学位論文要旨



No 214574
著者(漢字) 朴,ちょん玄
著者(英字)
著者(カナ) バク,チョンヒョン
標題(和) 韓日間の国際的都市システムに関する地理学的研究
標題(洋)
報告番号 214574
報告番号 乙14574
学位授与日 2000.02.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第14574号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷内,達
 東京大学 教授 米倉,伸之
 東京大学 教授 荒井,良雄
 東京大学 助教授 松原,宏
 東京大学 助教授 永田,淳嗣
内容要旨

 本研究の課題は,東アジアの国際的都市システムの事例として,韓日の都市間結合によって形成される韓日間の国際的都市システムの結節構造およびそこに出現する世界都市と地方都市との機能・役割の違いを分析することである.本研究の分析枠組は,経済のグローバル化によって形成されるアジアの地域間統合に関する地理学的アプローチとして,国際的都市システム論に依拠した.

 I章では,本研究の課題を提示し,従来の研究成果,研究方法を整理した.まず,国際的レベルの地域間関係を国家単位でなく都市レベルで分析する意義および地方都市の役割を解明する意義を述べ,本研究の分析視角が,国際的都市システムのモデルを提示すること,そして首都と地方都市との違いを解明すること,の2点であることを述べた.次に.本研究の枠組と深い関連を持つ都市システムに関する既存研究を,ノードの研究,リンケージの研究,そして国際的・世界的都市システムの研究に分けて整理し,国際的・世界的都市システムの実証的研究,アジア圏内の都市間結合の実態の分析,そして地方都市の国際化の側面からの国際的都市システムの解明が求められていることを提示した.最後に,分析方法について,都市間結合を測定する指標として流動量(II章)と企業活動(III章・IV章)のグローバル化を用いること,そしてその空間的スケールはアジアの都市間結合(II章),韓日の都市間結合(II章・III章),地方都市間結合と世界都市間結合(III章・IV章)の三つのレベルであることを述べた.

 II章では,人(国際航空旅客)・資金(銀行間の国際取引)・情報(国際通話量)の流動量から見たアジアの都市間結合および韓日の都市間結合を定量的に考察した.分析結果は次の3点に要約される.第1に,国際航空旅客の流動に見られるアジアの国際的都市システムは,おおむね東アジアの都市間結合と東南・南アジアの都市間結合との二つの結節地域の流動パターンによって形成される.東アジアの都市間結合では中国・台湾の都市間結合および韓日の都市間結合の結節流が明瞭に現れ,韓日の都市間結合ではソウルと日本の三大都市との間および釜山と福岡との間の結節流による空間的分離形態が存在する.第2に,銀行間の国際取引の空間形態では,韓国の地方銀行の海外取引にはソウル経由の間接的海外取引と地方都市の直接海外取引とが存在し,地方都市の直接海外取引は国際的都市システムの上位階層である相手国の首都を強く指向している.すなわち,銀行間の国際取引に見られる韓日間の国際的都市システムは首都間結合が柱となっており,釜山・大邱といった地方の中核都市は依然として東京を強く指向する閉鎖的な階層構造を形成している.そして第3に,国際通話量に見られる韓日間の国際的都市システムは,高次階層の都市ほど互いに結合を強化するとともに低次階層の都市を支配する垂直的システムであり,低次階層では,釜山-福岡間結合が確認される水平的システムが存在する.また,釜山と日本の主要都市との間の都市間結合は都市規模・距離によっておおむね説明できる.少なくとも釜山-福岡間結合を説明する際には,釜山・福岡がそれぞれ韓日の両国において一定の都市規模を持っていること,そして国境を挟んで最も近距離に位置していることが重要である.

 III章では,企業の輸出入行動を商流・人流・物流の三つの側面から扱い,地方都市間結合の事例として,釜山-福岡間結合および大邱-福岡間結合の空間形態とその要因を分析した.その結果は次の4点に要約される.第1に,企業の輸出行動において,商流・人流・物流の三つの側面に見られる空間形態は必ずしも一致せず,釜山・大邱企業は福岡を物流・人流の拠点として最も高く評価している.第2に,福岡が商流の拠点の性格を持たないことは,商流の一面を示す輸出経路の選択行動において商社を通す取引形式の評価が重要であり,輸出経路が大阪・東京に集中していることによる.第3に,福岡が人流の拠点として評価される要因は,釜山・大邱企業の社員の海外出張行動が1回の出張で複数の都市を訪問するケースが最も多く,釜山-福岡間の航空路線の利便性の評価が高いことである.そして第4に,福岡が物流の拠点として評価される要因は,福岡圏内の港湾が東京・大阪を含む広範囲への物流ルートの一環として利用されること,福岡圏内の港湾(とくに下関港)が通関に要する時間,運航時間,船便のスケジュールの面で優位性を持つこと,そして輸出企業の契約商品の輸送先港湾の選択行動において,時間コストが持つ意味が非常に重要であることである.

 IV章では,企業ネットワーク論に基づき,企業間提携および企業の海外進出によって形成された韓日間の国際的都市システムの空間形態とその要因を分析した.その結果は次の4点に要約される.第1に,企業間提携においてはソウル・東京・大阪という世界都市の企業を中心に国際的都市システムが形成されており,多岐にわたる産業で企業間提携が展開されている.一方で,広域中心都市・道(県)庁所在都市の企業による提携は相対的に比重が小さい.第2に,企業の海外進出によって形成される韓日間の国際的都市システムは,企業間提携に現れる都市間結合の空間形態とほぼ一致し,世界都市を拠点とする韓日の全国企業の活動によって形成されており,世界都市と地方都市との企業進出の格差は韓日ともに1980年代後半に拡大した.そして海外進出によって形成された韓日間の国際的都市システムは産業部門・進出形態・企業規模の三つの企業属性と密接な関係を有している.第3に,韓日の大企業間提携の空間形態が主に世界都市間の結合に現れる要因は,世界都市を拠点とする大企業組織の役割が最も重要であること,そしてソウル・東京という世界都市を核とする企業内ネットワークを介した長期的継続的取引が重要であることである.そして第4に,韓国企業の海外進出は世界都市間の結合を強める要素となっているとはいえ,地方中核都市(福岡)においても,韓国企業の集団的な投資活動が見られる.その要因としては,親会社を柱とする企業内ネットワーク,福岡を拠点とする地元企業との協力関係の形成,そして福岡市によって展開された独自の地域政策,の三つであった.

 V章では,前章までの検討結果を要約し,本研究の課題である(1)韓日間の国際的都市システムの空間形態,(2)地方都市間結合と世界都市間結合との違いについて,得られた知見をまとめるとともに,分析対象・指標・時代背景・視角などについての今後の課題を指摘した.

審査要旨

 本論文は、国際的都市システムに関する地理学的研究の一つとして、国際的都市システムの実態を実証的に解明したものである。

 都市システムは、その対象とする空間的スケールによって、地域的都市システム、国家的都市システム、国際的都市システムに分けられる。しかし先行研究の多くは国家的都市システムあるいは地域的都市システムを対象としたものであり、国際的都市システムを対象とする研究はきわめて少なかった。また、国際的都市システムに関する先行研究は、世界都市(首都及びそれに準ずる大都市)の国際的結合関係の分析にとどまるものが中心であり、地方都市の国際的結合関係をも視野に入れた研究はきわめて僅かであった。このような状況に鑑み、地方都市をも含めて国際的都市システムを包括的に捉えた本論文の意義は高く評価される。

 本論文は、5章から成る。

 まず第1章では、先行研究の成果と方法を整理し、国際的都市システムの研究において都市間結合の実態に関する実証的な分析及び地方都市の国際化の観点からの分析が必要であることを明らかにした。

 第2章では、韓日間の都市間結合の実態を、人(航空旅客)、資金(銀行間の取引)、情報(電話)の流動量によって定量的に分析し、人の流動においては、世界都市間結合と共に地方都市間の結合が重要であること、資金の流動においては、世界都市間の結合が重要であること、そして情報の流動においては、世界都市間結合が支配的であるとはいえ、地方都市間の結合も一定の重要性を持っていることを、それぞれ明らかにした。

 第3章では、韓国から日本への輸出における企業の行動を,地方都市間結合(釜山・大邱と福岡)の事例を中心に、商流(契約)、人流(海外出張)、物流(輸送)の三つの面から、韓国の企業に対する実態調査に基づいて分析し、第1に、商流・人流・物流の各面における都市間結合の空間的形態はそれぞれ異なり、世界都市が商流の面において重要であるのに対して、地方都市(福岡)は相対的に人流・物流の拠点として機能していること、第2に、商流が世界都市に集中する要因が商社の介在する取引形式にあること、第3に、人流における地方都市(福岡)の重要性の要因が航空路線網の特性に基づく近接性にあり、世界都市・地方都市の双方を含む複数の都市を目的地とする出張行動において優位に機能していること、そして第4に、物流における地方都市(下関を含む福岡圏)の重要性の要因が、韓国からの近接性と共に、海上輸送及び通関における所要時間と運航頻度の面での優位性にあることを、それぞれ明らかにした。

 第4章では、国際的な企業ネットワークの形成、すなわち企業間提携及び企業の海外進出を、韓国の企業に対する詳細な実態調査に基づいて分析し、国際的及び国家的都市システムにおける世界都市の優位性を反映して、企業間提携及び企業の海外進出が世界都市に集中しており、地方都市との格差が大きいことを明らかにした。さらに、そのような世界都市優位という一般的状況の中で、地方都市(福岡)への韓国からの企業進出の事例について、進出企業の企業内ネットワーク、進出先都市の地元企業との関係、進出先都市の自治体による政策を中心に詳細に分析し、それらの果たした役割を明らかにして、企業間提携及び企業の海外進出の面における今後の地方都市の重要性について展望した。

 そして第5章では、前章までの分析によって得られた知見を整理して国際的都市システムのモデルを提示し、国際的都市システムにおける世界都市間結合と地方都市間結合との相違を明らかにした。

 以上のように、本論文は、国際的都市システムを、地方都市間の水平的結合を含む包括的な都市システムとして捉えることの意義と可能性を実証することによって、国際的都市システムに関する今後の研究の進展のための方法と課題を提示したものであり、地理学における国際的都市システムの研究への学術的寄与はきわめて大きいということができる。

 したがって、博士(理学)を授与できると認める。

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