学位論文要旨



No 214714
著者(漢字) 石井,抱
著者(英字)
著者(カナ) イシイ,イダク
標題(和) ディジタルビジョンチップのための高速実時間視覚情報処理の研究
標題(洋)
報告番号 214714
報告番号 乙14714
学位授与日 2000.05.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14714号
研究科 工学系研究科
専攻 計数工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 教授 藤村,貞夫
 東京大学 教授 舘,すすむ
 東京大学 教授 安藤,繁
 東京大学 教授 井上,博允
内容要旨 要旨を表示する

 ディジタルビジョンチップは、並列処理要素と画素毎に直結したものをワンチップ上に集積化することにより、従来の視覚システムにおけるセンサと処理装置間の通信ボトルネックによって生じるリアルタイム処理速度の限界を打破するものであり、従来のビデオ信号(NTSC 30Hz)に従った画像情報では応用に限界があったロボティクスやマルチメディアなどの様々な応用分野で技術革新をもたらす可能性を持つデバイスである。本論文は、このような実世界とコンピュータ世界をよりインタラクティに結合する新たなコンピュータの眼として設計されたディジタルビジョンチップに対応した高速実時間視覚情報処理の新たな考えを提案するものである。

 このようなディジタルビジョンチップの能力を最大限に引き出すためには、その視覚情報処理アルゴリズムに対して,1)高速リアルタイム性,2)集積性,3)汎用性が同時に必要とされる。しかしビデオ信号を暗に前提にした従来の視覚情報処理アルゴリズムの多くは、1)フレームレートの高速化に伴い、画像情報が時間方向に対して冗長になることによる冗長な処理、2)ディジタルビジョンチップにおける集積化された画像空間に対応していない処理,3)ディジタルビジョンチップシステムの持つ超並列処理ハードウェア構造と不一致な構造をもつアルゴリズムであることが問題となり、ディジタルビジョンチップの能力を十分に引き出すことができない。

 本論文では、このようなディジタルビジョンチップにおいて高速視覚情報処理を実現可能とするために、ディジタルビジョンチップの構造などについて紹介した上で、1)高速視覚の画像特性に対応したSelf Windowing法,2)集積化処理構造に対応したビットプレーン特徴分解法,3)超並列処理構造に対応した視覚情報処理の超並列化法の3つの新たな高速実時間視覚情報処理理論の考えとして提案した。

 最初に、ディジタルビジョンチップが持つフレーム間の画像変化が微小であるという画像特性を利用した視覚情報処理の考えとしてSelf Windowingの考えを提案した。このSelf Windowingは高速視覚の画像特性を用いることにより、視覚情報処理、特にフレーム内の領域分割処理とフレーム間の対応づけ処理を統合し、処理を簡単化する考えである。具体的なアルゴリズムとして、2値画像に対応したSelf WindowingアルゴリズムであるBinary Self Windowing、多値画像に対応したSelf WindowingアルゴリズムであるGray-Level Self Windowing、Self Windowingの考えを直線パラメータ空間に適用した直線抽出法を提案し、それぞれのアルゴリズムについて、ディジタルビジョンチップアーキテクチャS3PE(Simple and Smart Sensory Processing Element)に対する評価、実行時間及び高速ビデオ画像に対する実験結果を示すことにより、その有効性を示した。

 次にディジタルビジョンチップシステムにおける集積化された超並列処理構造に対応した画像特徴量の計算方法の一つとして、線形荷重和の計算を画像空間における超並列演算を抑えたビットプレーン特徴分解法を提案する。具体的には、画像の総和演算に対して加減算が可換であることと、荷重画像はディジタル量の加算表現として表されるという特徴を利用したビットプレーン単位での処理を行うことにより、画像空間における超並列演算を抑えられることを提案した。さらにモーメント量計算について、座標に関する荷重の線形分離性とビットプレーン特徴分解の考えを用いて計算することにより、荷重の記憶領域及び計算時におけるテンポラリ記憶領域を最小限に抑えつつ、ディジタルビジョンチップシステム上で高速に計算可能となることを論じた。また、実際にモーメント量に基づいた様々な画像特徴量がS3PEアーキテクチャ上で画像空間における記憶空間での処理を抑えつつ、μsオーダーでの処理速度でこれらの特徴量が計算できることを示した。

 最後にディジタルビジョンチップシステムの超並列処理構造上にアルゴリズムを実装する上で問題となるハードウェア構造とアルゴリズム構造における異構造性について議論を行った上で、視覚情報処理を一般に次元数の高い画像空間上での超並列処理に変換する視覚情報処理の超並列化の考えと提案した。このような超並列処理の考えに基づき、超並列化Self Windowing(MPSW法)の考えを提案し、その有効性を示すためにMPSW法によるインデックス情報保持機能を用いた動画像における対象検索アルゴリズム、及びモデルマッチング計算の超並列化を挙げ、議論を行った。さらにこれらのアルゴリズムについて、S3PEアーキテクチャ上でμsオーダーでの処理が可能であることを示し、シミュレーションにより提案するアルゴリズムが正しく動作することを検証した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「デイジタルビジョンチップのための高速実時間視覚情報処理の研究」と題し、7章より構成されている.実世界とコンピューティング世界をよりインタラクティブに結合する新たなコンピュータの目として、近年ディジタルビジョンチップが試作されている.このディジタルビジョンチップは、処理の汎用性と集積化を両立し、高速実時間処理を可能としたものである.しかしながら、従来の視覚情報処理では、ハードウェア構造とアルゴリズム構造が一致せず、ディジタルビジョンチップの能力を引き出せなかった.本論文は、ディジタルビジョンチップの特徴を生かした高速実時間視覚情報処理体系を提案し、具体的な処理例を示すことによってその有効性を示したものである.

 第1章は、本論文の概要と著者の基本的な考え方を述べている.

 第2章は、「ディジタルビジョンチップと視覚情報処理」と題し、本論文の背景、ディジタルビジョンチップの特徴、従来の視覚情報処理の問題点等を述べた上で、本論文の目的と構成を記述している.

 第3章は、「ディジタルビジョンチップシステム」と題し、本論文で提案する高速実時間視覚情報処理を議論する上で必要となる、デジタルビジョンチップの研究・開発を紹介し、そのアーキテクチャ、デバイス技術、システム制御アーキテクチャ、プログラミング開発環境、さらにはディジタルビジョンチップを用いた応用システム開発について現状を述べている.

 第4章は、「高速視覚の画像特性を用いたSelf Windowing法」と題し、デジタルビジョンチップにより実現される、フレーム間の画像変化が微小であるという画像特性を説明した上で、この画像特性を用いることによって視覚情報処理を簡単化する方法として、フレーム内の領域分割とフレーム間の対応づけアルゴリズムを統合したSelf Windowing法を提案している.また、具体的なアルゴリズムとして、2値画像に対応したSelf WindowingアルゴリズムであるBinary Self Windowing法(BSW法)、BSW法を多値画像に拡張したSelf Windowingアルゴリズムである、Gray-Level Self Windowing法(GSW法)、Self Windowingの考えを直線パラメータ空間に適用した直線抽出法を提案し、それぞれの方法について、ディジタルビジョンチップに対する評価を行い、実行可能な時間及び処理結果を示すことにより、その有効性を示している.

 第5章は、「集積化のためのビットプレーン特徴分解法」と題し、ディジタルビジョンチップにおける集積化された超並列処理構造に対応した画像特徴量の計算方法の一つとして、線形荷重和の計算を画像空間における超並列演算を抑えることを可能とするビットプレーン特徴分解法を提案している.具体的には、画像の総和演算に対して加減算が可換であることと、荷重画像がディジタル量の加算されたものとして表されるという特徴を利用したビットプレーン単位での処理により、画像空間における超並列演算を抑えることができることを提案している.さらにモーメント量計算について、座標に関する荷重の線形分離性及びビットプレーン特徴分解の考えを用いることにより、荷重の記憶領域及び計算時におけるテンポラリ記憶領域を最小限に抑えつつ、ディジタルビジョンチップ上で高速に計算可能となることを示し、実際にモーメント量に基づいた様々な画像特徴量がディジタルビジョンチップの記憶空間の制約の中で、ms以下の処理時間で計算が可能であることを示している.

 第6章は、「視覚情報処理の超並列化法」と題し、従来の視覚情報処理の枠組みをディジタルビジョンチップ上で実装する上での問題点である、ハードウェア構造とアルゴリズム構造における異構造性について解析している.その上で、視覚情報処理を一般に次元数の高い画像空間上の超並列処理に変換する視覚情報処理の超並列化の考えを提案している.また、とのような超並列化の考えに基づき、超並列化Self Windowing(MPSW法)の考えを提案し、その有効性を示すためにMPSW法によるインデックス情報保持機能を用いた動画像における対象検索アルゴリズム及びモデルマッチング計算の超並列化等について具体的なアルゴリズムを示し、ディジタルビジョンチップ上でこれらの処理がμsオーダーで実現可能であること示している.

 第7章は、本研究の成果がまとめられている.

 以上要するに、本論文は、ディジタルビジョンチップのための高速実時間視覚情報処理に関し、LSIデバイス、アーキテクチャ、アルゴリズム、応用等の見地から、新しい処理方法を提案するとともに、具体的な実現可能性を示すことにより、その有効性を示したものである.これにより、従来の視覚情報処理とは全く違った方法によって、従来実現できなかった高速実時間視覚情報処理を実現したものであり、関連する分野の研究の発展に貢献するとともに、計測工学の進歩に対して寄与することが大であると認められる.よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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