No | 214707 | |
著者(漢字) | 森本,丈太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリモト,ジョウタロウ | |
標題(和) | 高温養生されたポルトランドセメントの強度発現に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 214707 | |
報告番号 | 乙14707 | |
学位授与日 | 2000.05.18 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第14707号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究は、蒸気養生等の促進養生を行ったコンクリート製品の品質の安定化を念頭において、高温養生時の養生温度を40℃〜80℃まで変えてセメントの水和について研究を行い、養生温度がセメントの水和率、セメント水和物の性質、硬化体の内部構造および圧縮強度に及ぼす影響について一貫して検討することにより、20℃養生と高温養生の硬化体の物性の違い、および高温養生時のセメントの長期強度の増進の低下の原因を明らかにすることを目的とした。本研究はその中でも、セメントの主要構成鉱物であるカルシウムシリケート相に注目し、水和物の生成量、密度および化学組成が硬化体の空隙構造に及ぼす影響ならびに硬化体の空隙構造と強度の関係について検討することにした。また、エーライトとビーライトの含有量が異なるセメントについて同様の検討を行うことにより、セメントの鉱物組成が20℃養生と高温養生の硬化体の物性に及ぼす影響を調べ、高温環境に適したセメントの知見を得ることを目的とした。 セメントペーストにおいて、養生温度が硬化体の物性に及ぼす影響が明らかになれば、実際の構造物等に使用されている高温の履歴を受けたコンクリートに対しても、同様の現象が起きていることが予測される。従って、高温の履歴を受けたコンクリートの強度、内部構造等をより正確に把握することができ、高温環境下のコンクリートの材料設計が容易になると期待される。 第1章では、本研究の目的と方針について述べた。 第2章では、本論文に関係する既往の研究を総括した。 第3章では、高温養生時の養生温度(40℃〜80℃)の違いがセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにした。 高温養生を行ったセメント硬化体は、20℃養生の場合と比較して、水和物の密度が高いので、その体積が減少し、これに伴って硬化体の空隙量が増加する。空隙の中では圧縮強度と相関の高い半径10nm以上の空隙量が増加し、硬化体全体の空隙量と半径10nm以上の空隙量の増加が高温養生を行った場合に20℃養生よりも長期材齢において強度が低下する原因となる。40℃〜80℃の高温養生で形成されたセメント硬化体は、20℃養生と比較して、養生温度が高くなる程、ゲル空隙を含む微細な空隙が少ない組織構造になり、ゲル空隙の形成に関与する内部水和物が緻密になる。生成するC-S-Hは酸化カルシウム量が多く、CaO/SiO2のモル比が高く、密度の高い水和物になる。 第4章では、高温養生時の昇温速度がセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにした。 昇温速度が2〜20℃/時の範囲で、60℃の高温養生を行ったセメント硬化体の長期材齢の圧縮強度が20℃養生よりも低下する原因は、水和物の密度が高いので、その体積が減少し、この結果としてセメント硬化体の空隙量が増加するためである。昇温速度はゲル空隙を含む半径1.8〜10nmの空隙に影響を及ぼし、昇温速度が速くなると水和反応速度が上昇するため、セメントの内部水和物が緻密になり、主に外部水和物として生成する水酸化カルシウムの生成量が減少する。その結果、空隙中の半径1.8〜10nmの空隙が減少し、半径10nm以上の空隙が増加するので硬化体はポーラスな組織構造を持つことになる。後者は圧縮強度の低下の原因となる。 第5章では、高温養生時の水セメント比がセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにした。 水セメント比が30%〜50%の範囲において、60℃の高温養生を行った場合には20℃養生と比較して、水和物の密度が高いので、その体積が減少し、その結果として硬化体中の空隙量が増加する。また、内部水和物が緻密化することにより、その後の水和反応において水酸化カルシウムなどの外部水和物の生成量が減少することなどから、空隙中の半径10nm以上の空隙量が増加する。硬化体全体の空隙量と半径10nm以上の空隙量の増加が60℃の高温養生を行った場合に20℃養生よりも長期材齢において強度が低下する原因となる。しかし、水セメント比が30%と低い場合には、60℃養生と20℃養生の圧縮強度の違いを60℃養生の水和物の密度の増加による硬化体全体の空隙量と半径10nm以上の空隙量の増加だけでは十分に説明することができないので、水和物の形態(大きさ、結晶性)等の他の要因の影響を考える必要がある。 水セメントが30%と低い場合には、養生温度に関係なく内部水和物が緻密になる。水セメント比、すなわち、硬化体中の空隙量がセメントの水和反応に影響を及ぼし、硬化体中の空隙量が少なくなると外部水和物が生成できる空間が少なくなるので、内部水和物の緻密化が促進される。 第6章では、高温養生時の養生温度がセメントの水和反応速度に及ぼす影響を明らかにした。 Ginstling-Brounshteinの反応速度式を用いてセメントの水和反応速度を検討した結果、養生温度が20℃〜60℃の範囲で、水和反応が拡散律速である見かけの水和率が約60%までは、セメントの水和反応速度は絶対温度にほぼ比例している。養生温度が60℃を越えると、絶対温度に比例して水和反応速度が増加しなくなる。その理由は、セメント粒子の周りに生成する水和物の膜が60℃を越えると急速に緻密になり、液相からの水の拡散速度が低下することによるものと考えられ、80℃のセメント硬化体の空隙構造において、ゲル空隙を含む微細な空隙が少ない事実と一致する。 第7章では、セメントの鉱物組成の違いが高温養生時の硬化体の強度と水和反応速度に及ぼす影響を明らかにした。 水和物の密度はセメント中のエーライトの含有量に依存し、エーライトの含有量が多くなると60℃の高温養生を行った場合には20℃養生よりも水和物の密度が高いので、その体積が減少し、その結果として硬化体中の空隙量が増加する。また、内部水和物が緻密になり、空隙中の半径10nm以上の空隙量が多くなる。従って、硬化体の空隙構造がポーラスになるので、エーライトの含有量が多いセメントほど60℃の高温養生を行った場合には20℃養生よりも圧縮強度が低くなる。 エーライトの含有量が少ないセメントは、高温養生においても水和物の密度が増加しないので、その体積が減少しない。また、エーライトの含有量が多いセメントと比較して、空隙構造が緻密になるので長期材齢の強度の増進の低下が少なく、高温の環境に適したセメントである。 高温養生においてセメントの種類および養生温度を適切に選定することにより、長期材齢の強度発現が良好で密実なセメント硬化体が得られる。 第8章では、各章の研究結果を総括し、結論を述べた。 | |
審査要旨 | 本論文は、蒸気養生等の促進養生を行ったコンクリート製品の品質の安定化を念頭において、高温養生時の養生温度がセメントの水和率、水和物の性質、硬化体の空隙構造および圧縮強度に及ぼす影響について一貫して検討することにより、20℃養生と高温養生の硬化体の物性の違い、および高温養生時のセメントの長期強度の増進の低下の原因を明らかにすることを目的としたものである。本論文はその中でも、セメントの主要構成鉱物であるカルシウムシリケート相に注目し、水和物の生成量、密度および化学組成が硬化体の空隙構造に及ぼす影響ならびに硬化体の空隙構造と強度の関係について検討を行ったものである。また、エーライトとビーライトの含有量が異なるセメントについて同様の検討を行うことにより、セメントの鉱物組成が硬化体の物性に及ぼす影響を調べ、高温環境に適したセメントを材料設計するための知見を得ることを目的としたものである。 第1章では、本論文の目的と方針について説明している。 第2章では、セメントの高温養生に関係する既往の研究を総括している。 第3章では、高温養生時の養生温度(40〜80℃)がセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにしている。高温養生されたセメント硬化体は、20℃養生と比較して、水和物の密度が高いので、その体積が減少し、これに伴って硬化体全体の空隙量と圧縮強度と相関の高い半径10nm以上の空隙量が増加するので、長期材齢において強度が低下することを明らかにしている。また、養生温度が高くなる程、ゲル空隙を含む微細な空隙が少ない組織構造になり、内部水和物が緻密になることを明らかにしている。高温養生においては水酸化カルシウムの生成量が減少し、生成するC-S-Hは酸化カルシウム量が多く、CaO/SiO2のモル比が高く、密度の高い水和物になることを明らかにしている。 第4章では、高温養生時の昇温速度がセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにしている。昇温速度はゲル空隙を含む半径1.8〜10nmの空隙に影響を及ぼし、昇温速度が速くなると水和反応速度が上昇するため、内部水和物が緻密になり、主に外部水和物として生成する水酸化カルシウムの生成量が減少することを明らかにしている。その結果、空隙中の半径1.8〜10nmの空隙が減少し、半径10nm以上の空隙が増加するので硬化体はポーラスな組織構造になり、後者は圧縮強度の低下の原因になることを明らかにしている。 第5章では、高温養生時の水セメント比がセメント硬化体の強度に及ぼす影響を明らかにしている。水セメント比が30〜50%の範囲において、60℃の高温養生を行った場合には20℃養生と比較して、水和物の密度が高いので、その体積が減少し、その結果として硬化体全体の空隙量と圧縮強度と相関の高い半径10nm以上の空隙量が増加するので、長期材齢の硬化体の強度が低下することを明らかにしている。しかし、水セメント比が30%と低い場合には、66℃養生と20℃養生の圧縮強度の違いを60℃養生の水和物の密度の増加による硬化体全体の空隙量と半径10nm以上の空隙量の増加だけでは十分に説明することができないので、水和物の形態等の他の要因の影響を考える必要があることを示している。 第6章では、高温養生時の養生温度がセメントの水和反応速度に及ぼす影響を明らかにしている。Ginstlinrg-Brounshteinの反応速度式を用いてセメントの水和反応速度を検討した結果、養生温度が20〜60℃の範囲で、見かけの水和率が約60%までは、水和反応速度は絶対温度にほぼ比例して増加するが、60℃を越えると絶対温度に比例して増加しなくなることを示し、その理由はセメント粒子の周りに生成する水和物の膜が60℃を越えると急速に緻密になり、液相からの水の拡散速度が低下するためと考えられることを示している。 第7章では、セメントの鉱物組成の違いが高温養生時の硬化体の強度と水和反応速度に及ぼす影響を明らかにしている。エーライトの含有量が多いセメントほど、20℃養生と比べて、60℃の高温養生において水和物の密度が高くなるので、その体積が減少し、その結果として硬化体中の半径10nm以上の空隙量が多くなるので、圧縮強度が低くなることを明らかにしている。エーライトの含有量が少ないセメントは高温環境に適したセメントであり、高温養生においてはセメントの種類および養生温度を適切に選定することにより、長期材齢の強度発現が良好で密実なセメント硬化体が得られることを示している。 第8章では、各章の研究結果を総括し、結論を述べている。 以上を要約すると、本研究はコンクリートに使用されるセメントの高温環境下の強度発現について、新たにセメントの水和物の特性と硬化体の空隙構造の関係に着目して解明を行った研究であり、コンクリート工学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |