のシステム化に対し、これまで我々はコンピュータの発達によって何もかも出来るという考え方にたちすぎて、経験者の知識・ノウハウを明確に位置づけてのアプローチが少なかった。これがシステム実用化の進まなかった大きな原因をなしていると考える。然し、経験者の知識・ノウハウの表出化というのは容易でない。

 本研究では、生産管理のシステム化にあたり技術知の表出化に努めるとともに、表出化の限界を見定め、技術知に頼る部分とコンピュータに頼る部分を明確にし、両者を共存させたシステムを構築する。更に、長い問先輩達が築き上げたベテランのノウハウを、出来る限りルール化してシステムに組みこむ事によって、それ程の経験ない者でもある程度の予備知識を持っていれば、ベテランがやっているものに匹敵する効率的な生産計画が出来る事を目標にする。

 なお研究を進めるにあたって、造船工場の中で最も基幹となる船殻工場に対象をしぼり、且つ研究にあたっては実例中心に問題解決を考える事とした。一般に造船の場合、問題を一般解の形にすると、アクティビティ(職種)リソース(設備、人員)、それぞれ調整余裕、相互の動的干渉があって、それらの関係づけが複雑で、適切なモデル化が難しくなる。問題を或る程度具体化し、局所化する事が必要である。但し解決方法が特異解とならぬ様、実例は当然特殊な工作法、特殊船による例を除き、標準的なタンカー・バルクキャリアーを対象に、標準的工作法での建造をとりあげていく事にする。又、随時日本造船界の実状について出来る限り情報を収集、検討し、解決が1造船所に限られたものでなく、普遍的なものである様努める。

 研究では先ず現状把握として、船殻工場全体の生産管理の流れを整理した。その中で経験者の知識・ノウハウを最も必要としている部分は、「計画源流段階でブロック分割を中心とした建造要領の検討、決定」と「搭載、組立、加工各ステージでの大日程づくり」にある事が分かった。更にこれら経験者の知識・ノウハウに主として依存している部分を出来る限り表出化し、ルール化しようとする時、解決すべき課題は次の2点に集約される。

 〔A〕ブロック分割方針と分割結果を評価する手法の明確化

 〔B〕物量DATA不十分な初期段階で、搭載・組立・加エステージの作業物量をどう推定し、山ならしをどう行うか

 この課題認識のもと、研究を進めその結果、次の様な成果が得られた。

 1.ブロック分割は建造開始にあたり、建造要領を定める最も大切な作業である。従来明確な判断基準がなかったが、(1)実現性(2)生産性(3)作業性の順に、評価する合理的な判断手法、方法を見出した。

 2.加工から搭載に至る生産管理の流れを一貫させ、体系化し、システム・フローを完成させた。その際経験者の知識・ノウハウに依存してきた作業物量の推定、組立要領書に作成について、これを計画エキスパート・システムと位置づけこの中特に作業時間の推定は次の方式による事を提案した。

図表

 3・工程最適化は一般に、「与えられた建造造船所設備のもと、対象船舶に最も適した工作法、生産管理を構築し、最も効率的な建造を行う」と定義づけられる。然し設備、工作法を含めると最適化は多様となり、最適解は環境によって変わってくる。本論文では最適化を平準化に限定して、これまでベテランにまかされていたムリ、ムダ、ムラをはぶく平準化方策を考察し、その手順を標準化した。その結果、ある程度の予備知識をもっていれば容易に理解出来る形とし、広く実用化出来る方策を提案した。なお、これら平準化については近い将来VISIBLEな形にソフトを開発し、パソコンによる徹底した平準化が現場で容易に可能となるであろう。

 4.CADシステムの3次元化・高度化と生産管理システムは相関連して開発を進めていかなければならないものである。3次元CADからどんなブロック情報をどの時期にアウトプットを必要とするのか、生産管理システムサイドからきちっと要求を出していく事が効率的にCADを構築していくために必要である。これなくして、設計が3次元情報をどんなに細かく流しても成果は大きくならず、自己満足の結果に終わってしまうだろう。

 設計フローの中で、どの時期にどういう情報をアウト・プット出来るか、研究成果を使って検証し、生産管理システム化に十分な設計フローを提案した。

 以上

審査要旨

 我が国の造船業が昭和31年に世界一の生産量を誇るようになって久しい。その要因と考えられるものに船舶工学の進歩に負うところも大きいが、実際の造船現場においては生産に関係する技術者の努力に負うところも少なくない。特に造船現場では、過去の経験・ノウハウ・勘に頼っている部分も多く、必ずしも体系化された学問体系に基づいて現場作業が実施されている訳ではない。

 一方、近年は特に自動化・システム化・コンピュータ化の動きが激しく、造船現場への適用にも長足の伸展が見られる。

 特に造船工場の生産管理については、設計・工作両面におけるコンピュータ化の動きに合わせてシステム化への動きが著しい。

 しかしながら生産管理技術の進歩は著しいものの、造船現場の実際への適用という観点では未だ全面的に利用されているとは言い難く、部分的な適用にとどまっている。これには現場におけるベテランのノウハウが完全に体系的には整理されていないという問題点がある。

 本論文では造船工場の実際の生産管理に適用可能な工程計画・日程計画を構築するための手法を体系的に整理し、生産管理システム構築のためのマン・マシンインターフェイスによる考え方を示している。

 本文は5章から成り立っており、第1章は「序論」であり、本研究の目的・概要および研究方針が具体的に述べられている。特に著者は本論文の目的を以下のように整理していうる。「本研究の目的は、経験者のノウハウ、勘に頼っている生産管理のシステム化にあたり、技術知の表出化に努めるとともに、その表出化の限界を見定め、技術知に頼る部分とコンピュータに頼る部分を明確にし、先ず両者を共存させたシステムをつくり、何もかもコンピュータでおきかえるという事ではなく、計画の源流段階を中心に人間がやる方がはるかに上手く処理出来るものについては人間が行い、真に現場で役に立つシステムにつくりあげる。次いで、長い間先輩達が築きあげたベテランのノウハウを吸収し、出来る限り整理し、システム化する事によって、それ程の経験もない者でもある程度の予備知識を持っていれば十分従来ベテランがやっているものに匹敵する、効率的な生産計画が出来るようなものにする事を目標とする。」

 第2章「生産管理システムの現状と開発課題」では、造船工場における生産計画の特徴は中間製品であるブロックの搭載工程・組立工程・加工工程に分類されることを示し、これらの工程に大きく影響を与えるのは設計された船体のブロック分割法が良否によるところが大きいことを示している。

 上記のブロック分割法と各工程の現状とシステム化の現状を整理することによって本論文の開発課題を抽出している。

 第3章「開発課題の研究」では、第2章の開発課題を解決するためには何をなすべきか、との観点から

 イ)搭載工程の課題を解決する方法、ロ)組立工程の課題を解決する方法、ハ)加工工程の課題を解決する方法を明確に示している。また上記に深く関係しているブロック分割法の考え方を示すと共に、ブロック分割結果の新しい評価法を提案している。

 第4章「計画の平準化」では、工程計画を日程計画に変換する最も重要な課題は計画の平準化であるとの観点から、システム化を念頭に置きつつ、搭載日程・組立日程・加工日程の平準化方法についてその概念を提案している。なお、ブロック分割結果を評価するためには、加工工数・溶接工数・組立工数・搭載工数などの作業量を比較的早期に推定しておくことが必要であるため、著者は現状の造船現場で利用可能な情報を整理し、いわゆる実用的な原単位を明確に示している。またこの概念を実施の造船工場の日程計画に適用した例として、搭載計画および船体平行部組立計画、ならびに船体非平行部の固定定盤にお・ける組立計画について適用結果を示している。

 本研究の結果、著者は、造船工場における生産管理技術というような設計された製品・生産する工場・製品と工場との割り付けなど、過去の経験やknow howに大きく依存する技術では必ずしも完全なシステム化を目標とすることは有利であるとは言えないが、出来る限り生産管理のシステム化を目標とするためにはシステム化を念頭に置いた研究が重要であると結論つけている。

 そこで第5章「システム実現にあたっての課題」では、近い将来実用化されるであろう3次元設計情報や過去の情報・生産情報から生産管理に必要な情報の自動的な抽出法などについて述べ、具体的なフローチャートを提案することによって将来技術への基礎を示している。

 第6章では「結語」であり、本論文で得られた結論をまとめている。即ち

 イ)生産管理を実施するに際して最も重要な因子であるブロック分割に従来あまり明確な判断基準がなかったが、実現性・生産性・作業性の順序で評価する合理的判断基準を示したこと。

 ロ)搭載から加工に至る各工程の生産管理システム化にあたり、従来の熟練物量を計画エキスパート・システムとして整理したこと。

 ハ)実践的な生産管理システムを構築するために、各種システム化フローチャートを明確にしたこと。

 ニ)将来の設計・生産情報の統合化された生産管理システムを構築するための問題点を整理し、生産管理に必要な情報がタイムリーにアウトプットされるための設計フローチャートを提案している。

 以上要するに、本論文は造船現場の生産管理技術の一環として搭載工程計画・組立工程計画および加工工程計画を、大日程レベル・中日程レベルおよび小日程レベルの観点から統合的にシステム化するための学問体系をとりまとめたものであり、学問的価値のみならず実用的価値も高く、当該学術分野の発展に寄与することが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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