学位論文要旨



No 214674
著者(漢字) 佐竹,覺
著者(英字)
著者(カナ) サタケ,サトル
標題(和) 米の高性能分光選別機に関する開発研究
標題(洋)
報告番号 214674
報告番号 乙14674
学位授与日 2000.04.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14674号
研究科 工学系研究科
専攻 計数工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤村,貞夫
 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 教授 安藤,繁
 東京大学 教授 舘,すすむ
 東京大学 教授 杉原,厚吉
 千葉工業大学 教授 土井,淳多
内容要旨 要旨を表示する

 我が国では,米が年間約1千万トン消費されているが,製品としての米には,生育のばらつきや病虫害による不良粒や,また,生産環境に起因する,石やガラス,樹脂,陶磁器などの異物が混入する,米の品質管理では,これら不良粒や異物の混入が特に問題とされ,極限までこれらを除去することが要求される.

 本論文では,不良粒や異物の分光特性が良品の米のそれと異なることに着目した分光選別機を扱っている.従来もこの種の選別機が開発され,用いられてきたが,除去すべきものの除去率(選別率)が低く,除去したものの中に含まれる不良品の割合(不良品濃度)が低いという大きな問題があった.

 本論文では,米1粒単位で良品,不良品を識別し,除去するという新たな視点から分光選別機を構成する原料供給部,分光検出部,信号処理部および選別部の各々に要求される技術を見直し,系統的に開発を進めて,1次選別のみで選別率,不良品濃度を飛躍的に向上させるという高性能化を実現している.

 第1章は,「序論」で,米の分光選別機に関する従来技術を再確認し,問題点を指摘するとともに,本研究の独創性と有用性を述べ,本論文の構成を示している.

 第2章は,「分光特性による選別材料の識別」と題し,分光選別の基本となる選別材料(米の良品,不良粒および異物)の分光特性と,それによる識別波長域の選定および分光選別機の性能表示法について記述している.

 従来は,選別材料の分光特性を粒集合体の反射率で捉えていたが,本論文では,実際の分光選別機に近似した考え方を導入して,粒集合体での反射率と透過率を計測し,それを加算した複合(反射+透過〉分光特性比から,良品と不良品の識別が可能な波長域を求めた.その結果,白来中の不良粒の識別は中心波長450nm付近の青(B)の可視域で,異物の識別は中心波長1,600nm付近の近赤外域において,ともに良品と不良品の複合分光特性比に顕著な差が認められたので,この2波長を識別波長域として選定している,また,玄米での不良粒の識別については,1波長では不可能なために複数波長域の分光比と反射透過比による識別アルゴリズムを提唱している.

 さらに,1粒単位での良品,不良品の反射と透過を計測し,その出力信号から求めた複合出力信号比と粒集合体の複合分光特性比との相関係数を求めた.その結果,不良粒では0.903,異物では0.989の強い相関があることを示し,選別材料の不良粒と異物の識別波長域は,粒集合体の複合分光特性比から選定することが可能であることを明らかにしている.

 分光選別機の性能は,選別率と不良品濃度で表示する.選別率は原料中に混入する不良品重量に対する除去された不良品重量比,不良品濃度は不良品口に取出された総重量に対する不良品口の不良品重量比で表示され,共に100%に近い方が高い性能を示す.

 第3章は,「原料供給部の機能設計」と題し,1粒単位で除去するために解決すべき課題と解決方法について記述している.

 シュート幅10mmあたりの流量が毎時100kgの時,毎秒約1,300粒の選別材料が流下する.ここでは,この全粒を1粒ずつ検査するために,選別材料を2次元的に配置,すなわち米粒同志が重ならないように等速度で,検出部に定量供給するためめ要件を示している.

 米粒の流下状態を観察し,シュートの材質,形状,長さ及び傾斜角度が,米粒の速度と重なりに与える影響を明らかにして最適設計を行った.その結果,米の流量は電磁フィーダの振幅をフィードバック制御することで安定化し,シュート形状を平,長さを1,200mm,傾斜角度を60度に最適化することで,米粒速度4.2m/sと重なり割合8%を得ている.

 第4章の「分光検出部の機能設計」においては,光源の安定化と背景板の自動調整法を確立するとともに,可視検出器と近赤外検出器の設計および選定について記述している`

 速度4.2m/sで流下している白米に含まれる,着色部がφ0.5mmの不良粒と大きさがφ2mmの異物を100%識別できる空間分解能を持つ分光検出部の設計条件を示し,視野280mmの根拠を明らかにしている.さらに,1粒の分光検査装置によって,反射と透過を複合することで,第2章で選定した識別波長域により,不良粒と異物を識別できることを実証し,微小着色部のる不良粒の姿勢変化への対応から可視検出器を選別材料の前後に設ける必要性を明らかにしている.

 設計した分光検出部の光源には,不良粒用として可視域に青色蛍光灯を,異物用として近赤外域にハロゲンランプを採用した,そして,光学フィルタには,波長域430nm〜470nmの可視用フィルタと1,400nm以下の光を遮断する近赤外用IRフィルタをそれぞれ選定し,光学レンズには,高い解像度で結像するものを採用した.また,可視光センサには2,048素子CCDSiセンサを,近赤外センサには256素子InGaAsリニアセンサを選定している.

 第5章は,「信号処理部の機能設計」と題し,不良粒の特定方法と不良粒の中心位置検出方法並びに選別部との関係について明らかにしている.

 比較回路では不良粒の特定と外形検出を行い,画像処理により不良粒の中心位置を確定している.噴射時間設定回路では噴射時間を決定し,遅延時間調整回路では,不良粒の検出時点から,電磁バルブ作動時点までの時間的な遅れを調整し,不良粒の中心位置に関連させている.

 第6章は,「選別部の機能設計」と題し,信号処理部からの信号により高速で応答する電磁バルブと不良品1粒だけを吹き飛ばす噴射ノズルに必要な条件を示し,設計と実験により目標値を達成している.

 実験では,速度4.2m/sで連続して流下する不良品に,電磁バルブを1サイクル0.67msの高速度で応答させて,バルブ作動時間を0.4msにし.シミュレーションによりノズル口寸法を横1.5mm×縦1.0mmに設計して,噴射時間を0.5msにすることで,100%の確率で不良粒を除去できることを確認した.

 第7章は,「分光選別機の性能評価」と題し,第6章までの各構成部の各論の成果をすべて採用した分光選別機を新しく製作し,性能確認をして,本研究の総合評価を行っている.

 選別率では,シュート幅10mmあたりの流量が毎時100kgの時,1次選別のみで95%の目標値に対して97.2%を達成し,不良品濃度では,従来約10%であったものを,75.3%に改善できた.この結果は,本論文の研究内容が,分光選別機の高性能化に有効であることを示している.

 第8章は,「結論」として,本研究で得られた知見と成果をまとめるとともに今後の課題に言及している.分光選別機の各構成部を体系的に見直し,各構成部の改善と画像処理技術を導入した結果,能力と選別性能の向上に関し所期の目標を達成している.

審査要旨 要旨を表示する

 我が国では,年間約1千万トンの米が消費されているが,製品としての米には,生育のばらつきや病虫害による不良粒,また,生産環境への混入で,石やガラス,樹脂などの異・物が混入する.米の品質管理では,不良粒や異物の混入が特に問題とされ,これらを極限まで除去することが要求される.

 本論文では,不良粒や異物の分光特性が良品の米のそれと異なることに着目した分光選別機を扱っている.従来もこの種の選別機が開発され,用いられてきたが,除去すべきものの除去率(選別率)が低く,除去したものの中に含まれる不良品の割合(不良品濃度)が低いという大きな間題があった.

 本論文では,米1粒単位で良品,不良品を識別し,除去するという新たな視点から選別機を構成する原料供給部,分光検出部,信号処理部および選別部の各々に要求される技術を再検討し,系統的に,綿密な設計と現象の観測・解析に基づく開発を進めて,選別率,不良品濃度を大幅に向上させるという高性能化を実現している.

 第1章は「序論」で,米の分光選別に関する従来技術をレビューし,問題点を指摘するとともに,本論文での発想や技術の独創性と有用性を提示し,本論文の構成を示している.

 第2章は,「分光特性による選別材料の識別」と題し,分光選別の基本となる選別材料(米の良品,不良粒及び異物)の分光特性の測定と波長選定について記述している.さらに,従来用いられてきた分光選別機の性能表示法についても言及している.

 本論文では,米粒の一部に着色部をもつ不良粒について,着色部の位置に依らない検出を要することと,米が半透明であることに着目して,米粒の表面での反射光と米粒を透過した透過光とを同時に用いた検出法を考案している.

 識別に用いる分光特性は,これを反映して,反射率と透過率を結合した複合特性を用いており,粒集合体,静止1粒,移動1粒のそれぞれについて複合特性を測定して識別に用いられる波長域を決定している.同様の手法を異物の識別にも適用し,両者を同時に検出する波長域として,450nm近辺の可視域と1,600nm近辺の近赤外域が適していることを明らかにしている.

 さらに,分光選別機の性能表示には,不良品除去率(選別率)と不良品濃度が用いられることを述べ,それぞれの定義を示している.

 第3章は,「原料供給部の機能設計」と題し,1粒単位での選別のために解決すべき原料供給部の課題と解決方法について記述している.シュート幅10mm当たりの流量が毎時100kgのとき,毎秒約1,400粒の選別材料が流下する.この全粒を1粒ずつ識別するために,選別材料を2次元的に配置して米粒同士が重ならず,等速度で検出部に供給される条件から流下速度を導いている.この値の周辺の条件で米粒を流下させ,その状況を高速度カメラで観察し,米粒の重なりが少なくなるシュートの材質,形状,長さ,および,傾斜角度を求め,長さ1,200mmの平シュートで,傾斜角度60度のとき,米粒速度4.2m/sで,重なりを8%に低減できることを明らかにしている.

 第4章「分光検出部の機能設計」においては,光源の安定化法と,良品と不良粒とを識別し易くするために設置した背景板とその輝度の自動調整法を示すとともに,可視検出器と近赤外検出器の仕様について記述している.着色部の大きさが0.5mmまでの不良粒と,2mmまでの異物を識別する空間分解能をもつ分光検出部を設計し,主として前者を検出する可視域センサに2,048素子のSi CCDセンサを,主として後者を検出する近赤外域センサに256素子のInGaAsリニアセンサを選定して実験し,いずれもが検出できることを確認している.さらに,2章での知見に基づき,各センサに対する照明光源と,複数の照明光源の配置を決定している.

 第5章は,「信号処理部の機能設計」と題し,不良品の検出と不良品の中心位置検出,ならびに,検出信号の選別部への伝送時間について述べている.最初に,背景板を用いて不良品の特定と外形検出を行い,パターンマッチング手法を応用したハードウエアで構成する画像処理回路により不良粒1粒の中心位置を定めている.次に,不良品の検出時点から,噴射ノズル作動時点までの,不良粒の移動時間と検出信号の伝送時間の間の遅れを調整し,不良品の中心に高圧空気を吹き付けて,不良品を1粒だけ除去するための信号処理法を確立している.

 第6章は,「選別部の機能設計」と題し,不良品1粒だけを吹き飛ばす噴射ノズルの形状,寸法と,高速で応答する電磁バルブの開発について記述している.電磁バルブの高速化のための設計と,シミュレーションによる噴射空気に対する設計を行うとともに,噴射ノズルの縦・横寸法の設計を行い,4.2m/sの速度で流下してくる不良品を排除するのに,応答速度が0.67msの電磁バルブを開発し,また,縦1.0mm×横1.5mmの寸法の噴射ノズルを開発して,該当する1粒だけを除去する技術を確立している.

 第7章は「分光選別機の性能評価」で,第6章までの成果を基に新しく製作した分光選別機の性能を評価し,開発技術の有効性を確認している,不良品除去率(選別率)は97.2%,不良品濃度も従来の10%に対して75.3%を達成し,大幅な改善を実現している.

 第8章は「結論」で,本開発研究で得られた知見と成果をまとめるとともに今後の課題に言及している.

 以上要するに,本論文は,米の不良品選別において,従来にはない,米1粒単位で良品,不良品を識別し除去するという新たな視点から分光選別機を構成する各部に要求される技術を系統的に,綿密な設計と現象の観測・解析に基づいて開発し,大幅な性能向上を実現したもので,計測工学,農業工学上の貢献が大きい.よって,博士(工学)の学位論文として合格と判定する.

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