IL-1刺激により骨芽細胞においてPGE2産生が促進されることが知られている。PGE2は破骨細胞の分化を誘導するので各種骨代謝関連疾患への関わりが疑われている。これまで骨芽細胞のPGE2産生に関する研究は専ら未成熟骨芽細胞である増殖期細胞を用いて行われてきた。実際の骨髄で圧倒的多数をしめているのは石灰化をはたした成熟骨芽細胞である。本研究は成熟骨芽細胞におけるPG代謝系を調べることで、より生理的条件に近い知見を得ようとしたものである。 ラット頭蓋冠由来初代培養細胞を用いた成熟骨芽細胞培養系確立 ラット頭蓋冠から95%の純度で初代培養骨芽細胞を調整し、-グリセロリン酸とアスコルビン酸を添加して培養、コンフルエントに達した細胞は幼若骨芽細胞の様子を示した。以後この細胞を"培養幼若骨芽細胞"として使用した。一方、この細胞をさらに培地交換のみを繰り返して21日間培養すると石灰化が進み骨芽細胞特異的分化マーカー発現が認められるようになった。この細胞は形態的に、又細胞化学的に成熟骨芽細胞と見なせることが分かり,以後この細胞を"成熟骨芽細胞"として使用した。 IL-1刺激骨芽細胞におけるPGE2産生の亢進 幼若骨芽細胞と成熟骨芽細胞をそれぞれIL-1で刺激し、PGE2産生を時間を追って検討した。いずれの細胞も刺激後6〜10時間で産生量がピークに達した。幼若細胞ではこれ以上の変化は認められなかったが、成熟細胞ではさらに培養を続けると再度産生量が上昇し、72時間後にはPGE2量は6時間後の1000倍にも達した。従来の検討は幼若細胞における極めて微弱な反応を見ていたことになる。IL-1刺激成熟骨芽細胞におけるPGE2産生亢進のメカニズムを解明するために、ホスホリパーゼA2、シクロオキシゲナーゼI(COX-1)、シクロオキシゲナーゼII(COX-2)の活性を検討した。幼若細胞,成熟細胞いずれでもIL-1刺激により細胞質ホスホリパーゼA2活性(cPLA2活性)が亢進したが、比活性では成熟細胞のほうが3倍以上幼若細胞より高かった。COX-1活性には変動は認められず、COX-2の発現は幼若,成熟いずれも刺激後6時間まで上昇するが、成熟細胞でのみさらに72時間まで上昇を続けることも分かった。COX-2阻害剤でPGE2産生が完全に抑制されたことから骨芽細胞中でのプロスタグランジン産生への本酵素の重要性が示された。 成熟細胞が分泌するPGE2産生増強因子 成熟骨芽細胞のライゼートを調整して、幼若骨芽細胞に添加して培養の後、PGE2産生を調べたところ、産生が著しく亢進していた。ライゼート中に幼若細胞におけるPGE2産生をうながす活性があることが分かり、さらに調べた結果この因子は細胞外基質(硫酸化多糖)に結合して存在する熱不安定な分子であることが判明した。 本研究において石灰化をきたすような成熟骨芽細胞がPGE2供給源として大きな位置を占めることが示された。この細胞自身のPGE2産生が亢進しているのみならず、幼若細胞にも働きかけPGE2産生を促す活性もあることが明らかになった。骨に関する生理学、病態生化学の発展に寄与するところがあり博士(薬学)に値すると判定された。 |