No | 214637 | |
著者(漢字) | 照屋,功 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | テルヤ,イサオ | |
標題(和) | 後方ステップ再付着流れ | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 214637 | |
報告番号 | 乙14637 | |
学位授与日 | 2000.03.16 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第14637号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | はく離・再付着流れは,流体機器等の工学的応用物のみならず自然・生活環境の中において随所で見られ,極めて重要な現象である.流体機器において流路内や翼周りで生ずるはく離・再付着流れは,全圧の損失,流路抵抗増大,圧力変動の原因となるばかりでなく機器の効率低下を引き起こす.このように流れのはく離・再付着現象は,一般に機器の効率低下などの障害の原因となるため,これまでは抑止することへの関心が高く,多くの研究がなされてきたた.しかしながら,近年においてははく離せん断層内の熱・物質混合拡散の促進,再付着領域における高熱伝達率特性などの有益な面にも目を向けられ,その積極的な利用が試みられてきている.このような二面性を持つはく離・再付着流れの性質を目的に応じてそれぞれ工学的に有効利用することが望まれる.そのためには再付着流れ場の機構解明を図るとともにその流れ場の制御について情報獲得が必要である. 二次元後方ステップの流れ場は,はく離がステップ後縁に固定された比較的単純なはく離・再付着流れ場でいあるため,多くの研究対象にされてきた.その再付着点距離に影響をおよぼす個々の因子についても数多く検討が行われてきたが,複数の因子についての系統的な研究についてはあまりなされていない.そこで,本研究では後方ステップにおけるはく離・再付着流れに関して,ステップ入口にかく乱を与え,入口乱れ強さ,流路拡大比,流入境界層厚さ,が再付着現象に及ぼす複合的影響について実験により調べた.これらの結果から再付着流れ場の機構解明と再付着点距離制御の効果を検討した. はく離点近傍での乱れ強さをステップ上流の壁面にかく乱源として,一本のロッド,フェンス,ボルテックスジェネレータ等を設置することで制御した.作動流体に空気を用い,テストセクションを回流型大型風洞(吹出し口寸法:1m×1m)流路内に設置して測定を行った.ステップ高さH=60mm,アスペクト比B/H=16.2である.流路入口からステップまでの助走流路長さを変えることで流入境界層条件を変化させた.表1に流入境界層厚さが薄い場合,厚い場合について境界層パラメータを示す.ステップ上流側の流路高さW1と下流側の流路高さW2の比である流路拡大比ERは,フラット側壁を移動させることにより変化させる. 測定は,基準断面(x/H=-3)での流路高さ中央におけるx方向時間平均速度U0,空気の動粘度,ステップ高さHによるレイノルズ数がReH=U0×H/=105一定の条件で行った.ステップ下流の壁面近傍での順流率の測定はサーマルタフトプローブを用い,再付着点距離xR/Hは=0.5となる位置から決定した.はく離点近傍の入口乱れ強さと速度の測定にはI型熱線プローブを,壁面圧力変動の測定には圧力センサを用いた.ステップ下流での速度場の測定にはスプリットフィルムプローブを用いた. まず,ステップ入口上流においてスパン方向に一様である二次元的かく乱,スパン方向に非一様である三次元的かく乱,について各種のかく乱要素を設置し流れ場にかく乱を導入することによって再付着点位置が変化することを示した.さらに,かく乱の種類によらず再付着領域の幅で整理した順流率分布は同一となることから再付着領域の流れ場はこの領域を通過する渦によって支配され,再付着領域の相似性が存在することを示した. つづいて一本のロッドを用いた二次元的かく乱について,かく乱の影響を検討し,先に示された入口乱れの付加により再付着点距離が減少する機構をかく乱を与えた場合のはく離せん断層の発達および連行流量の増加から検討を行い,流路拡大比および流入境界層の厚さの差異がおよぼす影響について考察した. ステップ入口における乱れの付加の影響をさらに明確にするため,はく離せん断層内の大渦挙動および壁面近くの大渦挙動について流入境界層が薄い場合および厚い場合について大渦挙動をはく離せん断層内の速度変動および壁面の圧力変動の周波数解析から検討した上で流路拡大比および流入境界層の厚さの差異が入口乱れを付加した再付着流れ場に対する影響を考察した.さらに,はく離せん断層内の速度変動に対してウェーブレット解析を導入し,はく離直後の微細な渦の成長を観測し,はく離点近傍において乱れを付加した場合渦の発達が促進されていることを確認した. かく乱により与えられた乱れの強さと再付着点距離について,はく離点近くの局所乱れ強さを用いて整理をおこない,流路拡大比および流入境界層の厚さの差異がおよぼす影響も示した(図1).また,先に示した再付着流れ場の相似性について,流路拡大比,流入境界層厚さの差異も含めた広範囲の条件のもとで再検討した(図2).ステップ下流の壁面圧力分布からステップ流れ場の圧力回復を求め,理想流体で得られる圧力回復量に対するかく乱を与えた場合に得られた圧力回復量の比として圧力回復効率を定義し,再付着点距離の減少と圧力回復効率の関係を検討した. 以上において得られた知見を以下に示す. 1.流入境界層厚さ,流路拡大比の差異によらず,ステップ入口のはく離点近傍における最大乱れ強さTumaxが約10%以上になると,再付着点距離は減少する.最大乱れ強さTumaxに対する再付着点距離xR/Hの減少割合は,流路拡大比ERが小さい場合と大きい場合では異なり,流路拡大比が大きいと減少割合は小さくなる. 2.流入境界層厚さ,流路拡大比,乱れ強さの差異によらずステップ下流の再付着領域での流れ場は,この領域を通過する渦により支配されている. 3.はく離せん断層内の速度変動のウェーブレット解析により,時間に対して継続的でなく,ときおり,しかも弱くあらわれている小さな渦をも観察できた.これを用いて,はく離点近傍において乱れを付加した場合,流路拡大比の差異によらず渦の発達が促進されていることを確認した. 4.理想流体で得られる圧力回復量に対するかく乱を与えた場合に得られた圧力回復量の比として圧力回復効率を定義し,再付着点距離の減少に対する圧力回復効率の変化を示した.流入境界層厚さの差異によらず,再付着点距離xR/Hの減少に伴い,圧力回復効率はほぼ直線的に減少し,流路拡大比が小さい方がxR/Hの減少に対するの減少割合は小さい.また,圧力回復効率では流路拡大比の差異を流入境界層厚さの差異に置き換えて表現できる可能性がある. | |
審査要旨 | はく離・再付着流れは、流体機器等の工学的応用物のみならず自然・生活環境の中において随所で見られ、極めて重要な現象である。流体機器において流路内や翼周りで生ずるはく離・再付着流れは、全圧の損失、流路抵抗増大、圧力変動の原因となるばかりでなく機器の効率低下を引き起こす。このように流れのはく離・再付着現象は、一般に機器の効率低下などの障害の原因となるため、これまでは抑止することへの関心が高く、多くの研究がなされてきたた。しかしながら、近年においてははく離せん断層内の熱・物質混合拡散の促進、再付着領域における高熱伝達率特性などの有益な面にも目を向けられ、その積極的な利用が試みられてきている。 このような二面性を持つはく離・再付着流れの性質を目的に応じてそれぞれ工学的に有効利用することが望まれる。そのためには再付着流れ場の機構解明を図るとともにその流れ場の制御について情報獲得が必要である。 二次元後方ステップの流れ場は、はく離がステップ後縁に固定された比較的単純なはく離・再付着流れ場であるため、多くの研究対象にされてきた。その再付着点距離に影響をおよぼす個々の因子についても数多く検討が行われてきたが、複数の因子についての系統的な研究についてはあまりなされていない。 本論文では後方ステップにおけるはく離・再付着流れに関して、ステップ入口にかく乱を与え、入口乱れ強さ、流路拡大比、流入境界層厚さ、が再付着現象に及ぼす複合的影響について実験により調べている。これらの結果から再付着流れ場の機構解明と再付着点距離制御の効果を検討した結果について記述されている。 本論文は全7章から構成されている。 第1章「序論」では、研究の目的・意義、従来の研究の概要と本論文の概要が述べられている。 第2章「実験装置および実験方法」では、実験装置及び実験方法について述べられている。 第3章「再付着領域流れ場の構造」では、ステップ入口上流において各種のかく乱要素を設置し流れ場にかく乱を導入することによって再付着点位置が変化することが示されている。さらに、かく乱の種類によらず再付着領域の幅で整理した順流率分布は同一となることから再付着領域の流れ場はこの領域を通過する渦によって支配され、再付着領域の相似性が存在することを示している。 第4章「入り口乱れ付加による再付着点距離の減少機構」では、一本のロッドを用いた二次元的かく乱について、かく乱の影響を検討し、第3章で示された入口乱れの付加により再付着点距離が減少する機構をかく乱を与えた場合のはく離せん断層の発達および連行流量の増加から検討を行っている。また、流路拡大比および流入境界層の厚さの差異がおよぼす影響についても述べている。 第5章「流れ場内の大渦の挙動」では、ステップ入口における乱れの付加の影響をさらに明確にするため、はく離せん断層内の大渦挙動および壁面近くの大渦挙動について流入境界層が薄い場合および厚い場合について大渦挙動を検討した上で流路拡大比および流入境界層の厚さの差異が入口乱れを付加した再付着流れ場に対する影響を考察している。さらにウェーブレット解析を導入し、はく離直後の微細な渦の成長を観測している。 第6章「壁面近傍の乱れ強さが再付着現象に与える影響」では、かく乱により与えられた乱れの強さと再付着点距離について、はく離点近くの局所乱れ強さを用いて整理をおこない、流路拡大比および流入境界層の厚さの差異がおよぼす影響も含めその関係を示している。また、3章で示した再付着流れ場の相似性について、流路拡大比、流入境界層厚さの差異も含めた広範囲の条件のもとで検討をおこなっている。 第7章「圧力回復効率と再付着点距離の減少の関係」では、ステップ下流の壁面圧力分布からステップ流れ場の圧力回復を求め、理想流体で得られる圧力回復量に対するかく乱を与えた場合に得られた圧力回復量の比として圧力回復効率を定義し、再付着点距離の減少と圧力回復効率の関係を示している。 最後に第8章「結論」において本論文の成果がまとめられている。 以上を要するに本論文の著者は、後方ステップにおけるはく離・再付着流れに関して、ステップ入口にかく乱を与え、入口乱れ強さ、流路拡大比、流入境界層厚さ、が再付着現象に及ぼす複合的影響について実験により調べている。これより、かく乱により発達促進されたはく離せん断層内の大渦の挙動およびこれに伴う再付着点距離の減少の機構が明らかにされている。また、与えられた乱れの強さと再付着点距離について、はく離点近くの局所乱れ強さを用いて整理をおこない、流路拡大比および流入境界層の厚さの差異がおよぼす影響も含めその関係を示している。さらに、かく乱による再付着点距離の減少に対する圧力回復効率の関係を示している。これらの点において、著者の研究は工学上寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51143 |