本論文は、「鉄道車両用操舵機構付き独立車輪台車の運動力学に関する研究」と題し、8章よりなる。 第1章は、「序論」と題し、研究の背景及び目的を述べている。鉄道車両では、高速走行安定性と曲線通過性能を両立させる台車の開発が重要であるが、そのひとつの手法として、ボギー角連動操舵台車および独立車輪台車を取り上げ、これらを組み合わせた操舵機構付き独立車輪台車の理論解析および設計上の指針を明らかにすることを目的とすると述べている。 第2章は、「車輪・軌条輪の接触幾何」と題し、本研究で用いる理論解析において、基礎となる車輪・軌条輪の接触幾何学に関する検討結果を示している。車輪・軌条輪3次元接触プログラムを開発し、車輪・レールの接触状態と比較している。提案する台車の開発には、試験台での台車の運動を予測や、試験結果からレール上での運動を適切に推定することが重要であり、そのためには、車輪・レールだけでなく、車輪と軌条輪の接触点に関する情報が必要となる。従来は、車輪・軌条輪の接触幾何に関しては厳密に求めたものがなかったが、本研究では、車輪・軌条輪の3次元接触幾何の解析を行うことにより、車輪・軌条輪と車輪・レールの接触状態の違いを明らかにしている。すなわち、同じ車輪径で比較した場合、レールに比べて軌条輪ではクリープ係数が小さく、接触圧力が大きく、また、スピンが大きくなることを示している。また、軌条輪の影響をなくすために、車輪径を補正すると、フランジ接触付近及びヨー変位が3°程度になると違いがあることを導いている。 第3章は、「操舵台車の理論と応用・その1(貨車への応用)」と題し、従来の一体輪軸台車にボギー角連動方式の操舵機構を組み込んだ場合について、走行安定性と曲線横圧の理論解析を行っている。さらに、実際に操舵台車を試作して走行試験を行い、理論の検証を行っている。理論解析により、ボギー角連動操舵台車は、走行安定性と横圧低減効果を得るために、操舵リンク支持剛性と軸箱支持剛性の適値を得る必要があること、積車より空車は走行安定性が低いことを明らかにしている。さらに、理論解析と実験により、試作した操舵台車の曲線における定常横圧低減効果を示している。 第4章は、「操舵台車の理論と応用・その2(特急旅客車への応用)」と題し、第3章と同じボギー角連動操舵方式を、特急旅客車用の操舵台車に応用した結果を述べている。ボギー角連動操舵台車の運動特性を明らかにするとともに、実用化に結び付けるまでに行った理論解析と走行試験結果を示している。本章で得られた新たな知見として、横圧低減効果は、緩和曲線も含めて評価する必要があること、緩和曲線での操舵遅れを小さくして効果的な横圧低減効果を得るための操舵比があること、円弧踏面は緩和曲線での横圧をより小さくできること、等を明らかにしている。 第5章は、「独立車輪台車の理論」と題し、独立車輪台車についての運動特性の理論解析を行っている。さらに、試作した独立車輪台車による走行試験を行い、理論を検証している。まず、理論解析により、1輪軸としての独立車輪と一体輪軸の運動特性の違いを明らかにし、独立車輪台車と一体輪軸台車の曲線通過横圧をシミュレーションにて比較している。これらの検討をもとに独立車輪台車を試作し、試験台試験、本線走行試験を行い、さらに同台車を駆動台車とした運動特性を検討している。その結果、独立車輪台車は走行安定性が高いこと、曲線通過時の横圧が大きいこと、偏り走行が生じやすいこと、接触角度差の大きい踏面形状を採用することで偏り走行を防止できることを明らかにしている。駆動に関しては、ノースピンデフを用いた場合、片輪駆動が生じやすいことを示している。 第6章は、「操舵機構付き独立車輪台車の理論」と題し、第5章までの研究成果を踏まえて、ボギー角連動操舵機構と独立車輪を組み合わせることによって、新幹線なみの高速走行安定性と在来線の急曲線をより小さな横圧で走行できる、『操舵機構付き独立車輪台車』を世界で初めて提案している。この台車について、理論的に運動特性を解析し、実際の開発に結び付けている。独立車輪の偏り走行を防止するため、接触角度差を大きくした新独立車輪踏面形状を開発し、台車構造を単純化するために、ボルスタレスとした操舵機構付き独立車輪台車を考えている。この台車でも、Weinstock効果と呼ばれる静的な不安定現象が理論上認められるが、操舵比、操舵リンク剛性、横クリープ係数を小さくすることにより安定化できること、輪軸の重力復元力も安定化に寄与することを見出している。また、この台車は、高速で車体蛇行動の安定性が低下する可能性があるが、車輪の重力復元力は、輪軸の復元機能とともに、車体蛇行動の安定性を高める効果を持つことを明らかにしている。 第7章は、「ボギー角連動操舵台車の曲線通過性能に関する理論的考察」と題し、簡易な台車モデルにより、提案する操舵台車の操舵比を理論的に求める式を導いている。この式により、台車諸元が操舵比に及ぼす影響を理論的に明らかにしている。台車がラジアル位置をとるには、操舵比の割り増しが必要であり、台車回転抵抗が大きい場合、また輪軸の自己操舵機能が不足する場合は、操舵比を1.0以上とする必要があることを明らかにしている。 第8章は、「結論」と題し、本論文の第2章から第7章までの理論解析、試作台車の走行試験より得られた本研究の結論をまとめて述べている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |