学位論文要旨



No 214680
著者(漢字) 鈴木,幸吉
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,コウキチ
標題(和) 糖-アルキル型新規腎臓認識素子による腎臓ターゲティング
標題(洋)
報告番号 214680
報告番号 乙14680
学位授与日 2000.04.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第14680号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 井上,圭三
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 助教授 佐藤,均
 東京大学 助教授 樋口,恒彦
内容要旨 要旨を表示する

 薬物の高い有効性、安全性を実現するために、特定臓器への薬物送達システムの開発が重要な課題であり、各種の方法が試みられている。その中で臓器特異的に薬物を送達するターゲティングベクターの開発は非常に重要なステップである。これまでベクターとしてポリペプチド、抗体、ウイルス、脂肪酸および糖などが検討されてきた。今回、私は生体での認識に深く関わることが解明されつつある糖に注目し、糖を利用した新たな薬物送達システムの構築を試みた。生体内の糖認識機構としては、糖輸送担体、レクチン、糖関連酵素等が知られている。なお、糖を応用した臓器指向化用ベクターとしては、肝臓でのアシアロ糖蛋白レセプターの認識を利用した検討が詳細に進められ、各種低分子、高分子蛋白、遺伝子のデリバリーに役に立ってきた。しかしながら、他の臓器については糖によるデリバリーの詳細な報告は少ない。このような状況から、(1)糖を用いた新たな臓器ターゲティングベクターを見出すこと、(2)臓器指向性を動態解析により特徴づけること、(3)ベクターの構造要件を明らかとすること、(4)薬物への応用に関して基礎的知見を得ること、を目的として本研究を実施した。

【本論】

1. 糖修飾ペプチドの特異的な腎臓取り込み

 モデルペプチドとしてArg-Vasopressin(AVP)を選択し、オクタメチレン(C8)を介して各種の糖を結合させることにより糖誘導体を調製した。臓器指向性の評価項目としては、in vivoO評価として臓器分布実験を、in vitro評価として臓器膜画分との結合実験を実施した。なお、臓器分布実験では、各3Hラベル体を1nmol/kgの用量でラットに静注し、その5分後の臓器中濃度をその時点までの血漿中濃度下面積(AUC)で除することにより見かけの臓器取り込みクリアランス(CLup,app)を求め、当該化合物の各臓器に対する固有の指向化能力の指標とした。

 AVPの各種糖修飾体の臓器指向性について比較したところ、腎臓以外は糖修飾体間での顕著な差異は認められなかった。腎臓のみ明確な差異が認められ、glucose誘導体(Glc-O-C8-AVP)、mannose誘導体および2-deoxyglucose誘導体のみCLup,appが2ml/minを越え明らかな腎臓指向性を示した。Glc-O-C8-AVPの腎臓内集積部位はオートラジオグラフィにより、皮質部位の近位尿細管であり、髄質に集積する非修飾AVPとは異なることが明らかとなった。in vitroでの膜画分との結合実験から、これら腎臓指向性を示した検体は、腎臓の膜画分に対して結合性を示し、その特異的結合における解離定数は14から55nMであった。また、この特異的結合に対しては糖のみでは阻害効果が弱く、アルキルおよびペプチド部分が関与していることが示唆された。

 腎臓指向性を示したGlc-O-C8-AVPの腎臓移行に関する動態的解析を行い以下の結果を得た。(1)integration plotにより腎臓取り込みクリアランス(CLup,kidney)を測定した。低用量(1nmol/kg)でのCLup,kidneyは1.7ml/minであり、抽出率は約71%と算出された。また、高用量(300nmol/kg)でのCLup,kidneyは約0.33ml/minと大きく低下し、特異的取り込み機構の存在が示唆された。(2)投与量を1から300nmol/kgまで増加させた場合の投与直後の全身クリアランス(CLtotal(early))は低下し、その低下は腎臓CLup,appの減少で説明できた。これは、血中からの消失を担う特異的な移行機構が腎臓に存在することを示唆するものと考えられた。さらに、血中初濃度と腎臓CLup,appの関係から求めた腎移行のKm値は40から80nMと算出され、先に求めたin vitro膜画分との結合におけるKd値(55nM)と合致する値であった。(3)飽和投与量と考えられる300nmol/kgの非標識体投与直後では、標識体の腎臓CLup,appが低下し、時間経過と共に回復した。この原因は、血中に残存する非標識体による腎臓移行の競合阻害か、腎臓側認識分子のdown regulationが考えられた。そこで、血中初濃度に対する腎臓CLup,appの関係について、単回投与条件で投与量を変化させた場合のプロットと非標識体飽和量をあらかじめ投与した後にトレーサー量の検体の腎臓取り込みを検討した場合のプロットとの比較を試みた。その結果、両プロットの差は顕著ではなく、腎臓CLup,app低下はほぼ血中に残存する非標識体による競合阻害で説明できると考えられた。

 以上から、特定の糖修飾AVPが特異的機構を介して腎臓に移行すること、腎移行には腎臓膜画分上の結合が関与すること、が明らかとなった。

2. 糖-アルキル型腎臓指向化ベクターによるモデル薬物の腎臓指向化

 腎臓指向性を有するGlc-O-C8-AVP等の誘導体は、糖、アルキル、ペプチドの各部分が腎臓移行に関与することが示唆された。薬物への応用を考えた場合、より単純な構造の方が応用しやすいことから、糖-アルキル部分の検討を進めることとした。3H-Glc-O-C8-AVPの腎臓膜画分への結合に対する阻害効果を検討したところ、Glc-S-C7-MeがGlc-O-C8-AVPの部分構造であるGlc-O-C7-Meより強く、リガンドとしたGlc-O-C8-AVPとほぼ同程度の強さであった。そこで、Glc-S-C7-Meの3Hラベル体で検討したところ、Kdが約16nMの特異的結合が腎臓膜画分で観察された。さらに、3H-Glc-S-C7-Meはin vivoでも5ml/minとの高い腎臓CLup,appを示し腎臓指向性を示した。すなわち、Glc-S-C7-Meには腎臓指向化のためのベクターとしての可能性が期待された。

 そこで、幾つかのモデル薬物に対してGlc-S-C8-修飾体を調製し、その臓器分布の変化を検討した。まず、AVPの修飾体Glc-S-C8-AVPの腎臓CLup,appが3.4ml/min/gとGlc-O-C8-AVP(2.4ml/min/g)より高い腎臓指向性を示した。また、アルキル鎖長を5および11に変えたGlc-S-C5-AVPおよびGlc-S-C11-AVPについて比較したところ、前者の腎臓CLup,appは0.49ml/min/gと低い値でAVPとほぼ等しいのに対して、後者の値は4.5m1/min/gとC8誘導体より高い腎臓指向性を示した。さらに、腎臓膜画分への特異的結合がGlc-S-C8-AVP(Kd=8.6nM)およびGlc-S-C11-AVP(Kd=1.51nMおよび1700nM)には認められた。これは、腎臓認識におけるアルキル鎖長の重要性を示唆するものと考えられた。

 次に低分子化合物のモデルとして選択したtryptamineのオクチルチオ誘導体の腎臓CLup,appは5.72ml/min/gと非修飾体の0.63m1/min/gより顕著に高い腎臓指向性を示した。

 さらに、蛍光を有する低分子化合物であるNBDの誘導体(Glc-S-C8-NBD)の腎臓CLup,appは3.58ml/min/gであり明らかな腎臓指向性を示した。静脈内投与後30分まで経時的に血漿中濃度および臓器中濃度の推移を検討したところ、血漿中濃度は速やかに減少し、それと共に肝臓、肺、心臓、脾臓中濃度は速やかに減少したのに対して腎臓中濃度は比較的高値を保ち、投与30分後での濃度である12.1% of dose/gは、その時点での血漿中濃度の約200倍であった。従って、本検体は腎臓に移行した後、intactな形で比較的長時間にわたって腎臓に滞留すると考えられた。

 3H-Glc-S-C7-Meと腎臓膜画分との特異的結合に対し、これらの腎臓移行性を示した誘導体は強い阻害効果を示した。この結果から、これらの誘導体は腎臓膜画分上に存在する同様な認識機構により腎臓に移行していると考えられた。

 以上、AVP、tryptamineおよびNBDに対してGlc-S-C8-修飾により腎臓指向性を付与することが可能であること、アルキル鎖長により大きく腎臓指向性が変化すること、が明らかとなった。以上から、Glc-S-C7-Meは腎臓指向化ベクター候補として考えられた。

3. 糖-アルキル腎臓指向化ベクターの構造要求性

 Glc-S-C7-Meをリガンド候補として考え、3H-Glc-S-C7-Meと腎臓膜画分との結合に対する糖および糖誘導体の阻害効果を指標にして腎臓に認識される構造要件の推定を試みた。まず、各種の糖については、D-aldohexoseの一部のみがGIc-S-C7-Meの部分構造であるglucoseより強い阻害を示した。そこで、D-aldohexoseのうちのgalactose、mannose、allose、taloseおよびxyloseとglucoseの2位deoxy体および4位deoxy体についてオクチルチオ誘導体を調製し、阻害効果をGlc-S-C7-Meと比較した。その結果、mannoseおよび2-deoxy誘導体はGlc-S-C7-Meと同程度の阻害を示したのに対して、galactose、taloseおよび4-deoxy誘導体は1/100以下の弱い阻害効果しか示さなかった。したがって、糖部分についてはD-aldohexose構造が必要なこと、ピラノース環の2位水酸基の方向はどちらでも、あるいは無くてもよいこと、4位equatorial水酸基が必要なこと、が明らかとなった。この結果は、先のAVPの糖修飾体の結果と合致するものであった。

 さらに、Glc-S-C7-Meのアルキル部分を変化させた検体での阻害効果を検討した。その結果、アルキル部分の長さおよび分岐が認識に影響すること、アルキル以外に芳香環を有する構造でも認識されること、グリコシド結合原子付近の電子的環境が認識に大きく影響すること、グリコシド結合原子はS>NH>Oの順に認識性が高いこと、が明らかとなった。

 以上により、糖-アルキル型腎臓認識素子の構造要件としては、糖(glucose、mannoseおよび2d-glucose)と疎水性基(アルキルまたは芳香環)のグルコシド結合原子(S>NH>O)を介した構造として推定された。

【結論】

 本研究では、モデルペプチド(AVP)の各種糖修飾体の検討から、特定の糖修飾ペプチドが高い腎臓指向性を有することを見出し、その動態解析を進めて腎臓における特異的な移行機構の存在を明らかにした。この腎臓への特異的な移行は主に近位尿細管への移行であること、および腎臓膜画分上の認識分子が関与することが示唆された。さらに、腎臓膜画分への結合性の解析から、より単純なベクター候補化合物としてGlc-S-C7-Meを見出した。本化合物自体が腎臓指向性を有すること、さらにその構造を修飾することにより複数の化合物に腎臓指向性を付与できたことから、腎臓指向化のための新しいターゲティング用ベクターとしての可能性を示した。また、腎臓に認識されるための構造要件を検討し、特に糖部分についてはD-aldohexose構造で4位equatrial水酸基が必須であることが明らかとした。

Glc-S-C7-Me(n-octyl 1-thio-β-D-glucopyranoside)の構造:

審査要旨 要旨を表示する

 薬物の高い有効性、安全性を実現するために、特定臓器への薬物送達システムの開発が重要な課題であり、各種の方法が試みられている。その中で臓器特異的に薬物を送達するターゲティングベクターの開発は非常に重要なステップである。本研究では、糖を利用した新たな薬物送達システムの構築を目指し、(1)糖を用いた新たな臓器ターゲティングベクターを見出すこと、(2)臓器指向性を動態解析により特徴づけること、(3)ベクターの構造要件を明らかとすること、(4)薬物への応用に関して基礎的知見を得ること、を目的として以下の検討を行った。

1. 糖修飾ペプチドの特異的な腎臓取り込み

 モデルペプチドとしてArg-Vasopressin(AVP)を選択し、オクタメチレン(C8)を介して各種の糖を結合させることにより糖誘導体を調製した。これら各種糖修飾体の臓器指向性を比較したところ、腎臓以外は糖修飾体間で顕著な差異は認められなかった。これに対して腎臓では明確な差異が認められ、glucose誘導体(Glc-O-C8-AVP)、mannose誘導体および2-deoxyglucose誘導体のみCLup,appが2ml/minを越え明らかな腎臓指向性を示した。Glc-O-C8-AVPの腎臓内集積部位は皮質部位の近位尿細管であることがオートラジオグラフィにより明らかとなった。さらに、in vitroでの膜画分との結合実験から、これら腎臓指向性を示した検体は腎臓の膜画分に対して結合性を示し、その特異的結合の解離定数は14から55nMであった。また、この特異的結合に対しては糖のみでは阻害効果が弱く、アルキルおよびペプチド部分が関与していることが示唆された。

 腎臓指向性を示したGlc-O-C8-AVPの腎臓移行に関する動態的解析を行い以下の結果を得た。(1)integration plotにより腎臓取り込みクリアランス(CLup,kidney)を測定した。低用量(1nmol/kg)でのCLup,kidneyは1.7ml/minであり、抽出率は約71%と算出された。また、高用量(300nmo1/kg)でのCLup,kidneyは約0.33ml/minと大きく低下し、特異的取り込み機構の存在が示唆された。(2)投与量を1から300nmol/kgまで増加させた場合の投与直後の全身クリアランスは低下し、その低下は腎臓CLup,appの減少で説明できた。これは、血中からの消失を担う特異的な移行機構が腎臓に存在することを示唆するものと考えられた。さらに、血中初濃度と腎臓CLup,appの関係から求めた腎移行のKm値は40から80nMと算出され、先に求めたin vitro膜画分との結合におけるKd値(55nM)と合致する値であった。(3)飽和投与量と考えられる300nmol/kgの非標識体投与直後では、標識体の腎臓CLup,appが低下し、時間経過と共に回復した。血漿中濃度と腎臓CLup,appの関連の解析から、この腎臓CLup,app低下は血中に残存する非標識体による競合阻害でほぼ説明できると考えられた。

 以上から、特定の糖修飾AVPが特異的機構を介して腎臓に移行すること、腎移行には腎臓膜画分上の結合が関与すること、が明らかとなった。

2. 糖-アルキル型腎臓指向化ベクターによるモデル薬物の腎臓指向化

 薬物への応用を考えた、より単純な構造として糖-アルキル部分の検討を進めた。3H-Glc-O-C8-AVPの腎臓膜画分への結合に対する阻害効果を検討したところ、Gic-S-C7-MeがGlc-O-C8-AVPの部分構造であるGlc-O-C7-Meより強く、リガンドとしたGlc-O-C8-AVPとほぼ同程度の強さであった。そこで、Glc-S-C7-Meの3Hラベル体で検討したところ、Kdが約16nMの特異的結合が腎臓膜画分で観察された。さらに、3H-Glc-S-C7-Meはin vivoでも腎臓CLup,appが5ml/minと高い腎臓指向性を示した。すなわち、Glc-S-C7-Meには腎臓指向化のためのベクターとしての可能性が期待された。

 そこで、幾つかのモデル薬物に対してGlc-S-C8-修飾体を調製し、その臓器分布の変化を検討した。まず、AVPの修飾体Glc-S-C8-AVPの腎臓CLup,appが3.4ml/min/gとGlc-O-C8-AVP(2.4ml/min/g)より高い腎臓指向性を示した。また、アルキル鎖長を5および11に変えたGlc-S-C5-AVPおよびGlc-S-C11-AVPについて比較したところ、前者の腎臓CLup,appは0.49ml/min/gと低い値でAVPとほぼ等しいのに対して、後者の値は4.5ml/min/gとC8誘導体より高い腎臓指向性を示した。さらに、腎臓膜画分への特異的結合がGlC-S-C8-AVP(Kd=8.6nM)およびGlc-S-C11-AVP(Kd=1.5nMおよび1700nM)には認められた。これは、腎臓認識におけるアルキル鎖長の重要性を示唆するものと考えられた。次に低分子化合物のモデルとして選択したtryptamineのオクチルチオ誘導体の腎臓CLup,appは5.72ml/min/gと非修飾体の0.63ml/min/gより顕著に高い腎臓指向性を示した。さらに、蛍光を有する低分子化合物であるNBDの糖修飾体(Glc-S-C8-NBD)の腎臓CLup,appは3.58ml/min/gであり明らかな腎臓指向性を示した。本検体については静脈内投与後30分まで経時的に血漿中濃度および臓器中濃度の推移を検討したところ、血漿中濃度は速やかに減少し、それと共に肝臓、肺、心臓、脾臓中濃度は速やかに減少したのに対して腎臓中濃度は比較的高値を保った。本検体は腎臓に移行した後、intactな形で比較的長時間にわたって滞留すると考えられた。

 なお、3H-Glc-S-C7-Meと腎臓膜画分との特異的結合に対し、これらの腎臓移行性を示した誘導体は強い阻害効果を示した。この結果から、これらの誘導体は腎臓膜画分上に存在する同様な認識機構により腎臓に移行していると考えられた。

 以上から、Glc-S-C7-Meは腎臓指向化ベクター候補となりうると考えられた。

3. 糖-アルキル腎臓指向化ベクターの構造要求性

Glc-S-C7-Meをリガンド候補として考え、3H-Glc-S-C7-Meと腎臓膜画分との結合に対する糖および糖誘導体の阻害効果を指標にして腎臓に認識される構造要件の推定を試みた。その結果、mannoseおよび2-deoxyglucoseのオクチルチオ誘導体はGlc-S-C7-Meと同程度の阻害を示したのに対して、galactose、taloseおよび4-deoxyglucose誘導体は1/100以下の弱い阻害効果しか示さなかった。したがって、糖部分について、ピラノース環の2位水酸基の方向はどちらでも、あるいは無くてもよいこと、4位equatorial水酸基が必要なこと、が明らかとなった。この結果は、先のAVPの糖修飾体の結果と合致するものであった。

 さらに、Glc-S-C7-Meのアルキル部分を変化させた検体での阻害効果を検討した。その結果、アルキル部分の長さおよび分岐が認識に影響すること、アルキル以外に芳香環を有する構造でも認識されること、グリコシド結合原子付近の電子的環境が認識に大きく影響すること、グリコシド結合原子はS>NH>Oの順に認識性が高いこと、が明らかとなった。

 以上により、糖-アルキル型腎臓認識素子の構造要件としては、糖(glucose、mannoseおよび2-deoxyglucose)と疎水性基(アルキルまたは芳香環)のグルコシド結合原子(S>NH>O)を介した構造として推定された。

 以上により本研究では、モデルペプチド(AVP)の各種糖修飾体の検討から、特定の糖修飾ペプチドが高い腎臓指向性を有することを見出し、その動態解析を進めて腎臓における特異的な移行機構の存在を明らかにした。この腎臓への特異的な移行は主に近位尿細管への移行であり、腎臓膜画分上の認識分子が関与することが示唆された。さらに、腎臓膜画分への結合性の解析から、より単純な構造のGlc-S-C7-Meが腎臓指向性を有すること、さらに複数の化合物に腎臓指向性を付与できることから、腎臓指向化のための新しいターゲティング用ベクターとしての可能性を示した。また、腎臓に認識されるための構造要件を検討し、特に糖部分の4位equatrial水酸基が必須であることが示された。これらの知見は、臓器ターゲティングにおいて有用なものであり、今後糖による新たな腎臓指向化の方法論となる可能性を示すものであることから、博士(薬学)の学位を授与するのに値するものと認めた。

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