学位論文要旨



No 214823
著者(漢字) 伊東,孝之
著者(英字)
著者(カナ) イトウ,タカユキ
標題(和) 鉄道路盤における道床のめり込みに関する研究
標題(洋)
報告番号 214823
報告番号 乙14823
学位授与日 2000.10.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14823号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 講師 桑野,玲子
 都立大学 講師 吉嶺,充俊
内容要旨 要旨を表示する

 鉄道路盤における道床のめり込み沈下は軟弱な粘性土の路盤において、道床の貫入力に対して路盤の抵抗が不足しているために生じる。既設線の路盤はその品質が十分でないものが多く存在していて、道床の路盤土へのめり込みによる軌道狂いの誘発を招くことが多く、多くの保守量を必要としている。また、新設線においても路盤を構築する際、良質土は周辺の自然土では入手困難な場合が多く、経済性の問題がある。そこで、これらの問題を解決し、路盤本来の機能に密接な関係にある道床のめり込み沈下量の算出およびその要因の寄与度を解明することにより、道床のめり込みに抗し得る路盤の支持力、その必要締固めの程度を明らかにする必要がある。。そのため、めり込み沈下の要因およびその沈下式を求めるため、室内試験を行うとともに、現地調査を行い、これらの検証を行った。

 先ず、道床の路盤へのめり込み沈下と路盤自身の圧縮沈下を明らかにするため、室内において、小型模型装置を用いた、一次元繰返し鉛直載荷実験を行ない、土質(CL)、(VH2)、(CH)、(SM)の4種の土について、土のコーン貫入抵抗qcを種々に変えて(0.2〜3.4MPa)、荷重強度P(0.1,0.17,0.3MPa)に対する、経時めり込み沈下量、圧縮沈下量を求めた。

 小型模型装置は、鋼製モールド(内径47.5cm、高さ45cm)中に試料土を敷き詰め、その表面に模擬道床(鋼球:直径9.5mm)を4層に密に詰めて、その上に有孔載荷板を置いたものであり、繰返し載荷中は、水で滞水させた場合とそうでない場合の両方の状態で、最終繰返し回数50〜500万回の範囲で行った。実験の結果、次の事項が分かった。

1)滞水した土供試体の沈下は、それ自身の圧縮沈下と噴泥を伴うめり込み沈下からなる。圧縮による沈下は、載荷回数30万回までは、継続して生じるが、それ以降は、めり込み沈下が主体であり、繰返し荷重の増加により継続して、一定の沈下速度になる。

 図1は、載荷回数500万回まで繰返し載荷を行った供試体の例である。この例では、載荷回数100万回以降では、めり込み沈下のみとなり、その沈下速度は、ほぼ、一定になることを示している。

2)鋼球のめり込み沈下速度式を4種の土質に対して、重回帰分析により求めた。すなわち、沈下速度(B)は、次式で示される。

B=βopβ1qcβ2

 ここに、B:10万回当たり沈下量(mm/10万回)、p、qc:荷重強度(MPa)、コーン貫入抵抗(MPa)、βo、β1、β2:土質により決まる係数

3)各土質に対して・密度変化率(△ρd/ρd)とqc/Pとの関係は、図2に示すような結果が得られた。図2から、qc/P=8のとき、密度変化率が0となることが分かった。すなわち、土質、滞水の有無に関わらず、qc=8Pであれば、載荷による供試体の密度の変化はないといえる。

ここに、△ρdは、載荷後の乾燥密度から載荷前の乾燥密度を差し引いた値であり、ρbは載荷前乾燥密度である。

3)載荷前のコーン貫入抵抗値は、載荷により増加し、最終的には載荷荷重強度の8倍に近づく。

4)土質の代表土である(CL)について、模擬道床(鋼球)に代えて、実道床を用いた同様な繰返し載荷実験を行い、沈下速度(B)は、鋼球の場合の3倍になることが分かった。

 これは、実道床粒(平均径35mm)の寸法効果によるものであり、載荷1回当たりのめり込み量(ΔS)とその球体直径(Φ)の比(ΔS/Φ)は、Φの大きさによらず一定であるためである。すなわち、実道床の粒径は、鋼球(Φ:9.5mm)のそれの約3倍であり、前者のめり込み沈下速度(B)は、後者のそれの約3倍になることが成立する。

 この結果、実道床のめり込み沈下速度は、沈下式の係数(β0)を3倍することにより得られる。 次に、既述道床のめり込み沈下速度式を検証するため、実物大模型の路盤、軌道を構築しこれに対する定置繰返し載荷実験を行い、レールおよび路盤の経時沈下量などを測定した。構築した路盤は、4種類(A,B,C,D路盤)であり、A.Cは、砂路盤であり、B,Dは、粘性土路盤である。また、CD路盤は、載荷中常時散水して、表面の滞水状態を保つようにした。繰返し荷重の最大値は、78kN/1レールであり、各路盤の最終繰返し回数は、200万回である。

 表1は、4種類の路盤に対する載荷回数130〜200万回の間の実測レール沈下速度と上記式を用いて得られるめり込み沈下速度を比較したものである。表1から各路盤とも両者の沈下速度は、ほぼ一致していることがわかる。なお、載荷回数130万回以降は、圧縮沈下の進行や道床自身の沈下は、僅かであると考えたからである。

 次に、更にめり込み沈下予測式の検証のため、5地区、10個所の路盤現地調査を行った。調査箇所は、30年以上の供用に耐え、一時休止線になっている箇所が大部分であった。調査内容は、道床めり込み量、路盤強度、高低軌道狂い進み等である。

 調査の結果次のことが分かった。

1)高低軌道狂い進み(レール面10m間中央点の高低差の100日当たり進行度)とレール沈下との関係式へ、道床めり込み沈下予測式を適用して求めた計算軌道狂い進みと実測軌道狂い進みとの関係は、図3となった。図3から、計算値は、実測の7割り程度である。これは、実測の中に道床の緩みによる、道床自身の沈下が含まれるためと推察される。

2)各路盤の密度変化率とqcの関係を整理すると図4が得られた。これにより、密度変化率が0の時のqcの平均は、1.6MPaである。各路盤における列車荷重による路盤圧力(P)を0.2MPa位とすると、qc/P=8となり、一次元模型の実験結果と一致する。

3)沈下が少なく、軌道が安定している路盤について、高低狂い進み、コーン貫入抵抗値(qc)等を調査した結果、粘性土路盤において、そのqcは、IMPa以上が、砂質土路盤において、換算qcが、2.4MPa以上であることが分かった。以上結論として、鉄道路盤における道床のめり込み沈下は表2に示す予測式によって求める事が出来る。また、沈下の少ない安定した路盤は、上記3)に示した路盤強度が必要である。

図1 全沈下速度に占めるめり込み沈下速度の割合例

図2 密度変化率とq。/pの関係

表1 路盤めり込み沈下速度の実測と沈下式の上比較(実物大模型)

図3 軌道狂い進みの比較

図4 qcとΔρd/ρd1の関係

表2 めり込み沈下速度(B)の係数値

審査要旨 要旨を表示する

 鉄道路盤におけるバラスト砕石からなる道床がその下の軟弱な粘性土の路盤にめり込む現象は、鉄道工学における古くからの重要な問題の一つであり、今日でもこの問題は、十分には解決していない。このめり込みが生じないような構造形式の道床・路盤を開発する努力が行われているが、既設の鉄道では依然としてこの問題は深刻であり、新規鉄道でもコストから見てバラストからなる道床を採用することが多い。道床のめり込みは、道床の貫入力に対する路盤の抵抗が不足しているために生じる。既設鉄道の路盤は品質が十分でないものも多く存在していて、道床の路盤へのめり込みにより軌道の狂いを誘発する事が多く、このため多くの保守量を必要としている。従って、計画的な保守作業を行うためにも、新たに路盤を建設する場合に対しても、道床の路盤へのめり込み沈下の要因とその量の予測式を確立する必要があった。

 本研究は、系統的な室内模型試験を行うとともに、現地での道床のめり込みに関する広範囲な調査を行い、上記の要求に応えたものである。

 序論で、既往の研究を総括し、上記のような研究の背景をまとめている。

 第二章では、道床の路盤へのめり込みの現象の基本メカニズムを、原位置での調査結果を基に検討をしている。その結果に基づいて、内径47.5cmの小型シリンダー内に鋼球で模した道床と4種の粘性土の模型路盤を作成して、一次元状態で鉄道荷重を模した鉛直繰返し載荷を行っている。その結果をまとめ、定常沈下速度B(mm/10万回)を路盤に生じる繰返し圧力の最大値(P)と路盤のコーン貫入抵抗値(qc)の関数として、土質により異なるパラメータβ0、β1(=2.5〜3.5)、β2(=-1.5-2.5)を用いた経験式B=β0・pβ1・qcβ2で表せることを示している。次に、模型道床を実際のバラスト砕石で作1成して同様な実験を行ったところ、沈下速度は約3倍になった。これは、バラストの直径が鋼球の直径の約3倍であったためであると推定している。

 第三章では、実現象が三元的であることを考えて、直径75cmのシリンダー内に粘性土を用いて模型路盤を作成して鋼球を用いた模型道床を異なる直径で作成して、第二章で説明した方法と同様な方法で繰返し載荷した。各種の三次元効果が観察されたが、道床の路盤へのめり込みによる定常沈下速度は、二次元模型実験と基本的に同じであることを見い出している。

 第四章では、道床の粘性土路盤へのめり込み現象のメカニズムは、コーン貫入試験での円錐コーンが粘性土地盤へ貫入するメカニズムと基本的には同一であることを理論的に考察し、それ故同一の繰返し荷重の下では定常貫入速度はコーンの直径すなわち道床バラスト砕石の直径に比例することを示している。

 第五章では、実物大の軌道・実際のバラスト砕石を用いた道床・三種の路盤模型を室内で作成し、実際の列車荷重相当を用いた繰返し載荷をレール上の定位置で与えた実物大実験を行った結果をまとめて、室内小型模型実験で得られた経験式の妥当性を検討している。その結果、100〜200万回載荷させた繰返し載荷後期でのレール沈下速度は、小型模型試験で得られた経験式とほぼ等しいことを示している。

 第六章では、道床が過大に沈下しないための、路盤の構築時の路盤土に要求される土質と含水比の関数としての強度と、模型試験で得られた繰返し載荷の下での路盤の密度変化に基づく圧縮沈下に関する経験式を用いて求めた路盤にされる密度等の品質をまとめている。

 第七章は、線路改良工事により廃線敷となった全国10箇所において道床の路盤に対するめり込みの実体調査と営業時の軌道狂い(高低狂い)の進み状況の調査を行うとともに、路盤・道床に対する平板載荷試験、コーン貫入試験による路盤支持力特性の調査を行った結果をまとめている。すなわち、室内模型試験により求めた経験式による軌道狂い進みの計算値は実測値を30%程度過大評価するが、実測値の傾向を極めて正確に予測していることを示している。この差は、実査の軌道では上記経験式では考慮していない道床の圧縮沈下も生じるためであると推定している。また、模型試験では繰返し載荷によって路盤のコーン貫入抵抗(qc)は一定値の収束する傾向が見られたが、原位置においてもqc=8・p(pは路盤圧力)に収束することを示している。

 第八章は、本研究で得られた結果に基づいて、実務に適用すべき道床のめり込み沈下の予測式と必要路盤強度を提案し、道床沈下が殆ど生じないようにするための路盤貢献を判定する方法を提案している。

 第九章では、本研究の成果が、新幹線開業後の軌道沈下の予測等の実務に用いられてきた状況をまとめている。

 第十章は、結論である。

 以上要するに、現場での実現象の観察・室内試験・理論的考察・現場測定に基づいて、列車荷重によるバラスト砕石からなる道床が長期に亘り粘性土路盤にめり込む現象のメカニズムを明らかにし、道床のめり込み量の予測式と道床のめり込みを無くすための路盤条件を定量的に明らかにし、実務で使用できるレベルでの定量的な提案をしており、地盤工学の研究分野の発展に寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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