審査要旨 | | 一方向凝固法で作製した高温酸化物超電導Y-Ba-Cu-O(YBC○)リード体は,高い臨界電流密度Jcを有し,ジュール熱発生及び熱伝導による熱侵入を抑制できることから,電流リードへの実用化が期待されている.実用化に際し,Jc等の超電導特性のみならず,曲げ強度等の機械的特性の改善,電流リード母材と金属電極との接触抵抗の低減も重要な開発課題である.本論文は,一方向凝固超電導体に銀添加し,その凝固挙動と機械的特性への影響ならびに,電流リード端部への電極作製法として,銀もしくは銀合金融液にYBCO/Ag超電導電流リードを浸漬し,超電導体/金属融液界面の反応挙動・接触抵抗について検討したもので7章より成る. 第1章は既往の研究を概観し,本論文の目的ならびに構成について述べた. 第2章では,銀添加YBCO(YBCO/Ag)の一方向凝固組織・挙動を検討した.銀添加を行わないYBCO試料と比べ,平滑界面の成長に要する温度勾配Gと成長速度Rの比G/Rは,銀添加裏の増加に伴い,大きくなった.この原因は,超電導体に比べて熱伝導率が大きい銀が添加されることにより,実質的な温度勾配が低下したことならびに液相線勾配の急峻化が挙げられた.またG/Rを非常に大きくするとファッセト界面が分岐し,最適なG/R値に制御する必要があった.融液中に存在する銀粒子はY1Ba2Cu3Ox(Y123)相の成長界面では濡れないと仮定し,成長界面における銀粒子径依存型プッシング/トラッピング遷移理論により説明されてきたが,本実験では銀粒子はY123相中に棒状となって捕捉されており,その形態から成長界面における銀粒子は濡れており,少なくとも銀粒子が捕捉される領域では界面エネルギーバランスより考えて,銀粒子は成長界面から排出されないと考えられた.銀粒子の偏析現象は,セル頂部とセル底部での界面エネルギーバランスが変化したと考えるのが妥当であり,これは凝固進行に伴う酸素量の変化に対応したものと考えられた. 第3章では,融液サンプリング法による溶解度の測定結果からY2Ba1Cu1O5(Y211)-Ba3Cu5Ox-Agの擬3元状態図を作製した.これに基に,YBCO/Agの凝固挙動は,高温安定相Y211とBa3Cu5Ox融液から,Y123とAgが同時に生成する包偏晶凝固であることを確かめた.また,成長界面前方の融液中における溶質拡散律速であることを仮定し,Y123相中に分散する銀粒子間隔がJackson & Huntの共晶凝固理論と同様に計算できることを示した. 第4章では,電流リード端部への電極作製法として,一方向凝固材を銀融液に浸漬することにより,電流リード端部に電極を作製することを試みた.純銀融液を用いて浸漬した場合には,Y1Ba2Cu3Ox相から主に銅成分が銀融液中へ溶出し,超電導母体と付着銀との界面に非超電導性を示す銅欠乏反応層が生成した.この反応層を抑制する方法としては,単に銀融液中に銅を飽和させるだけでは不十分であり,融液銀とY123の平衡濃度条件を作り出すのに有効な方法として,Yl23粉末を銀融液に添加する方法を開発した.また,電極における接触抵抗値は,実用上の要求値を十分満足することを確認した. 第5章では,単結晶YBCOファイバーを帯域再溶融・再凝固させ接合させる方法を試みた.GとRを最適化させることで,電流リードの長尺化の一手段として有効であることを示した. 第6章では,銀添加による機械的特性への影響を検討した.結晶粒内に銀粒子が分散する一方向凝固YBCO/Ag体の室温における3点曲げによる破壊応力測定を行った.銀添加を行った試料は銀添加を行わない試料に比べて強度が2倍程度向上した.銀添加を行わない試料では長軸と壁開面(ab面)とのなす角度は50〜60°であるのに対して,銀添加を施した試料においては30〜40°であり,このことから銀添加試料では,印加応力の結晶劈開に対する寄与度が小さくなるために,曲げ強度が向上すると考えられた. 第7章は本論文を総括し,今後の技術課題を述べた. 以上を要するに,本論文はYBCO超電導リード体の作製プロセスの展開を図る上で有効な手法ならびに基礎データを提示した. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |