学位論文要旨



No 214578
著者(漢字) 日野,綾子
著者(英字)
著者(カナ) ヒノ,アヤコ
標題(和) Th-APC相互反応、及びLPS刺激によるIL-12産生のIL-10による制御
標題(洋)
報告番号 214578
報告番号 乙14578
学位授与日 2000.02.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14578号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩本,愛吉
 東京大学 助教授 谷,憲三朗
 東京大学 助教授 高木,智
 東京大学 助教授 増田,道明
 東京大学 講師 瀧,伸介
内容要旨 緒言

 Interleukin 12(IL-12)は、互いに相同性のないp40とp35のサブユニットからなる分子量約70kDのヘテロダイマーである。IL-12はヘルパーT(Th)細胞亜集団Th1/Th2のバランスを制御し、Th1の免疫反応を増強する活性を持つ所から、その産生制御の機構を研究することは重要なテーマであると考えられる。

 IL-12産生にはT細胞依存的産生とT細胞非依存的産生とがある。T細胞依存的産生とは、Th1細胞と抗原提示細胞(APC)の相互反応によりAPCから産生されるもので、CD40-CD40L反応により産生が誘導されることが明らかになっている。一方、T細胞非依存的産生とは、T細胞との接触とは関係なく微生物感染や菌体成分、例えばLPS、などの刺激によりmacrophage()等から産生されるものである。

 Th2細胞とAPCの相互反応においては、Th2細胞のCD40Lの発現がTh1細胞にくらべて非常に弱いとされており、CD40-CD40L反応が起こっているか否かは不明である。また、抗原刺激によりTh2細胞からIL-10が産生される。培養系にIL-10を加えるとLPS等の刺激によるIL-12産生は強く抑制されることが知られている。しかし、Th2によるIL-10産生が、Th2-APC相互反応によるIL-12産生に与える影響については明らかになっていない。そこで、Th2細胞とAPCの反応によってIL-12産生がおこるか否か、もしIL-12産生がないとすればIL-10の関与があるか否かを検討した。

 前述のT細胞非依存的IL-12産生を誘導する刺激として代表的なLPS刺激においては、LPS刺激によるIL-12産生にはIFNによるpriming(前培養)が必須であると考えられている。しかし、IFN欠損マウス由来細胞のLPS刺激によるIL-12産生は野生型マウスと同じレベルであることが報告されており、IFNのprimingが必要であるとする考えと矛盾する。LPS刺激により等がIL-10を産生することはすでに報告がある。従って、LPS刺激の場合にもIL-10がIL-12産生を抑制している可能性がある。そこで、まずIFN存在下での前培養がLPS刺激によるマウス脾細胞のIL-12産生に必要であるか否かを検討し、さらに、この系におけるのIL-12産生に与えるIL-10の影響について検討した。IFNによるprimingの必要性についてはT細胞依存的なIL-12産生ついてもあわせて検討した。

 すなわち、この研究の目的は、Th-APC相互反応(T細胞非依存的)及びLPS刺激(T細胞依存的)によるIL-12産生における制御機構について、IL-12産生機構に関連して産生されるIL-10によるIL-12産生抑制効果ついて検討することである。

 【結果と考察】Th1,Th2クローンをAPCを用いて抗原刺激する系において、培養上清中のIL-12活性を測定した。Th1クローンと共培養した脾細胞APC(ここではT細胞除去脾細胞を脾細胞APCとする)では6-12時間をピークとしてIL-12の産生がみられたが、Th2クローンを用いた場合には培養後24時間、いずれの時点でもIL-12の活性は検出されず(図1)、IL-12 p40のmRNAの発現増強もみられなかった。しかし、Th2クローンを用いる系に、抗IL-10を加えてIL-10の活性を抑制すると、抗IL-10の濃度依存的に培養上清中のIL-12活性が上昇した(図2)。

図1 Th1またはTh2と脾細胞APCの共培養によるIL-12産生図2 抗IL-10存在下におけるTh2クローンとAPCの共培養によるIL-12産生

 この所見はmRNA発現の検討によっても確認された。Th2クローンは抗原刺激によりIL-10を産生することが知られている。そこで、先ずTh2クローンを抗原刺激してIL-10産生の時間経過を検討した。刺激後わずか3時間で、Th1-APC相互反応によるIL-12産生を抑制するに十分量のIL-10が産生されることが分かった。Th1細胞とAPCの相互反応によるIL-12産生はCD40-CD40L反応によるものであることが,明らかになっている。そこで、抗IL-10存在下にTh2細胞とAPCの共培養で見られるIL-12産生も同じ分子間反応によるものであるかを検討した。まず、抗原刺激によってTh2細胞上にもTh1細胞と同じレベルのCD40Lが発現する事を確認した。さらに、抗IL-10存在下で見られるTh2-APC相互反応によるIL-12産生は抗CD40Lを加えることによってTh1-APC相互反応の場合と同様に完全に抑制された(図3)。すなわち、Th2細胞とAPCの相互反応においてもCD40-CD40L反応によってIL-12を産生し得るが、Th2によって産生されたIL-10がIL-12の産生を抑制することが明らかになった。

図3 Th2-APCによるIL-12産生もCD40-CD40L反応を介する

 次にLPS刺激によるIL-12産生について、IFNによるprimingの必要性について検討を行った。先ず、CD40-CD40L反応によるIL-12産生におけるIFNのprimingの効果について検討した。その結果、IFNによるprimingはIL-12産生にはほとんど影響を及ぼさなかった。LPS刺激によるIL-12産生における影響について、採取してすぐの脾細胞(f-spleen cells)ではLPSのみの刺激ではIL-12を産生せず,LPSとIFNを同時に刺激を加えると微量のIL-12が産生された(図4)。一方、IFN存在下又は非存在下に前培養した脾細胞(p-spleen cells)は,共にLPS刺激に応答して相当量のIL-12を産生した(図4)。IFNを加えずに前培養した場合、脾細胞が自らIFNを産生し、それによってprimingされている可能性がある。そこで、IFN欠損マウスの脾細胞を用いて同様の実験を行ったが、野生型マウス脾細胞の場合と同様の結果であった。すなわち、脾細胞はIFNを加えずに前培養するだけでLPSによるIL-12産生能を獲得した。次に、前培養の効果とは何かを検討した。脾細胞のLPS刺激によってIL-10が産生され、IL-10がIL-12産生を抑制している可能性がある。そこで、抗IL-10を添加してIL-12産生を検討したところ、f-spleen cellsはLPS刺激によってIL-12を産生した。さらに、IFN共存下では顕著な産生増強がみられ、その産生量はp-spleen cellsのそれと同レベルであった(図5)。次に、培養上清中のIL-10の産生量を検討した。f-spleen cellsとp-spleen cellsではLPS刺激によるIL-10産生量に差は見られなかった。この結果から、f-spleen cellsによるIL-12産生量が著しく低いのは、産生されるIL-10が多いからではなく、IL-10に対する反応性に差があるからであると考えられる。マウス脾細胞中でLPS刺激に反応してIL-12を産生する細胞はである。そこで,f-spleen cellsとp-spleen cells中の上のIL-10レセプター(IL-10R)の発現について検討した。

図4 LPS刺激によるIL-12産生図5 LPS刺激によるIL-12産生における抗IL-10の効果

 f-spleen cellsのは、無刺激ではIL-10Rを発現していないが、LPS刺激後2時間で発現がみられ、4時間後にはピークに達し、その後減少した.一方、p-spleen cellsのはLPS刺激後もIL-10Rをわずかに発現するに過ぎなかった(図6)。これらの結果から、f-spleen cells中のは、p-spleen cells中のよりもIL-10R発現が高く、LPS刺激によって産生されたIL-10がf-spleen cellsによるIL-12産生をp-spleen cellsによるIL-12産生よりも強く抑制していると考えられる。

図6 LPS刺激により上に誘導されるIL-10Rの発現る。

 以上の結果よりT細胞依存的IL-12産生もLPS刺激によるIL-12産生も共にIL-10によるそ制御を受けていることがわかる。IL-12はTh細胞をTh1へと導くが、Th2-APCの相互反応ではIL-12は産生されないのでTh1/Th2バランスをTh1優位に導くことは難しい。一方、Th1-APC相互反応ではIL-12が産生されTh1/Th2バランスはさらにTh1側に傾く。LPS刺激によるIL-12産生においても、f-spleen cellsではLPS刺激によってIL-10が産生され、IL-10Rを発現してIL-10による負の制御をうけていると考える。LPS刺激の際IFNを共存させることはIL-12産生を増強する。しかし、LPS刺激によるIL-12産生にIFNによるprimingは必須ではないと結論できる。

審査要旨

 IL-12産生にはT細胞依存的産生とT細胞非依存的産生がある。前者は、Th1細胞と抗原提示細胞の相互反応、すなわちCD40-CD40L反応によって抗原提示細胞から産生されるものである。後者は、T細胞との接触とは関係なく感染や菌体成分、例えばLPSなどの刺激によりmacrophage()等から産生されるものである。本研究では、Th-APC相互反応によるIL-12産生においても、LPS刺激によるIL-12産生においても、IL-10がIL-12産生を制御していることを明らかにしている。また、LPS刺激によるIL-12産生におけるIFNのprimingの必要性についても検討を行ない、下記の結果を得ている。

 1.アロ反応性のTh1細胞及びTh2細胞とアロのT細胞除去脾細胞(APC)を共培養すると、Th1細胞との共培養によりIL-12産生が認められるが、Th2細胞との共培養によってはIL-12は産生されなかった。しかし、Th2細胞とAPCの共培養時に抗IL-10抗体を存在させると、抗体の濃度依存的にIL-12の産生が認められた。

 2.抗IL-10抗体存在下のTh2-APC相互反応によるIL-12産生は、抗CD40L抗体を添加することで完全に抑制され、Th1-APC相互反応によるIL-12産生と同様にCD40-CD40L反応によるものであった。またTh2細胞上のCD40Lの発現について確認を行なったところ、Th1細胞と同様にTh2細胞上にもCD40Lの発現が認められた。

 3.Th2細胞が抗原刺激によって産生するIL-10量は、Th1-APC相互反応によるIL-12産生を十分に抑制できる量であった。つまり、Th2細胞とAPCの相互反応においてもCD40-CD40L反応によってIL-12を産生し得るが、Th2細胞の産生したIL-10がIL-12産生を強く抑制しIL-12が産生されないことが明らかになった。

 4.採取してすぐの脾細胞(新鮮脾細胞)はLPS単独刺激を加えてもIL-12を産生しないが、脾細胞をIFN非存在下に前培養しただけで、LPS単独刺激によりIL-12産生を示すようになった。このIL-12産生は,IFNでprimingしても(IFN存在下に前培養しても)単に前培養したものとほとんど変わらなかった。LPS刺激によるIL-12産生にはIFNのprimingは必須ではなく、前培養することが非常に効果的であることが明らかになった。またCD40-CD40L反応によるIL-12産生にもIFNのprimingは影響を及ぼさなかった。しかし、IFNを共存させることはLPS刺激によるIL-12産生を増強させた。特に、新鮮脾細胞のIL-12 p40の発現を増強し、LPSとIFN両方の刺激を加えることで新鮮脾細胞はIL-12産生を示すようになった。

 5.抗IL-10抗体を添加すると、新鮮脾細胞からのLPS刺激によるIL-12産生は強く増強され、LPS単独刺激でもIL-12産生が検出された。一方、前培養した脾細胞においては抗IL-10抗体を添加してもLPS刺激によるIL-12産生は僅かに増強されたのみであった。また外部からIL-10を添加すると新鮮脾細胞のLPSとIFNの刺激によるIL-12産生は強く抑制されるが、前培養した脾細胞は相当量のIL-10を添加しても僅かに抑制されたのみであった。

 6.脾細胞の前培養の有無による、IL-12産生能の差、及び抗IL-10抗体の添加の効果の差はIL-10産生量の違いと考えらるが、両者の間に差は見られなかった。次に、IL-10の感受性の差に着目し、IL-12産生細胞である上のIL-10Rの発現を調べたところ、新鮮脾細胞の上にはLPS刺激によってIL-10Rの発現が認められたが、前培養した脾細胞の上にはIL-10Rの発現は見られなかった。すなわち、新鮮脾細胞はLPS刺激を受けるとIL-10Rの発現を示し,自ら産生したIL-10によってIL-12産生は抑制される。前培養した脾細胞はLPS刺激を受けてもIL-10Rの発現は示さないため、IL-10による抑制を受けず、IL-12産生を示す。つまり、IL-10Rの発現の強度によってIL-12産生を制御している可能性が示唆された。

 以上、本論文はT細胞依存的産生であるTh-APC相互反応、及びT細胞非依存的産生であるLPS刺激によるIL-12産生において、IL-10が、IL-10産生量あるいはIL-10Rの発現量によって、IL-12産生の調節の役割を担っていることを明らかにした。本研究は、Th1/Th2バランスの調節を担うIL-12の産生の制御機構を明らかにしており、これらの結果は今だ明らかにはされていないTh1/Th2バランスの調節機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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