学位論文要旨



No 214764
著者(漢字) 深澤,孝之
著者(英字)
著者(カナ) フカサワ,タカユキ
標題(和) RFプラズマを用いたULSIドライエッチングに関する研究
標題(洋)
報告番号 214764
報告番号 乙14764
学位授与日 2000.07.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14764号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 吉田,善章
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
内容要旨 要旨を表示する

 現在、半導体製造プロセスにおいて、プラズマを用いたエッチングおよび成膜技術が種々の分野で重要な役割を担っている。Dynamic Random Access Memoryの開発において256メガビット、1ギガビットと集積化が進むに従い、求められているプラズマにも、高密度化、大口径化、高均一性、高選択性、低損傷性、更に、高アスペクト比の異方性形状形成等の厳しい条件を全て達成することが課せられている。プラズマ生成に磁場を用いた場合は、その磁場に起因する、荷電分離、プラズマの偏り等により静電破壊発生等の課題が指摘されている。このような課題を解決できるプラズマ発生方式として、近年では、低/無磁場状態でプラズマ生成が可能なヘリコン波プラズマ(HWP)と誘導結合プラズマ(ICP)が注目されている。本研究においては、RF周波数帯をプラズマの励起周波数として用いるこれらの2種類のプラズマをULSIドライエッチングに応用するにあたり、その生成から検討し、プラズマ特性を基にRF自己バイアス電圧特性を実験と理論から解明し、更に、ULSIエッチングで切望されているシリコン酸化膜の高速・高選択比エッチングを如何に達成しうるかをICPプラズマにおいて検討し、そのエッチングメカニズムを解明すると同時に、このメカニズムをHWPへ積極的に応用し同様に高速・高選択比エッチングをHWPにおいて達成することを目的としたもめである。

 まず、独自に作成した一巻アンテナを用いたICPの生成からプラズマ特性について検討した。一巻アンテナは、アンテナ中心部分にプラズマ発生源がなく、プラズマの拡散後、シリコン(Si)ウエハ上では均一なプラズマ密度分布を生じることが分かった。プラズマ諸量をアンテナからの距離依存性に着目して測定した結果、本実験で用いたICPは、空間的にシート状の密度分布を有し、電子密度及び電子温度は、その下流領域で急速に減衰することが分かった。このプラズマを用いてエッチングを行ったところ、RF自己バイアス電圧(Vdc)の印加が高密度プラズマでは困難になることが分かり、RF自己バイアス電圧特性の測定結果を基に計算した結果、アルゴンプラズマでは、RF自己バイアス電圧が電子密度(Ne)の2乗に反比例していることが分かった。更に、実際にエッチングに用いる塩素プラズマにおいて、RF自己バイアス電圧特性を考察した結果、負イオンの存在が示唆され、飽和電子電流と飽和イオン電流から求めた負イオン量は、ICPソース電力に依存し、低電力側では負イオン量が増加することが分かった。

 次に、CHF、のICPプラズマ特性をアンテナから下流領域に渡って調べた結果、アルゴンプラズマと同じく、シート状構造をしており、下流領域ではF原子の負イオンが多く、カーボンリッチな状態になっていることが分かった。この結果を基にCHF3よりも更にカーボンの多いc4F、に水素を添加し、その下流領域でシリコン熱酸化膜(SiO、)のエッチングを行った結果(図1)、高速で、Siに対して高選択比のエッチングが達成された。この理由として、下流領域では、高速電子の少ない拡散プラズマ領域であり、Siをエッチングし選択性を低下させているF原子を水素原子が除去した結果生じたHFが再分解されずに速やかに排気されることにより高選択比酸化膜エッチングが達成されていることが分かった。また高選択比酸化膜エッチングが達成されている条件下で、SiO2及びSi上に生成される重合膜は、Fが少なく炭素が非常に多い組成をしており、これがSiのエッチングを阻止していることを示した。プラズマに曝されたSi平面は、水素の有無により、組成がカーボンリッチに変化し、これはRF自己バイアス電圧を-300Vにしても大きく変化しない。微細な孔内部の重合膜生成現象を観察することにより、水素を添加することは、孔の内部にまで比較的均一な厚みの重合膜が生じ、その組成は孔の上部でも微細な孔底でもF原子の少ない炭素原子に富む膜であり、この膜は、イオン衝撃でもその組成が変化せず、孔の上部や側壁の重合膜はイオンにより孔の底部に叩落とされ、Siの表面を保護し微細孔の中において非常に大きな選択比を達成していることが分かった。重合膜のステップカバレッジより求めた、重合膜を生成するラジカルの平均付着確率は、水素添加しないときが1.4×10-1であるが、水素を30%添加すると、その付着確率は減少し2.9×10-2まで減少することが分かった。

 更に、出現電圧質量分析器(AMS)を用いて、高速・高選択比エッチングを達成するICPにおいて、どのような中性ラジカルが生成され、これらが微細な孔の中でどのようにして重合膜を形成することでエッチング反応を行うのかをより詳細に検討した。CF3ラジカル密度はCF1、CF2ラジカル密度に比べて水素添加量、全圧力、RF電力、輸送過程のアスペクト比、総流量等に依存しない。これは、CF3ラジカルがリアクタ壁等での生成・消滅される項が支配的であり、水素の添加には無関係にリアクタ内の濃度が決定されるためであり、エッチング特性の変化には、対応しない。CF1ラジカルはアスペクト比、RF電力、総流量の各依存性を見れば分かるように、重合膜厚と密接な関係があり重合膜の主なPrecursorであると推測される。また、気相中のCF2ラジカル密度は、水素添加で希釈効果程度の密度減少しか観測されな。更に多数の微細孔を有するCapillary plate中を通過させて、ラジカル密度のアスペクト比依存性(図2)を求めた実験結果によれば、水素添加によりCFx(x=1,2,3)ラジカル中で最も付着確率が大きく重合膜のprecursorと考えられるCF1ラジカルは、付着確率が1/2程に低下し、このためアスペクト比の高い孔底へも到達することが可能となり、アスペクト比の高い孔底にも重合膜を形成でき、このことがas-etched sampleを用いて検討した、水素添加においての微細孔底部への重合膜形成量増加の起源であると考えられる。これは、おそらく微細孔側面のSiO2や既に重合膜を形成しているCF膜の最表面を水素が終端し、重合膜の形成過程に重要な、最表面のダングリングボンドを減少させるためであろうと推測される。また、微細孔底面での重合膜形成だけが増加するのは、イオン衝撃アシスト等のメカニズムを介しているためであろうと考察できる。重合膜のステップカバレッジから計算した付着確率よりもCF1ラジカルの付着確率が小さいことより、イオン衝撃が重合膜形成に関与する可能性が見い出された。水素添加した系でのCF、ラジカルは、アスペクト比が増加しても、緩やかな密度減少を示し、孔の側面での重合膜形成に消費されずに、孔底部にまで到達できる。水素添加により、カーボンリッチな重合膜を形成するCF1ラジカルが微細孔内部に供給されるため、孔底でSiが露出した時点から重合膜を形成し、高速・高選択比SiO2エッチングを達成することが分かった。

 更に、エッチング特性、気相中のラジカル分析、表面のXPS分析を総合的に用いてエッチングのメカニズムを検討した結果(図3)、ラジカル密度比(CF1/CF2)と膜中のC-C/F比に相関があることが分かった。このCF1/CF2が増加する時に、高選択比のエッチングが達成されるのは、カーボンリッチな重合膜がSiのエッチングを抑制するからである。しかし、過剰なCF、ラジカルはSiO2のエッチングを阻害する効果があり、SiO2のエッチング速度の低下を生じる。この考えに基づけば、エッチング速度の総流量依存性が解釈できることが分かった。

 ICPで得られた知見と、独自に開発した一巻アンテナを用いたHWPのプラズマ特性及びヘリコン波の伝搬特性との両方を基に、高速・高選択比エッチングの達成を検討した。プラズマ特性測定の結果からは、従来からの二巻のヘリコンアンテナよりも、アンテナ付近で30%以上大きいプラズマ密度が得られた。更に、一巻アンテナを用いたHWPにおいては、アンテナはソレノイドコイル中の磁場強度よりも弱い位置に設置する方がソレノイド中心で20%、アンテナ付近で2倍程度高いプラズマ密度が得られた。ヘリコン波の伝搬特性を測定した結果、これは伝搬しながら位相速度を増加させるためであることが分かった。また、このプラズマ中に伝搬する電磁波を測定した結果、ヘリコン波の分散関係に合う波動電磁界が、30Gaussの低磁界でも観測された。フルオロカーボンガス(C4F8)を用いて、HWPをSiO2のエッチングに応用したところ、エッチング速度は1.1μm/分と非常に高い値を示した。しかし下地Siのエッチング速度も増加し、水素添加しても、選択比(SiO2/Si)は1から5程度しか得られなかった。この結果はガスを変えても、プラズマ密度を減少させても、圧力を変化させても、顕著な改善は見られなかった。ICPの高速・高選択比酸化膜エッチングの発生機構のモデルに則って、それを応用し、ヘリコン波がエッチングサンプルを設置する位置まで伝搬しないリング磁石を用いて改良することで、殆ど無限大の選択比を達成した。

図1 Si酸化膜、Siのエッチング速度及び選択比の水素添加量依存性

図2 Capillary plateを用いたラジカル密度のアスペクト比依存性

図3 C4F8:水素=70:30の混合ガスプラズマの全ガス流量依存性

審査要旨 要旨を表示する

 ULSI(超大規模集積回路)製造プロセスにおいて、プラズマを用いたエッチングが重要な役割を担っており、低/無磁場状態でプラズマ生成が可能なヘリコン波プラズマ(HWP)と誘導結合プラズマ(ICP)が注目されている。本論文は、まずRF周波数帯をプラズマの励起周波数として用いるこれらの2種類のプラズマをULSIドライエッチングに応用するにあたり、その生成から検討し、プラズマ特性を基にRF自己バイアス電圧(Vdc)特性を実験と理論から解明した。更に、ULSIエッチングで切望されているシリコン酸化膜(SiO2)の高速・高選択比コンタクト孔エッチングをICPプラズマにおいて検討し、そのエッチングメカニズムを解明した。次いで、このメカニズムをHWPへ積極的に応用し同様に高速・高選択比エッチングを達成したもので、6章より成る。

 第1章は序論であり、ULSIドライエッチング装置に用いられるプラズマの現状と、高密度プラズマの必要性および課題について概観し、本論文の目的・構成を述べている。

 第2章では、一巻アンテナを用いたICPの生成からプラズマ特性について検討し、一巻アンテナがシリコン(Si)ウエハ上では、径方向に均一なプラズマ密度分布を生じ、空間的にシート状の密度分布を有し、電子密度及び電子温度が、その下流領域で急速に減衰することを示している。しかし、得られた均一なシート状プラズマを用いてエッチングを行ったところ、Vdcの印加が高密度プラズマでは困難になることを示し、Vdc特性の測定結果を基に計算した結果、アルゴンプラズマでは、Vdcが電子密度(Ne)の2乗に反比例していることを発見している。更に、実際にエッチングに用いる塩素プラズマにおいて、Vdc特性を考察した結果、負イオンの存在が示唆され、飽和電子電流と飽和イオン電流から求めた負イオン量は、ICPソース電力に依存し、低電力側では負イオン量が増加することを実験と計算から検証している。

 第3章では、ICPを用いたSiO2、エッチング特性について述べている。C4F8に水素を添加し、ICPの下流領域でSiO2のエッチングを行った結果、高速で、Siに対して高選択比のエッチングを達成している。この高速・高選択比の発現機構について、プラズマ特性およびエッチング特性の両面から検討した。その結果、ICPプラズマの下流領域では、高速電子の少ない拡散プラズマ領域であり、Siをエッチングし選択性を低下させているフッ素原子を水素原子が除去して生じたHFが、再分解されずに速やかに排気されることにより、高選択比SiO2エッチングが達成されていることを明らかにしている。また高選択比SiO2エッチングが達成されている条件下で、SiO2及びSi上に生成される重合膜は、フッ素原子が少なく炭素が非常に多い組成をしており、これがSiのエッチングを阻止していることも示している。また、ICPのエッチング特性を研究中に、水素を添加すると孔径の減少と共にSiO2のエッチング速度が低下する通常のマイクロローディング特性が生じるが、これは孔径の小さい時は、孔底に上述の炭素リッチな重合膜が生成したためと判明した。しかし、水素を添加しない場合、孔径の減少と共にSiO2エッチング速度が早くなる逆マイクロローディング効果示すことを新たに発見している。この発生原因を調べると、逆マイクロローディングは、重合膜生成が孔の開口部に生成し、孔底部では堆積が抑制され、フルオロカーボンイオン(CFx+)によりエッチングが進行することを明らかにした。

 第4章では、第3章のSiO2エッチングにおける微細な孔の中でのエッチング機構について、出現電圧質量分析法を用いたラジカル計測結果を基に考察している。ここでは、C4F8への水素添加の有無で生じたラジカルを多数の微細孔を有するMicrochannel Capillary Plate(MCP)中を通過させ、CFx(x=1〜3)ラジカル密度の微細孔内での減衰率のアスペクト比(孔の深さ/孔径)依存性を測定した。その結果、CF、ラジカルは最も付着確率が大きく重合膜の主な先駆体であり、水素添加の無い場合には孔開口付近に堆積し、これが逆マイクロローディング効果を引き起こすことを明らかにした。また、水素添加によりこのCF1ラジカルは、付着確率が1/2程に低下し、このためアスペクト比の高い孔底へも到達することが可能となり、アスペクト比の高い孔底にも重合膜を形成でき、このことが微細孔底部への重合膜形成量増加の起源であると考察している。このことは、微細孔側面のSiO2や既に重合膜を形成しているCF膜の最表面を水素が終端し、重合膜の形成過程に重要な最表面のダングリングポンドを減少させるためであると推定している。また、エッチング特性、気相のラジカル密度、エッチング反応の進行する表面のXPS分析等を総合的に検討した結果、ラジカル密度比(CF1/CF2)と膜中のC-C/F比に相関があること示し、このCF1/CF2が増加する時に、高選択比のエッチングが達成されることを示している。炭素リッチな重合膜がSiのエッチングを抑制するために、高選択比のエッチングが達成されるが、過剰なCFlラジカルはSiO2のエッチングを阻害する効果があり、SiO2のエッチング速度の低下を生じることを発見している。

 第5章では、HWP中のヘリコン波の伝搬特性について実験結果を基に検討している。一巻アンテナを用いたHWPを初めて生成し、従来からの二巻のヘリコンアンテナよりも、アンテナ付近で30%以上大きいプラズマ密度が得らることを示している。ヘリコン波の伝搬特性を測定した結果、これは伝搬しながらヘリコン波の位相速度を増加させるためであることを発見している。また、このプラズマ中に伝搬する電磁波を測定した結果、ヘリコン波の分散関係に合う波動電磁界が、30ガウスの低磁界でも観測されることを示している。更に、HWPをSiO2エッチングに適用すると、試料位置にまで高密度プラズマが生じ、高選択比を得ることはできなかった。しかし、ICPの高速・高選択比SiO2エッチングの発生機構に則って、ヘリコン波がエッチングサンプルを設置する位置まで伝搬しないリング磁石を用いて改良することで、殆ど無限大の選択比を達成できることを示している。

 第6章においては、本研究の総括である。

 以上要するに、本研究はICPおよびHWPを用いて、高速・高選択比エッチングを達成すると同時にその発現機構に関して「拡散プラズマ領域でエッチングを行う」と言う新たな概念を提案し、MCP等の新しい解析手法を用いて微細孔内部でのエッチング現象を初めて研究したものであり、半尋体ドライエッチング技術の展開に寄与すると〓

 よって本論文は博士(工学)の学位申請論文として合格と認める。

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