本論文は、「三相アルコキシド法および超臨界噴出法による微粒子プロセシング技術の開発」と題し、スケールアップ・制御が容易な単分散微粒子を生成する三相アルコキシド法を提案するとともに、超臨界噴出法を用いた微粒子の新しい流動層コーティング・造粒技術を開発し、その機構について考察したものである。本論文の構成は9章から成っている。 序章では、本研究の目的および本論文の構成が述べられている。 第1章では、微粒子プロセシングの技術体系に関して、まとめられている。 第2章では、まず微粒子製造法としてのアルコキシド法について、既往の研究と問題点がまとめられている。そして、従来の撹拌型反応器に替えて三相スラリー反応器を用い、水を水蒸気として連続的に導入し、その供給条件により微粒子の粒径制御を行う新しい「三相アルコキシド法」を提案し、従来法と比較して三相アルコキシド法が工業的プロセスとして優れた特徴をもつことが述べられている。 第3章では、三相アルコキシド法を用いて、チタニウムテトライソプロポキシドを、水蒸気により加水分解することによって、広い実験条件下で単分散微粒子の合成が可能であることを見いだした。また、三相アルコキシド法により、新たな核発生を抑え粒子成長を行うことが可能で、単分散性のよい微粒子が得られることが示された。さらに、三相アルコキシド法は、外部から水を水蒸気として導入するため、水の供給速度および供給時における水蒸気濃度を制御することによって、溶質濃度を制御し所定の膜厚によるコーティングを行うことが可能であるとし、三相アルコキシド法による新たな微粒子コーティングプロセスの可能性を提示している。そして、加水分解反応が水蒸気の物質移動が律速とするモデルを考え、スケールアップの可能性に関して考察がなされた。 第4章では、超臨界流体技術を用いた新しい微粒子製造技術に関してまとめられている。 第5章では、超臨界噴出法による微粒子コーティング法が提案されている。従来、工業的に最も広範に用いられている流動層コーティング法は、バインダー物質やコーティング物質を溶媒に溶解させ、溶液を微小液滴として噴霧し、核粒子表面にコーティング物質を付着させ、それを乾燥して被膜を形成させる。この方法は、噴霧液による核粒子の凝集が起こりやすいため、200m以下の粒子のコーティングは困難とされている。これに対し、新しく提案された方法は液滴が存在しないため凝集が起こらず、微粒子のコーティングが可能となる。実際、循環流動層中に、超臨界二酸化炭素に溶解させたパラフィンを噴出させ、従来法では困難であった粒径56mの微粒子の均一で安定なコーティングが可能であることを実証している。また、コーティング速度およびコーティング効率に対するガス流速、溶質濃度の影響を調べ、コーティング機構について考察している。 第6章では、超臨界噴出法によるコーティング膜の除放性について報告されている。核粒子に含浸させた染料の溶出速度を、ノズル入口温度、コーティング時間を変化させて測定し、これらを制御することによって除放性が制御できることが示されている。また、ノズル出口温度がコーティング層の性質に重要な影響を与えることを見いだし、ノズル出口温度はJoule-Thomson効果による温度降下でノズル入口温度から推算できることを示した。 第7章では、核粒子と微粒子を混合・流動化させた層中に、バインダー物質を溶解させた超臨界溶液を噴出し、核粒子表面に微粒子を付着させることによって粒子を成長させるコーティング造粒を試みている。この方法では、過度な凝集は起こらず、核粒子表面に微粒子の被覆層が成長する安定なコーティング造粒が可能なことを明らかにした。また、本コーティング造粒法の造粒機構に関して考察を与えている。 終章では、本論文で提案された三相アルコキシド法による単分散微粒子の製造法と超臨界噴出法による微粒子プロセシング技術に関して総括されている。また、今後の展望がまとめられ、ここで提案された手法により、低コストで大量処理が可能な微粒子コーティングおよび造粒プロセスの構築が可能であると述べられている。 以上に示すように、本論文は、制御・スケールアップが容易な単分散微粒子の新しい合成法である三相アルコキシド法と、微粒子のコーティングおよびコーティング造粒を可能とする超臨界噴出法による流動層コーティングおよびコーティング造粒法を提案し、それぞれに関してプロセス開発を行ったものであり、ここで提案されたプロセスおよび得られた知見は、広範な分野で応用が可能な新しい微粒子プロセシング技術体系の確立に資するものであり、粉体工学および化学システム工学に大きな献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |