学位論文要旨



No 214789
著者(漢字) 金,潤植
著者(英字)
著者(カナ) キム,ユンシク
標題(和) 数種の触媒的不斉反応の開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 214789
報告番号 乙14789
学位授与日 2000.09.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第14789号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 助教授 小田嶋,和徳
 東京大学 助教授 影近,弘之
内容要旨 要旨を表示する

1)当研究室では、強力な発がんプロモーターであり、細胞内情報伝達に重要な役割を果たすプロテインキナーゼC(PKC)に結合し活性化することが知られているホルボールエステル(PMA)の構造類縁体の合成およびPMAの重要合成中間体の合成を行っている。

 そこで筆者はPMAおよび関連物質の重要合成中間体として用いるbicyclic lactone 3の触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応の検討を行った。(Scheme 1)

 触媒的不斉シクロプロパン化反応は現在までに多数報告されているが、それらは比較的単純な系のみで検討されており、分子内にエノールシリルエーテルを有する基質においては当研究室の得能らの一例しかない。

 最初に、中心金属として銅を用いる不斉触媒から検討をはじめたが、Table 1に示す通り、高い不斉収率を得ることができなかった三しかし、Doyleらのキラルロジウム(II)錯体を用いたところ、entry6に示すように化学収率73%および不斉収率77%で成績体3を得ることに成功した。

 なお、化合物3はScheme2に示すように重要中間体2に立体選択的に変換した。

2)当研究室では既に不斉配位子連結BINOL4の開発に成功している。そこで筆者は本配位子を用いた安定な不斉触媒の開発と、この触媒を用いた触媒的不斉反応について検討した。

 まずLa-連結BINOL-アルカリ金属(Li,Na,K)の割合が1:1:1の複合金属不斉錯体を調製して、マイケル反応において検討したが、満足できる結果は得られなかった。しかしながら構造についてはいまだ明確にされていないものの、アルカリ金属を含まない希土類-連結BINOL(1:1)錯体を触媒とし、溶媒としてTHF、シクロヘキセノンとジベンジルマロネートを基質として0℃で反応を行ったところ、化学収率53%と不斉収率85%で目的とする成績体が得られることがわかった。(Table2)

 また,同じ基質を用いて溶媒効果を検討した結果,溶媒としてDMEを用いた場合、最も良い結菓(91%yield,99%ee)が得られた。さらに、本反応は室温においても化学収率、不斉収率ともに変化がないことが明らかとなった。これらのことから、La-連結BINOL錯体は環状のα,β不飽和ケトンの触媒的不斉マイケル反応に有効な不斉触媒となりうることが示唆された。

 本触媒が環状のα,β不飽和ケトンに対して高い不斉を誘起できることがわかったので,本触媒を用いて触媒的不斉マイケル反応の基質に対する一般性を検討した。その結果、Table3に示すように鎖状のα,β不飽和ケトンにおいても比較的高い不斉が誘起できることが分かり、一般性の高い触媒的不斉マイケル反応が可能となった。

さらに本触媒は空気中にも安定であることが明らかになったので、粉末の状態で保存して触媒として使用できるのではないかと考え、さらに検討を行った。Table4に示すように、本触媒は空気中室温で保存して一ヶ月を経過したのちでも全く同様の高い化学収率および不斉収率を誘起できることが明らかになった。このことから、本触媒は粉末の状態で安定に保存することができ、容易に取り扱いができるという高い利点を有することがわかった。

 以上まとめると筆者は、空気中室温で容易に保存、取り扱いが可能であるLa一連結BINOL錯体を新たに創製し、本錯体が広範囲のαβ不飽和ケトンにおいてマイケル反応を触媒し、再現性よく高収率かつ環状エノンについては非常に高い不斉収率で成績体を与える有用な不斉触媒となりうることを明らかにした。

1 Sato,H.;Kim, Y.Sik.;Shibasaki,M.Tetrahedron Lett.1999,15,2973.

2 Kim Y.S.;Matsunaga,S.;Ohshima,T;Shibasaki,M.J.Am.Chem.Soc.in press.

Scheme 1

Table1.Catalytic Asymmetric Intramolecular Cyclopropanation of Trisubstituted Enol Silyl Ether(Using Allylic Diazoaceate)

Scheme 2

Rcagents and Conditions:a) MeALCLN(Me)OMe (2.5 equiv),toluene,78℃→rt,3hr,92%.b)PDC (2 equiv),MS4A,CH2Cl2,rt,2.5hr,92%.c)isopropenylmagnesium bromide(1.5equiv),THF,-78℃→-60℃,1.5hr,88%.d)TBSOTf(1.5equiv),iPr2NEt(2 equiv),CH2Cl2,-78℃→-10〜-5℃,1.5 hr,88%.e)BH3・THF(7 molarequiv),toluene/THF(4:1),-78℃→-35から-30℃,228 hr,73%(8:9=6:1).f)1)DIBAH(3.5molar equiv),toluene,-40℃,30min,2)Ph3PCH2(3 molar equiv),THF,-78℃→0℃,20min,66%(2steps).g)PDC(2 equiv),MS4A,CH2Cl2,rt.,1hr,93%.h)1)NH20H・HCl(1.5equiv),NaOAc(3 equiv),H20,EtOH,rt,5 min,2)5% NaOClaq,CH2Cl2,0℃,14hr,78%(25 steps).i)H2,Raney-Ni(W-2),H3BO3(30 molar equiv),EtoH/MeoH/H20(5:1:1),rt.,30 min,88%.j)vinylmagnesium bromide(10molar equiv),THF,-30℃,20min(15 was added dropwise over 10 min.),69%.

Table2. Temperature and Solvent Effects on Asymmetric Michael Reaction with Malonate Promoted by AlKali Metal Free La-(R,R)-linked-BINOL Complex

Scheme1. Catalytic Asymmelric Michael Reaction of Acyclic Enones Promoted by AIkali Melal Free(R,R)-La-linked-BINOL Complex 28(10mol%)

Scheme3. Preparative Method for a Stock Catalyst of (R,R)-La-linked-BINOL Complex

Table 4

審査要旨 要旨を表示する

1)東大院薬有機合成化学研究室では、強力な発がんプロモーターであり、細胞内情報伝達に重要な役割を果たすプロテインキナーゼC(PKC)に結合し活性化することが知られているホルボールエステル(PMA)の構造類縁体の合成およびPMAの合成を行っている。

 そこで金潤植はPMAおよび関連物質の重要中間体・bicyclic lactone3の触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応による合成を検討を行った。(Scheme 1)

 触媒的不斉シクロプロパン化反応は現在までに多数報告されているが、それらは比較的単純な系のみで検討されており、分子内にエノールシリルエーテルを有する基質においては柴崎らの一例しかない。Table 1に金潤植が新たに得た結果をまとめる。なお、化合物3はScheme2に示すようにもう一つの重要中間体2に立体選択的に変換された。

2)柴崎研究室では既に不斉配位子連結BINOL 16の開発に成功している。そこで金潤植は本配位子を用いた安定な不斉触媒の開発と、この触媒を用いた触媒的不斉反応について検討した。

 まずLa-連結BINOL-アルカリ金属(Li,Na,K)の割合が1:1:1の複合金属不斉錯体を調製して、マイケル反応を検討したが、満足できる結果は得られなかった。しかしながらアルカリ金属を含まない希土類一連結BINOL(1:1)錯体を触媒とし、溶媒としてDME、シクロヘキセノンとジベンジルマロネートを基質として室温で反応を行ったところ、化学収率91%,不斉収率>99%で目的とする成績体が得られることがわかった。又、他の様々な系においても興味深い結果を得ることができた。(Table2),(Scheme3)

 さらに本触媒は空気中でも安定であることが明らかになったので、粉末の状態で保存して触媒として使用できるのではないかと考え、さらに検討を行った。Table 3に示すように、本触媒は空気中室温で保存して一ヶ月を経過したのちでも全く同様の高い化学収率および不斉収率を誘起できることが明らかになった。このことから、本触媒は粉末の状態で安定に保存することができ、容易に取り扱いができるという高い利点を有することがわかった。

 以上金潤植は、医薬合成上有用性が多いに期待される合成法と不斉触媒の開発に成功した。これらの研究業績は、博士(薬学)に十分相当すると判断した。

Scheme1

Table 1.Catalytic As ymmetric Intramolecula Cyclopropanation of Trisubstituted Enol Silyl Ether (Using Allylic Diazozcetate)

Scheme2

Table 2 Temperature and Solvent Effects on Asymmetric Michael Reaction with Malonate Promoted by AlKali Metal Free La-(R,R)-linked-BINOL Complex

Scheme3.Catalytic Asymmelric Michael Reaction of Acyclic Enones Promoted by AIkali Melal Free(R,R)-La-linked-BINOL Complex 28(10mol%)

Table 3

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