学位論文要旨



No 214791
著者(漢字) 宝方,達昭
著者(英字)
著者(カナ) モロカタ,タツアキ
標題(和) T細胞の活性化機構とTh1/Th2サイトカインによる肺内好酸球浸潤調節機構
標題(洋)
報告番号 214791
報告番号 乙14791
学位授与日 2000.09.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第14791号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 長尾,拓
 東京大学 助教授 西山,信好
 東京大学 講師 東,伸昭
内容要旨 要旨を表示する

<緒言> 生体防御の観点から重要な役割を担っている免疫系は細胞性免疫と液性免疫の二つに大別される。そのいずれにおいても外来抗原に特異的なT細胞の活性化およびエフェクター(ヘルパー)機能が不可欠である。どちらの免疫反応が誘導されるかは活性化される丁細胞のヘルパー機能発現の相違による。CD4陽性ヘルパーT細胞は,そのサイトカイン産生パターンから主にIFN-γおよびIL-2等を産生するTh1細胞とIL-4,IL-5およびIL-10等を産生するTh2細胞に分類され,Th1細胞は細胞性免疫を,Th2細胞は液性免疫の担い手としてヘルパー機能を発揮する。Th1/Th2細胞の誘導は生体防御機構に重要であるだけでなく,自己免疫疾患およびアレルギー疾患等の発症においても重要であることが知られている。Th1/Th2細胞の共通の前駆細胞であると考えられているナイーブT細胞が抗原刺激を受けてTh1/Th2細胞へと分化するメカニズムを解明し,Th1/Th2反応のバランスを調節することは,これらの免疫疾患の発症機序を理解し,新しい治療法を考える上で非常に重要である。よって,本研究はin vitroおよびin vivoの検討により,ナイーブT細胞からTh1/Th2細胞の活性化に至るT細胞の活性化機構とTh1/Th2型反応の不均衡によって生じるアレルギー性気管支喘息の主症状である肺内好酸球浸潤の病態形成について解析を試みた。

<第1章> CD4陽性T細胞は活性化の段階によって副刺激の必要性が異なることを明らかにした。すなわち,ナイーブT細胞はIL-12単独では副刺激を与えなかったが,B7-2からの副刺激と共同して細胞増殖を誘導した。一方,何らかの形で一度活性化したと考えられるメモリーT細胞はIL-12およびB7-2それぞれ単独で副刺激を与え,迅速に細胞増殖を誘導したが,B7-2の副刺激はIL-12の副刺激を増強しなかった。一方,Th1細胞に完全に分化したTh1クローンはB7-2単独では副刺激を与えなかったが,IL-12単独で副刺激を与え,B7-2はIL-12の作用をさらに増強した。このようにナイーブT細胞はTh1細胞への分化に不可欠なIL-12に反応するためにB7-2からの副刺激が必要であり,メモリーT細胞およびTh1クローンの活性化において必ずしもB7-2からの副刺激は必要でないことを明らかにした。すなわち,ナイーブT細胞が活性化し,Th1細胞へ分化するためにはB7-2およびIL-12からの副刺激の両方が不可欠であることを明らかにした。

<第2章> 実際に抗原提示細胞上でB7-2が生理的条件下で発現し,機能することを確かめるために,古くからT細胞の増殖を誘導することが知られいる抗μ鎖抗体+INF活性化B細胞を用いて脾臓T細胞の増殖反応を検討した。その結果,IFN-γは抗μ鎖抗体活性化B細胞上のB7-2発現を著しく増強し,T細胞の増殖を強力に誘導した。中でもナイーブCD4陽性T細胞はIL-2産生および細胞増殖反応を強力に誘導し,メモリーT細胞はナイーブT細胞ほど強い増殖反応を誘導しなかった。こうして,ナイーブT細胞はTh1型のサイトカインであるIFN-γと抗原刺激によって活性化したB細胞上のB7-2により効果的に活性化し,IL-2を大量に産生することによって強力な増殖反応を誘導することを明らかにした。一方,メモリーT細胞は,活性化B細胞上のB7-2を介してCTLA-4から負の刺激を受け取ることによってIL-2産生は抑制され,ナイーブT細胞ほど強力な増殖反応を誘導しないことを示唆した。

<第3章> 抗原により頻回刺激を受けた結果,ナイーブT細胞から分化したTh1およびTh2クローンを用いて抗CD3抗体刺激による反応性の相違を検討した。そめ結果,Th1クローンは抗CD3抗体刺激によりFyn,ZAP-70等のprotein tyrosine kinaseの活性化,PLC-γ1の活性化およびPIP2の分解が誘導された一方、Th2クローンではこれらすべての活性化が誘導されなかった。さらに,両クローンは抗CD3抗体刺激によって[Ca2+]i上昇とオシレーションを示したが,Th1クローンの[Ca2+]i上昇はherbimycin A感受性であるのに対し,Th2クローンの[Ca2+]i上昇はherbimycin A非感受性であることを明らかにした。こうして,Th1/Th2細胞に分化したそれぞれのクローンは,IL-2およびIL-4産生において全く異なったシグナル伝達経路を使用していることを明らかにした。

<第4章> Th1/Th2反応の不均衡によって誘導されるアレルギー性気管支喘息の発症に遺伝的要因が関与するか否かを検討するために,古くから遺伝的に異なる系統として知られるC57BL/6およびDBA/2マウスを用いてin vivoで血中Ig産生,Th1/Th2サイトカイン産生および肺内好酸球浸潤について検討した。その結果,C57BL/6マウスはDBA/2マウスに比べて,脾臓でのサイトカイン産生および血中Ig産生においてTh2型の反応を示した。さらに,C57BL/6マウスは肺内でTh2型のサイトカインを産生し,強力な肺内好酸球浸潤を誘導した。一方,DBA/2マウスは肺内でTh1型のサイトカインを産生し,好酸球浸潤を誘導しなかった。こうして遺伝的に異なる二系統のマウスは同環境下で異なったTh1/Th2反応と好酸球浸潤を誘導することから,遺伝的要因はTh1/Th2反応とアレルギー性気管支喘息発症に重要な役割をしていることを明らかにした。

<箏5章> 遺伝的にTh1型反応を引き起こしやすいとされるC57BL/6マウスならびにTh2型反応を引き起こしやすいとされるBALB/cマウスを用いて,今まで検討されたことのなかった低用量の抗原感作によって両マウスのアレルギー性気管支喘息における反応性を比較した。その結果,C57BL/6マウスはBALB/cマウスに比べてTh2型の血中Ig産生を誘導し,肺内でTh2型のサイトカインを産生し,強力な肺内好酸球浸潤を誘導した。一方,BALB/cマウスはTh1型の血中Ig産生を誘導し,肺内でTh1型のサイトカインを産生し,好酸球浸潤を誘導しなかった。こうして,アレルギー性気管支喘息における肺内好酸球浸潤は遺伝的要因によってのみ決定されるわけではないことを明らかにした。

<第6章> 第5章において,遺伝的要因以外に感作抗原の用量によって,Th1/rh2反応および肺内好酸球浸潤は誘導されることが示唆されたため,C57BL/6マウスおよびBALB/cマウスを用いて幅広い用量の抗原感作によってTh1/Th2反応をin vivoで比較した。その結果,C57BL/6マウスは低用量感作において肺内でTh2型反応を示し,高用量感作ではTh1型反応を示した。逆に,BALB/cマウスは低用量感作においてTh1型反応を示し,高用量感作ではTh2型反応を示した。しかしながら,脾臓での反応は感作抗原の用量に関係なくC57BL/6マウスでは常にTh1型,BALB/cマウスでは常にTh2型反応を示した。すなわち,C57BL/6マウスとBALB/cマウスの肺内好酸球浸潤に対する反応性の相違は,抗原量に対するTh1/Th2型サイトカイン産生の相違によって引き起こされることを明らかにした。こうして,遺伝的要因に加え,抗原量によってTh1/Th2反応は制御されていることを明らかにし,特にアレルギー性気管支喘息の発症を決定づけるのは遺伝的に決められている全身性の反応ではなく,炎症局所である肺内でのTh1/Th2反応の不均衡によって生じることが示唆された。

<総括> ナイーブT細胞は活性化する際に以下の五つの条件によってTh1あるいはTh2細胞へと分化することをin vitroおよびin vivo試験によって明らかにした。(1)活性化する際に共存するサイトカインの種類(第1章および第3章)(2)Costimulatoly分子からの刺激の種類(第1章および第2章)(3)抗原提示細胞の種類(第2章)(4)遺伝的要因・遺伝的背景(第4章および第5章)(5)抗原量(第6章)。さらに,これら五つの条件によってTh1/Th2型反応の不均衡が生じ,Th2型反応が優位となった結果,肺内好酸球浸潤は誘導されることを明らかにした。こうして,本研究はナイーブT細胞からTh1/Th2細胞の活性化に至るT細胞の活性化機構とTh1/Th2型反応の不均衡によって生じるアレルギー性気管支喘息の主症状である肺内好酸球浸潤の病態形成におけるメカニズムの一部を解明した。

審査要旨 要旨を表示する

 生体防御の観点から重要な役割を担っている免疫系は細胞性免疫と液性免疫の二つに大別される。そのいずれにおいても外来抗原に特異的なT細胞の活性化およびエフェクター(ヘルパー)機能が不可欠である。どちらの免疫反応が誘導されるかは活性化される細胞のヘルパー機能発現の相違による。CD4陽性ヘルパーT細胞は、そのサイトカイン産生パターンから主にIFN-γおよびIL-2等を産生するTh1細胞とIL-4、IL-5およびIL-10等を産生するTh2細胞に分類され、Th1細胞は細胞性免疫を、Th2細胞は液性免疫の担い手としてヘルパー機能を発揮する。Th1/Th2細胞の誘導は生体防御機構に重要であるだけでなく、自己免疫疾患およびアレルギー疾患等の発症においても重要であることが知られている。Th1/Th2細胞の共通の前駆細胞であると考えられているナイーブT細胞が抗原刺激を受けてTh1/Th2細胞へと分化するメカニズムを解明し、Th1/Th2反応のバランスを調節することは、これらの免疫疾患の発症機序を理解し、新しい治療法を考える上で非常に重要である。本研究はin vitroおよびin vivoの検討により、ナイーブT細胞からTh1/Th2細胞の活性化に至るT細胞の活性化機構とTh1/Th2型反応の不均衡によって生じるアレルギー性気管支喘息の主症状である肺内好酸球浸潤の病態形成について解析した。

 CD4陽性T細胞は活性化の段階によって副刺激の必要性が異なることを明らかにした。すなわち、ナイーブT細胞はIL-12単独では副刺激を与えなかったが、B7-2からの副刺激と共同して細胞増殖を誘導した。一方、何らかの形で一度活性化したと考えられるメモリーT細胞はIL-12およびB7-2それぞれ単独で副刺激を与え、迅速に細胞増殖を誘導したが、B7-2の副刺激はIL-12の副刺激を増強しなかった。一方、Th1細胞に完全に分化したTh1クローンはB7-2単独では副刺激を与えなかったが、IL-12単独で副刺激を与え、B7-2はIL-12の作用をさらに増強した。このようにナイーブT細胞はTh1細胞への分化に不可欠なIL-12に反応するためにB7-2からの副刺激が必要であり、メモリーT細胞およびTh1クローンの活性化において必ずしもB7-2からの副刺激は必要でないことを明らかにした。すなわち、ナイーブT細胞が活性化し、Th1細胞へ分化するためにはB7-2およびIL-12からの副刺激の両方が不可欠であることを明らかにした。

 実際に抗原提示細胞上でB7-2が生理的条件下で発現し、機能することを確かめるために、古くからT細胞の増殖を誘導することが知られている抗μ鎖抗体+IFN-γ活性化B細胞を用いて脾臓T細胞の増殖反応を検討した。その結果、IFN-γは抗μ鎖抗体活性化B細胞上のB7-2発現を著しく増強し、T細胞の増殖を強力に誘導した。中でもナイーブCD4陽性細胞はIL-2産生および細胞増殖反応を強力に誘導し、メモリーT細胞はナイーブT細胞ほど強い増殖反応を誘導しなかった。こうして、ナイーブT細胞はTh1型のサイトカインであるIFN-γと抗原刺激によって活性化したB細胞上のB7-2により効果的に活性化し、IL-2を大量に産生することによって強力な増殖反応を誘導することを明らかにした。一方、メモリー細胞は、活性化B細胞上のB7-2を介してCTLA-4から負の刺激を受け取ることによってIL-2産生は抑制され、ナイーブT細胞ほど強力な増殖反応を誘導しないことを示唆した。

 抗原により頻回刺激を受けた結果、ナイーブT細胞から分化したTh1およびTh2クローンを用いて抗CD3抗体刺激による反応性の相違を検討した。その結果、Th1クローンは抗CD3抗体刺激によりFyn、ZAP-70等のprotein tyrosine kinaseの活性化、PLC-γ1の活性化およびPIP2の分解が誘導された。一方、Th2クローンではこれらすべての活性化が誘導されなかった。さらに、両クローンは抗CD3抗体刺激によって[Ca2+]i上昇とオシレーションを示したが、Th1クローンの[Ca2+]i上昇はherbimycin A啓受性であるのに対し、Th2クローンの[Ca2+]i上昇はherbimycin A非感受性であることを明らかにした。こうして、Th1/Th2細胞に分化したそれぞれのクローンは、IL-2およびIL-4産生において全く異なったシグナル伝達経路を使用していることを明らかにした。

 Th1/Th2反応の不均衡によって誘導されるアレルギー性気管支喘息の発症に遺伝的要因が関与するか否かを検討するために、古くから遺伝的に異なる系統として知られるC57BL16およびDBA/2マウスを用いてin vivoで血中Ig産生、Th1/Th2サイトカイン産生および肺内好酸球浸潤について検討した。その結果、C57BL/6マウスはDBA/2マウスに比べて、脾臓でのサイトカイン産生および血中Ig産生においてTh2型の反応を示した。さらに、C57BL/6マウスは肺内でTh2型のサイトカインを産生し、強力な肺内好酸球浸潤を誘導した。一方、DBA/2マウスは肺内でTh1型のサイトカインを産生し、好酸球浸潤を誘導しなかった。こうして遺伝的に異なる二系統のマウスは同環境下で異なったTh1/Th2反応と好酸球浸潤を誘導することから、遺伝的要因はTh1/Th2反応とアレルギー性気管支喘息発症に重要な役割をしていることを明らかにした。

 遺伝的にTh1型反応を引き起こしやすいとされるC57BL/6マウスならびにTh2型反応を引き起こしやすいとされるBALB/cマウスを用いて、今まで検討されたことのなかった低用量の抗原感作によって両マウスのアレルギー性気管支喘息における反応性を比較した。その結果、C57BL16マウスはBALB/cマウスに比べてTh2型の血中Ig産生を誘導し、肺内でTh2型のサイトカインを産生し、強力な肺内好酸球浸潤を誘導した。一方、BALB/cマウスはTh1型の血中Ig産生を誘導し、肺内でTh1型のサイトカインを産生し、好酸球浸潤を誘導しなかった。こうして、アレルギー性気管支喘息における肺内好酸球浸潤は遺伝的要因によってのみ決定されるわけではないことを明らかにした。

 遺伝的要因以外に感作抗原の用量によって、Th1/Th2反応および肺内好酸球浸潤は誘導されることが示唆されたため、C57BL/6マウスおよびBALB/cマウスを用いて幅広い用量の抗原感作によってTh1/Th2反応をin vivoで比較した。その結果、C57BL/6マウスは低用量感作において肺内でTh2型反応を示し、高用量感作ではTh1型反応を示した。逆に、BALB/cマウスは低用量感作においてTh1型反応を示し、高用量感作ではTh2型反応を示した。しかしながら、脾臓での反応は感作抗原の用量に関係なくC57BL/6マウスでは常にTh1型、BALB1cマウスでは常にTh2型反応を示した。すなわち、C57BL16マウスとBALB/cマウスの肺内好酸球浸潤に対する反応性の相違は、抗原量に対するTh1/Th2型サイトカイン産生の相違によって引き起こされることを明らかにした。こうして、遺伝的要因に加え、抗原量によってTh1/Th2反応は制御されていることを明らかにし、特にアレルギー性気管支喘息の発症を決定づけるのは遺伝的に決められている全身性の反応ではなく、炎症局所である肺内でのTh1πh2反応の不均衡によって生じることが示唆された。

 以上の結果を総括すると、ナイーブT細胞は活性化する際に以下の五つの条件によってTh1あるいはTh2細胞へと分化することをin vitroおよびin vivo試験によって明らかにした。(1)活性化する際に共存するサイトカインの種類、(2)Costimulatory分子からの刺激の種類、(3)抗原提示細胞の種類、(4)遺伝的要因・遺伝的背景、(5)抗原量。さらに、これら五つの条件によってTh1/Th2型反応の不均衡が生じ、Th2型反応が優位となった結果、肺内好酸球浸潤は誘導されることを明らかにした。このように、本研究はナイーブT細胞からTh1/Th2細胞の活性化に至るT細胞の活性化機構とTh1/Th2型反応の不均衡によって生じるアレルギー性気管支喘息の主症状である肺内好酸球浸潤の病態形成におけるメカニズムの一部を解明した。従って、アレルギー性気管支喘息のメカニズム解明および気管支喘息治療薬の開発に大きく貢献する研究であり、博士(薬学)の授与に値するものと判断した。

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