本論文は、「微小重力で高温加熱可能な格子状静電四重極による球体閉じこめ方式の研究」と題し、宇宙空間などの微小重力環境下において無容器状態のままで材料を溶融結晶化させる実験などを行う上で必要不可欠な、高温加熱可能な浮遊装置を静電気制御技術によって実現すべく行われた基礎研究をまとめたものであって、全体で7章から構成されている。 第1章は、「宇宙環境利用の材料実験と静電浮揚」と題する序論である。本研究の背景として宇宙空間での微小重力実験に要求される諸要素を検討し、微小重力下において加熱できる支持方式として格子状の四重極を用いた交流電圧支持方式と、直流電界による反発保持を組み合わせた静電制御支持方式を提案するに至るまでの経緯を詳細に記述し、その後の研究方向を検討した結果がまとめられている。 第2章は、「浮遊制御系の電位および電界計数」と題し、保持すべき球体の運動を議論する上で必要不可欠な四重極配置における電位分布を実形状に即して重ね合わせを用いて計算し、更に、その結果を利用し、それを微分することによって電界分布までもを求めるプログラムを完成させ、いくつかの例について計算した結果を示している。また、垂直方向の閉じこめ力を発生させるために導入された2つの球電極によって通常の四重極での電位分布とは大幅に異なるでんいぶんぷとなることなどを明らかにしている。なお、この球電極の電位は、各電極をそれぞれ1つの点電荷で置換した程度の近似モデルで計算しても電位分布が必要な場所での計算誤差は3%以下であることを明らかにし、以後、この簡略化した電位分布計算でよいことを確認した。 第3章は、「浮遊制御空間での帯電球体運動の計算機シミュレーション」である。帯電粒子の挙動を流体の粘性を考慮した運動方程式を元に、第2章で求めた電位分布を考慮して解き、現実の帯電粒子の運動を計算機シミュレーションによって求めた結果を示している。これによって、浮遊安定条件を明確にした。 第4章は、「外乱が作用した場合の球体の運動と浮遊位置制御」と題し、宇宙で発生しうると思われる外乱が、帯電粒子の運動に及ぼす影響を粒子の運動をシミュレーションすることによって解析した結果を報告している。外乱の影響の規模は、3種類程度に大別されること、外乱に対する新たな制御方式として間歇電圧制御方式と称する方式を提案している。これは、外乱が発生して粒子の位置がおかしくなると、それを検出して電極系全体に直流電圧を印加することで急速に愛乱を収束させることができると結論している。 第5章では、「安定浮遊と高温加熱の同時達成を可能とする浮遊制御」と題し、輻射か熱によって2,000度C以上まで加熱可能な静電浮揚装置をシミュレーションによって検討した結果をまとめてある。加熱効果をあげるために、四重極を細い電極棒の集合体に分割し、電極の太さ、本数などの効果を検討している。太い1電極を5本以上の細い電極で代用した場合、電位分布の変化は、20%以下であること、加熱に必要な電力は10分の1程度まで減少できることなどを明らかにしている。 第6章は、新たに提案している装置の性能を実験的に検証した結果を示したもので、「浮遊および溶融実験」のタイトルがついている。地上実験では、1電極を5本の格子電極で代用したシステムにおいて浮遊が確認されている。真空実験では、加熱するとほぼ1万秒で発泡スチロールの球が蒸発することなどを明らかにしている。また、短時間ではあるが、自由落下によって作られた微小重力下での実験も行い、直径が12mmの粒子の浮遊に成功した例を紹介している。 第7章「結論」では、これまでの研究の背景と結果とを再度まとめ、軸方向には直流電界により、また、水平方向には交流四重極閉じこめ方式を用いた静電四重極閉じこめ方式によって微小重力下での浮遊・加熱が可能であることをまとめている。 以上を要するに、本論文は、宇宙空間等の微小重力環境の下に、無容器状態のままで試料をその中心部に閉じ込め、溶融加熱等の処理を実現できる方式として、交流四重極方式と直流電界方式を組み合わせた静電気制御方式による多導体格子状電極系を提案し、その制御性能を計算機シミュレーションによって検討し、更に、その有効性を実験的にも証明したもので、今後の無重力材料実験の進歩に寄与し、静電気工学の進展に貢献するところが少なくない。 よって、本論文は、、博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 |