学位論文要旨



No 214824
著者(漢字) 中瀬,仁
著者(英字)
著者(カナ) ナカセ,ヒトシ
標題(和) 平面ひずみ圧縮試験における砂の微視的構造とすべり面の形成過程に関する研究
標題(洋)
報告番号 214824
報告番号 乙14824
学位授与日 2000.10.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14824
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 目黒,公郎
内容要旨 要旨を表示する

 地盤は、すべり面を形成して破壊する。Newland and Allely(1957)によって示された平面的なすべり面のモデル(すべり面近傍の平均的粒子接点角方向にすべり面に沿って剛体的に滑るモデル)は、土質力学の微視的手法における標準的な概念となっている。

 これに対して、砂の平面ひずみ圧縮試験における供試体に現れるすべり面は、土粒子1〜20粒分からなるといわれる幅を持ち、三次元的に見てせん断層、二次元的にはせん断帯(shear band)と呼ばれ、立体的な構造を持つことが予想される。

 一方、荷重を受ける粒状体には、σ1方向に卓越する粒子の立体構造(Oda,1974)が存在することが知られている。粒状体は、この構造によって支えられ、この構造が変形することにより全体が変形すると考えられる。

 従って、幅のあるすべり面の形成メカニズムは、この土粒子の立体構造と密接な関係があると考えられ、これを明らかにすることが本研究の目的である。

 本研究では、粒状体に形成される立体構造を構造骨格と称し、特に材料の強度が頭打ちになってひずみ軟化を生じるまでの区間は、構造骨格に大きな変化はないものと仮定し、菱形のセルを最小単位とする格子状の構造をその力学モデルとして想定した。

 この格子状の構造の変形特性が、理論的事実や実験的事実と整合することを、概念的に説明し、粒状体の力学モデルとしての格子状モデルが合理性において特に逸脱したものではないことを示した。次に、ステンレスの細板を組み合わせた格子状モデルの変形パターンを調べ、構造骨格に観察されるであろう変形の局所化パターンを類型化した。

 一方、研究を進める上で強力な道具となる個別要素法について、アクリル棒やアルミ棒の積層体に対する圧縮試験を対象にシミュレーションスタディを実施し、実験結果を良好に再現することを示した。この実験とシミュレーションの中で、ディスクや丸い棒の集合体も、二次元的粒状体として挙動し、破壊する場合にはすべり面を形成すること、局所変形には、粒子の回転が密接に係わっていることを示した。

 次に、実際の砂に発生するひずみの局所化とせん断層の形成過程についていくつかの実験をレビューし、平面ひずみ圧縮試験では、まず中央部にせん断帯が複数交差する形でひずみが局所化すること、非対称一次モード等の全体変形を伴ってすべり面を形成すること、すべり面の形成はブロック化の過程であること等を確認した。

 この実験事実について、格子状の構造をアルミフレームを用いてモデル化し、これを直接圧縮して供試体に現れる変化を観察した。その結果、供試体中央部にひずみが局所化し、すべり面が形成される過程でこれに直交する複数の小すべり面が形成されること等、圧縮過程における砂に観察される局所化のパターンと対応する局所的変形およびその履歴が観察された。この局所化変形のパターンは、格子状モデルの変形パターンとの類似していることを示し、この現象を支配する要因は格子構造の適合条件であることを示した。また、格子モデルのユニットの変形が次々に連鎖しすべり面を形成する際に、強度の低下が生じることから、砂材料に観察されるひずみ軟化は、構造骨格の変形連鎖に伴う荷重方向に対する構造の弱化によるものであると考えた。

 また、個別要素法の要素を格子状に配置しこれを圧縮する様子を観察した。その結果、変形の局所化が飛び飛びに伝播し、供試体をブロックに分割すること、ブロックへの分割が終了したとき強度が頭うちとなること、全体変形に伴ってブロックの統合が始まり、すべり面が一つに定まる様子等を観察した。

 最後に、大量のアクリル棒に対する平面ひずみ圧縮試験とこれに対するシミュレーションおよび数値実験を行って、ここまで検討してきたことと整合するかどうか観察した。その結果、圧縮の過程で現れるひずみの局所化のパターンは、格子構造に現れるそれとよく似ていること、全体変形の繰り返しにより、対応するすべり面が代わる代わる発生すること、構造骨格の柱を構成する要素が回転して発生する変形が飛び飛びに伝播して立体的なすべり面を形成している様子等を観察した。

審査要旨 要旨を表示する

 鉄道路盤における道床のめり込み沈下は軟弱な粘性土の路盤において、道床の貫入力に対して路盤の抵抗が不足しているために生じる。既設線の路盤はその品質が十分でないものが多く存在していて、道床の路盤土へのめり込みによる軌道狂いの誘発を招くことが多く、多くの保守量を必要としている。また、新設線においても路盤を構築する際、良質土は周辺の自然土では入手困難な場合が多く、経済性の問題がある。そこで、これらの問題を解決し、路盤本来の機能に密接な関係にある道床のめり込み沈下量の算出およびその要因の寄与度を解明することにより、道床のめり込みに抗し得る路盤の支持力、その必要締固めの程度を明らかにする必要がある。。そのため、めり込み沈下の要因およびその沈下式を求めるため、室内試験を行うとともに、現地調査を行い、これらの検証を行った。

 先ず、道床の路盤へのめり込み沈下と路盤自身の圧縮沈下を明らかにするため、室内において、小型模型装置を用いた、一次元繰返し鉛直載荷実験を行ない、土質(CL)、(VH2)、(CH)、(SM)の4種の土について、土のコーン貫入抵抗qcを種々に変えて(0.2〜3.4MPa)、荷重強度P(0.1,0.17,0.3MPa)に対する、経時めり込み沈下量、圧縮沈下量を求めた。

 小型模型装置は、鋼製モールド(内径47.5cm、高さ45cm)中に試料土を敷き詰め、その表面に模擬道床(鋼球:直径9.5mm)を4層に密に詰めて、その上に有孔載荷板を置いたものであり、繰返し載荷中は、水で滞水させた場合とそうでない場合の両方の状態で、最終繰返し回数50〜500万回の範囲で行った。実験の結果、次の事項が分かった。

 粒子間接点に粘着力が作用してない非常に多数の粒子の集合体である砂や礫などの地盤材料の変形・強度特性を予測しようとする場合、通常の設計問題や研究手法においては、粒状体を連続体として仮定する。しかし、実際には粒状体は連続体でなく、そのことは変形と破壊過程に反映されているはずである。例えば、破壊直前に変形が狭い帯状の領域(すべり帯あるいはすべり層)に集中し始め、ピーク強度が発揮された後は、軟化しながらすべり層への変形の集中が一層進み、すべり層の外は弾性的な除荷変形をすることが経験的に知られている。さらに、すべり層の厚さは粒子の大きさに比例し粒子の形状の影響を受けることや、完全に軟化して残留状態に至るまでのすべり層のせん断変形の量も粒径に比例することも経験的に知られている。連続体力学の範疇での研究ではこの現象はひずみの局所化と呼ばれており、様々な数理的研究が行われて来た。しかし、本来この現象は多数の粒子で構成された構造物の安定と破壊の問題であるのにも拘わらず、数理的研究の物理的根拠を明らかにした研究は殆どない。また、実際の砂礫を用いた変形・強度実験において、このような微視的構造を観察することは非常に困難である。この様な理由のため、粒状体の破壊を含む変形・強度特性の本質理解が進んでこなかった。

 本研究は、理想化した粒状体の二次元模型の平面ひずみ圧縮試験を行い、粒状体の破壊に伴う内部の微視的構造の変化を詳細に観察するとともに、個別要素法により数学的シミレーションを行い、上記ひずみの局所化の現象に伴う粒状体の破壊メカニズムを微視的構造の立場から解明しようとしたものである。

 序論で、既往の研究を総括し、上記のような研究の背景をまとめている。

 第二章では、粒状体の破壊に伴う粒状体内部の微視的構造骨格の変化に関する既往の研究をまとめ、本論文の基本概念として、粒状体内部の微視的構造は、粒子が球形に近い程ヒンジで結節されたメンバーからなるトラス構造に近づき、球形から離れるほどメンバーの結節点でモーメントを伝達できるラーメン構造に近づくことを提示している。

 第三章は、本研究で用いた数学的シミュレーション手法である、Cundallによって提案された二次元個別要素法の概要を述べている。この手法の妥当性を直接実験によって厳密に検証した研究例がこれまで殆ど無かったことから、球形粒状体に対する二次元個別要素法の計算条件に合わせた「円形断面のアクリル棒の一面せん断試験と平面ひずみ圧縮試験」を行っている。その実験結果を数値シミュレーションし、個別要素法により実験結果を正確にシミュレーションできることを示すとともに、粒状体の破壊は粒子の局所的回転を伴っていることを、その結果により示している。

 第四章では、既往の研究で行われた砂の平面ひずみ圧縮試験における供試体内部の局所的変形の様子を詳細に検討している。すべり層が剛な境界と接している供試体の上下端部からではなく、供試体の中央部から発生していることを示し、その理由として剛な上下端面を底辺とする二つの襖が形成され、その接近により供試体中央部に局所的に変形が集中することを示している。

 第五章では、上記観察を基礎にして、平面ひずみ状態にある粒状体が破壊するときのマクロ的なひずみ硬化・軟化挙動を再現できるとともに内部の微視的構造の本質的メカニズムを保持しつつ最も理想化したモデルとして「アルミフレームの菱形ユニットを組み合わせた格子構造からなる供試体」を提案している。その圧縮試験を実施して、粒状体のひずみ硬化・軟化を伴うマクロ的な荷重〜変位関係の特徴を持つ結果を得ている。また、ある箇所で格子点での塑性的変形を原因として局所的なユニットの格子メンバーの回転を伴うユニットの圧縮破壊が生じ、その変形モードが幾何学的に周囲へ伝播することにより変形が集中した帯(即ちすべり層が形成)されることを示した。また、格子メンバーの回転により圧縮力を支えるのに不利な構造になって行くことが、いわゆるひずみ軟化の原因であることを示している。これらの現象は、実際の粒状体の破壊現象と良く対応していて、実際の粒状体の局所的破壊メカニズムを理想化した形で捉えている。また、個別要素法を用いてこの軸圧縮試験のシミュレーションを実施して、マクロ的な荷重〜変位関係とともに粒状体の破壊時の局所的な変形挙動を良く再現できることを示している。

 第六章では、アクリル棒の平面ひずみ圧縮試験及びその個別要素法でのシミュレーションにおいて、上で述べた粒状体内部の微視的構造の破壊時の局所的な変形挙動を確認している。すなわち粒状体の破壊は、以下の様に内部の微視的構造の変化を伴って生じる。1)粒状体内部の微視的構造骨格の不整によって局所的に集中した変形が生じて、その変形が幾何学的に伝搬してすべり層が形成され、2)形成されたすべり層により供試体が複数の剛体的小ブロックに分割され、3)小ブロック間の力の釣合いの均衡が失われて小ブロックが統合されて、供試体を貫くすべり層に沿った大ブロックの非対称的な相対変位が生じる。

 第7章は、結論である。

 以上要するに、理想化された粒状体の平面ひずみ圧縮試験と個別要素法によるその実験の数値シミュレーションを行うことにより、粒状体の破壊に伴う内部の微視的構造の変化とすべり層の形成過程を明らかにし、非連続体として粒状体の破壊メカニズムと変形強度特性の研究分野の発展に寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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