学位論文要旨



No 214658
著者(漢字) 峯尾,知子
著者(英字)
著者(カナ) ミネオ,トモコ
標題(和) 三相アルコキシド法および超臨界噴出法による微粒子プロセシング技術の開発
標題(洋)
報告番号 214658
報告番号 乙14658
学位授与日 2000.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14658号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 堤,敦司
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 定方,正毅
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 岡野,靖彦
内容要旨

 近年、微粒子や超微粒子は先進的な機能材料の原料として注目を集めている。このため、原料微粒子を設計し、新しい機能を付加する微粒子プロセシング技術の確立が最も重要である。本研究では、単分散微粒子を生成する新しい技術として三相アルコキシド法を提案し、その開発を行った。さらに、微粒子のコーティング・造粒技術として大量処理が可能な流動層コーティングと超臨界噴出法を用いた新しいコーティング技術の開発を行った。

1.三相アルコキシド法による単分散微粒子の合成

 アルコキシド法は、常温で高純度な単分散微粒子を得ることができるセラミック製造法の一つであが、既往の研究で主に用いられている撹拌型反応装置では、工業的規模での製造のための温度調節、混合能力を考慮したスケールアップが難しい。そこで新しい単分散微粒子の合成プロセスとして「三相アルコキシド法」を提案した。この三相アルコキシド法は、反応器として三相スラリー反応器を用い、反応器底部のガス分散板から反応成分の水をガスとして半径方向で均一に導入するものである.導入された水は、上昇する気泡から界面を通じてアルコキシド溶液の層全体へ供給されるため、反応器内の位置による混合能力の差が小さくなり、スケールアップが容易となる。さらに、導入する水蒸気濃度を変えることにより、水の供給条件を任意に制御できる。また、水は蒸気として導入されるため、従来必要であった水を希釈するためのアルコールも不要となる。この「三相アルコキシド法」の単分散微粒子の合成の可能性を探り、特に水蒸気供給条件が生成粒子に与える影響を検討した。さらに、粒径制御の可能性を探るため、単分散チタニア種粒子を用いた成長実験を行った。

 Fig.1に示す三相反応器を用い、チタニウムテトライソプロポキシド(TTIP)を水蒸気で加水分解することによりチタニア微粒子の合成を試みた結果、Fig.2のように単分散微粒子を得ることに成功した。また、単分散微粒子の粒径、粒子個数密度および収率は、TTIP溶液および水の全供給量が同じ場合でも水蒸気供給条件によって変化することを見いだした。一方、粒子成長実験では、本実験範囲において、単分散性を保持し約0.76〜0.95mの範囲で粒径制御可能であった。また、三相アルコキシド法のスケールアップにおいては加水分解反応が物質移動律速と考えられるため、気相のホールドアップと容量係数の制御が重要であると考えられた。

2.超臨界噴出法による微粒子コーティングおよび微粒子コーティング造粒

 粒子のコーティングおよびコーティング造粒は、粒子に新たな機能を付加したり、取り扱い易くする加工技術として重要であり、工業的には湿式法により大量処理が行われてきている。しかしながら、噴霧液による核粒子の凝集が起こりやすく微粒子を取り扱うことが困難である。しかも、大量処理に主に用いられる流動層装置の場合、運転時の操作変数が多いために制御が難しい。このため、新しい技術として、超臨界噴出法(RESS法)を応用したコーティング法を開発した。これは、従来の溶媒の替わりに超臨界流体にコーティング物質を溶解し、流動層内にノズルから噴出させ、核粒子表面上にコーティング物質を直接析出させる新しいコーティング法である。この方法は液滴が存在せずドライな状態で操作できるため、通常の流動層コーティングプロセスでは凝集が起こるため不可能であった微粒子のコーティングが可能となる。さらに、従来の湿式法と異なり、液滴径や乾燥の制御を行う必要がないため制御性に優れたプロセスとなることが期待できる。また、超臨界流体として二酸化炭素を用いれば低温でのコーティングが可能となり熱的に不安定な物質も用いることができ、さらに残存溶媒の問題がないなどの特徴があげられ、広範な分野での工業的応用が期待できると考えられる。本研究では、この超臨界噴出法による微粒子のコーティング、コーティング膜の徐放速度の制御およびコーティング造粒について流動層を用いた実験を行い、それぞれの可能性を探るとともに機構について考察した。

図表Fig.1 Schematic diagram of the experimental apparatus / Fig.2 Scanning electron micrograph of TiO2 products(Geometrical standard deviation:1.15,H2O:18.1×10-4kg/(m2s),Superficial gas velocity:3.01×10-2m/s) / Fig.3 Effect of rate of H2O supplied on mean particle diameter

 コーティング実験においては、核粒子(MS触媒(平均粒径56m))を空気で流動化させ、その中に超臨界溶媒として二酸化炭素を、コーティング物質としてパラフィンを用いた超臨界溶液をノズルを介して噴出しコーティングを行った。その結果、粒子の凝集は起こらず、安定なコーティングが可能であった。SEM観察により、Fig.4に示すように核粒子表面はパラフィンの微粒子および膜で均一に被覆されていることを確認した。また、コーティング速度および効率は、パラフィン濃度の増加とともに、またガス空塔速度の低下とともに増大したが、パラフィン濃度が大きな領域ではコーティング効率は頭打ちの傾向があることを見いだした。

Fig.4 Scanning electron micrographs of particles during coating(after 80 minutes coating)

 徐放速度の制御に関しては、核粒子に含浸させた染料の徐放速度を測定することにより調べた。その結果、コーティング時間によって膜厚が変わり,染料の放出量を制御できる可能性があること、また、Fig.5で示すようにノズル入口温度を変えることにより、コーティングの性質が変わり、これによる放出量の制御の可能性もあることを明らかにした。

Fig.5 Released dye concentration vs.coating film thickness

 コーティング造粒では、超臨界二酸化炭素中に溶解させたバインダーを噴出することによって析出させ、核粒子に付着している微粒子同士および微粒子と核粒子の間に固体架橋を形成させることにより、核粒子表面に微粒子の被覆層を成長させることができた。層内に液相が存在しないため、過度の凝集は起こらず、安定なコーティング造粒が可能となった。さらに、本コーティング造粒は以下の過程で起きると考えられた。

 ・静電気力により微粒子が核粒子に付着する。

 ・バインダーの超臨界溶液が噴出され、バインダーの微粒子が生成し、流動化粒子の表面に付着し、薄い膜を形成する。

 ・核粒子上の微粒子はバインダー膜に覆われ、さらに微粒子が付着する。

 ・これを繰り返してコーティング造粒が行われる。

Fig.6 Scanning electron micrograph of glanules(superficial gas velocity:0.71m/s,after 50 minutes coating)
審査要旨

 本論文は、「三相アルコキシド法および超臨界噴出法による微粒子プロセシング技術の開発」と題し、スケールアップ・制御が容易な単分散微粒子を生成する三相アルコキシド法を提案するとともに、超臨界噴出法を用いた微粒子の新しい流動層コーティング・造粒技術を開発し、その機構について考察したものである。本論文の構成は9章から成っている。

 序章では、本研究の目的および本論文の構成が述べられている。

 第1章では、微粒子プロセシングの技術体系に関して、まとめられている。

 第2章では、まず微粒子製造法としてのアルコキシド法について、既往の研究と問題点がまとめられている。そして、従来の撹拌型反応器に替えて三相スラリー反応器を用い、水を水蒸気として連続的に導入し、その供給条件により微粒子の粒径制御を行う新しい「三相アルコキシド法」を提案し、従来法と比較して三相アルコキシド法が工業的プロセスとして優れた特徴をもつことが述べられている。

 第3章では、三相アルコキシド法を用いて、チタニウムテトライソプロポキシドを、水蒸気により加水分解することによって、広い実験条件下で単分散微粒子の合成が可能であることを見いだした。また、三相アルコキシド法により、新たな核発生を抑え粒子成長を行うことが可能で、単分散性のよい微粒子が得られることが示された。さらに、三相アルコキシド法は、外部から水を水蒸気として導入するため、水の供給速度および供給時における水蒸気濃度を制御することによって、溶質濃度を制御し所定の膜厚によるコーティングを行うことが可能であるとし、三相アルコキシド法による新たな微粒子コーティングプロセスの可能性を提示している。そして、加水分解反応が水蒸気の物質移動が律速とするモデルを考え、スケールアップの可能性に関して考察がなされた。

 第4章では、超臨界流体技術を用いた新しい微粒子製造技術に関してまとめられている。

 第5章では、超臨界噴出法による微粒子コーティング法が提案されている。従来、工業的に最も広範に用いられている流動層コーティング法は、バインダー物質やコーティング物質を溶媒に溶解させ、溶液を微小液滴として噴霧し、核粒子表面にコーティング物質を付着させ、それを乾燥して被膜を形成させる。この方法は、噴霧液による核粒子の凝集が起こりやすいため、200m以下の粒子のコーティングは困難とされている。これに対し、新しく提案された方法は液滴が存在しないため凝集が起こらず、微粒子のコーティングが可能となる。実際、循環流動層中に、超臨界二酸化炭素に溶解させたパラフィンを噴出させ、従来法では困難であった粒径56mの微粒子の均一で安定なコーティングが可能であることを実証している。また、コーティング速度およびコーティング効率に対するガス流速、溶質濃度の影響を調べ、コーティング機構について考察している。

 第6章では、超臨界噴出法によるコーティング膜の除放性について報告されている。核粒子に含浸させた染料の溶出速度を、ノズル入口温度、コーティング時間を変化させて測定し、これらを制御することによって除放性が制御できることが示されている。また、ノズル出口温度がコーティング層の性質に重要な影響を与えることを見いだし、ノズル出口温度はJoule-Thomson効果による温度降下でノズル入口温度から推算できることを示した。

 第7章では、核粒子と微粒子を混合・流動化させた層中に、バインダー物質を溶解させた超臨界溶液を噴出し、核粒子表面に微粒子を付着させることによって粒子を成長させるコーティング造粒を試みている。この方法では、過度な凝集は起こらず、核粒子表面に微粒子の被覆層が成長する安定なコーティング造粒が可能なことを明らかにした。また、本コーティング造粒法の造粒機構に関して考察を与えている。

 終章では、本論文で提案された三相アルコキシド法による単分散微粒子の製造法と超臨界噴出法による微粒子プロセシング技術に関して総括されている。また、今後の展望がまとめられ、ここで提案された手法により、低コストで大量処理が可能な微粒子コーティングおよび造粒プロセスの構築が可能であると述べられている。

 以上に示すように、本論文は、制御・スケールアップが容易な単分散微粒子の新しい合成法である三相アルコキシド法と、微粒子のコーティングおよびコーティング造粒を可能とする超臨界噴出法による流動層コーティングおよびコーティング造粒法を提案し、それぞれに関してプロセス開発を行ったものであり、ここで提案されたプロセスおよび得られた知見は、広範な分野で応用が可能な新しい微粒子プロセシング技術体系の確立に資するものであり、粉体工学および化学システム工学に大きな献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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