学位論文要旨



No 214825
著者(漢字) 徳山,喜政
著者(英字)
著者(カナ) トクヤマ,マサヨシ
標題(和) 自由曲面設計と加工支援のためのスキニング手法及び曲面近似方法に関する研究
標題(洋)
報告番号 214825
報告番号 乙14825
学位授与日 2000.10.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14825号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中島,尚正
 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 助教授 鈴木,宏正
 東京大学 助教授 増田,宏
 東京大学 助教授 村上,存
内容要旨 要旨を表示する

 本論文では,CAD(Computer Aided Design)システムを用いた自由曲面の設計方法のうち,最も重要な二つの機能であるスキニング曲面および軌道付スキニング曲面生成方法に関して,従来の問題点を解決した方法を提案する.また,CADシステムで設計した自由曲面形状をCAM(Computer Aided Manufacturing)システムへ渡して加工するために必要な二つの機能である自由曲面上の抜き勾配生成方法および自由曲面の近似変換方法に関して,従来の問題点を解決した方法を提案する.

 CADシステムにおいて一般的に使われる自由曲面の設計方法は,点群を補間する方法,点群の近傍を通過するように曲面をあてはめる方法,曲線から曲面を生成する方法である.また,曲線から曲面を生成する方法のうち最もよく使われる手法は,スキニング手法,スイープ手法,回転スイープ手法,境界曲線で囲まれた領域を内挿する手法である.これらの方法の中で,スキニング手法に関する技術的な課題が依然として残っている.

 スキニング手法は,空間上に配置された複数個の断面曲線を補間して,自由曲面を生成する方法である.この手法により生成された曲面はスキニング曲面と呼ばれている.例えば,船体,車体はスキニング手法で作られることが多い.スキニング手法は対話的な自由曲面形状設計に最も適していると思われる.

 スキニング手法の拡張として,入力した軌道形状を参照しながら,複数個の異なる断面曲線を補間して,自由曲面を生成する方法がある.一般にこの方法は軌道付スキニング手法と呼ばれている.例えば,断面形状が一定でないパイプは軌道付スキニング手法で作られることが多い.この方法ではスキニング曲面形状は軌道形状で制御されるため,軌道形状と類似する.軌道なしのスキニング手法に比べて,同じ断面を利用し,軌道形状を変更するだけで異なる形状を設計できる利点がある.

 スキニング手法および軌道付スキニング手法による自由曲面形状の設計方法は有効な手法であるが,設計者が意図した形状を容易に生成できるためには,CADシステムは次に示すような技術的課題を解決しなくてはならない.

課題1 スキニング手法において,設計者の意図を反映するため,すべての断面曲線が滑らかなときには,滑らかな自由曲面形状を生成する必要がある.

課題2 軌道付スキニング手法において,設計者が意図する形状を効率よく得るためには,断面と軌道からスキニング曲面形状を想定できることが必要である.そこで,軌道形状をスキニング曲面形状に反映させる必要がある.

 多くのCADシステムにおいて,断面曲線はB-splineまたは有理B-spline曲線で表現され,自由曲面はB-splineまたは有理B-spline曲面で表現される.有理B-spline曲線を生成する方法の一つに,複数の有理Bezier曲線(例えば,直線,円弧,Bezier曲線形状)を端点で連結した区分曲線を利用する方法がある.しかし,一般には,3次元空間における区分曲線の曲線セグメント同士がC1連続であっても,同次座標空間における曲線セグメント同士の連続性がC1連続とは限らない.同次座標空間における曲線セグメント同士の連続性がC0連続であれば,生成されるスキニング曲面がC0連続になる場合が多い.一方,C0連続の曲面と比較して,C1連続の曲面の方がデータ量が少なくかつ滑らかである.従って,生成されるスキニング曲面は,少なくともC1連続になるのが望ましい.この問題を解決するため,従来,同次座標系における曲線の連続性を改善する方法が提案されていた.しかし,従来の方法は結果となる曲面の次数が上がってしまうという欠点がある.本研究では,区分曲線を再パラメーター化することによって,3次元空間および同次座標空間における曲線セグメント同士の連続性をともにC1連続にする方法を提案する.C1連続な断面曲線をスキニングすることで,C1連続な曲面を生成することができる.

 従来の軌道付スキニング手法では,断面曲線を補間してスキニング曲面を生成するときに必要な曲面次数,各断面のパラメーターは,それぞれ軌道の次数,各断面に対応する軌道上の点のパラメーターを利用している.また,スキニング曲面形状を制御するため,軌道の1階微分ベクトルを参照している.しかし,従来の方法では,断面と軌道からスキニング曲面形状を想定できないために,ユーザーが意図する形状を効率よく得ることが難しい.また,同じ1階微分ベクトルをもつ異なる軌道曲線に基づいてスキニング曲面を生成すると,それらの形状が同じになってしまうという問題もある.異なる軌道曲線に基づいて生成したスキニング曲面は異なるのが望ましい.この問題を解決するため,本研究では,軌道曲線の制御点を,生成した曲面の制御点に組み込むことによって,曲面形状を軌道形状と連動させる方法を提案する.

 設計,生産を効率化するためには,より上流で作成した3次元データを下流で利用することが望ましい.その一つの形態として,CADシステム上で設計した自由曲面データをCAMシステムへ渡して加工することがあげられる.しかし,CADデータとCAMデータのそれぞれに対する要求の違いにより,必ずしもCADデータがそのままCAMシステムで利用できるとは限らない.自由曲面形状の加工を支援するためには,CADシステムは次に示すような技術的課題を解決しなくてはならない.

課題3 CADシステムで設計した形状をダイキャスト金型や射出成型金型などで製造する場合には,成型品を金型から容易に取り出すため,金型に抜き勾配をつける必要がある.一般に多面体形状に抜き勾配をつけるのは簡単であるが,自由曲面上に抜き勾配をつけるのは困難である.しかし,自由曲面を含む形状の増加に伴い,自由曲面上に抜き勾配を簡単につけられる方法が求められている.

課題4 CADシステムが扱える曲線,曲面のタイプと次数をCAMシステムが扱えない場合には,CADデータをCAMシステムに渡すとき,CAMシステムが扱える形式にデータを変換する必要がある.例えば,有理曲面や高次の曲面から低次の非有理曲面への近似変換はしばしば行われる.データ変換前後において,元の曲面が滑らかであれば,近似曲面も滑らかであることが望ましい.また,新しい曲面形式に対応できるような変換が必要である.

 自由曲面上に抜き勾配をつける従来の方法では,まず頂角の判値を抜き勾配角とする逆円錐を想定する.次に逆円錐を製品の基本形状の外面に接するように転がした場合に,その基本形状と逆円錐との接点を含む円錐の母線が描く軌跡を抜き勾配面として求めている.しかし,この方法では,形状と逆円錐との接点を求めるために,形状と逆円錐の2次元断面形状をそれぞれ求め,その断面形状同士の接点を求めるため,計算効率が悪い.この問題を解決するため,本研究では,自由曲面上に等勾配線,等勾配面を定義し,抜き勾配面として等勾配面を生成する方法を提案する.

 自由曲面の近似変換方法は様々に提案されている.しかし,従来の方法では,近似曲面の滑らかさに問題がある,またはGregory形式に適用できないという問題がある.本研究では,これらの問題を解決するため,任意のタイプや次数の自由曲面を1枚のC1連続な双3次B-spline曲面に近似変換する方法を提案する.この方法は元曲面に対するタイプ,次数などの制限がないので,元曲面の位置と1階微分の評価さえできれば,どのような曲面式にも適用できる.

 上に述べた手法により,CADシステムにおいて,意図する自由曲面形状を容易に設計できるようになり,CADシステムで設計した自由曲面形状を円滑にCAMシステムへ渡して加工できるようになる.本論文で述べたスキニング曲面,軌道付スキニング曲面生成方法,自由曲面における抜き勾配生成方法,自由曲面の近似変換方法は,商用のソリッドモデラに実装され,その実用性,効果が確認されている.

審査要旨 要旨を表示する

 近年、効率よく高品質な自由曲面形状を設計、生産するための計算機支援技術が必要とされ、CADシステムを用いて自由曲面形状を設計し、それをCAMシステムヘ渡して加工する方法が導入され始めている。

 本論文は、CADシステムにおける自由曲面の設計方法のうち、最も頻繁に利用されているスキニング手法及びその拡張である軌道付スキニング手法に関する従来方法の問題点を解決し、さらに、CADシステムで設計した自由曲面形状をCAMシステムへ渡して加工する上で不可欠な二つの機能である自由曲面上の抜き勾配生成及び自由曲の近似変換に関しても従来方法の問題点を解決したものである。

 本論文は8章より成り、その概要は以下のとおりである。

 第1章の序論は、本研究の背景と目的及び解決すべき課題について述べ、課題を解決するための考え方について説明している。

 第2章は、第3章以下で述べる手法を説明するための導入部である。ここでは、本研究の基礎となった曲線補間法、曲面補間法、曲線あてはめ法、曲面あてはめ法、スキニング手法、スキニング手法の特殊なケースであるルールド曲面生成方法について述べている。

 第3章は、区分有理Bezier曲線をもつ断面曲線を再パラメータ化することによって、3次元空間及び同次座標空間における曲線セグメント同士の連続性をともにC1連続にする方法について述べ、再パラメータ化された断面曲線に基づいたスキニング曲面の生成方法について述べている。区分有理Bezier曲線をもつ断面曲線の場合、従来、C0連続なスキニング曲面をしか生成できなかったが、本論文の方法により、C1連続なスキニング曲面が生成できるようになった。

 第4章は、軌道にそったスキニング曲面の生成方法、すわわち、軌道曲線の制御点をスキニング曲面の制御点に組み込む方法について述べている。この方法により、スキニング曲面の形状に反映させた軌道形状を変更することによりスキニング曲面の変更が可能にできるようになった。本方法の特長は、断面と軌道から生成される曲面形状が想定しやすいので、設計者が意図した自由曲面形状を効率よく設計できることである。

 第5章は、自由曲面を含む形状をCAMシステムで加工するために必要な抜き勾配の生成方法について述べている。すなわち、まず等勾配線と等勾配面を定義し、その後にこれらを近似的に生成する。等勾配面は、等勾配線およびパーティング面上の干渉線を作り、等勾配線と干渉線との間にルールド曲面(スキニング曲面の特殊なケース)を張って生成する。このルールド曲面は幾何学的に正確な等勾配面を近似したものであり、抜き勾配面となる。この方法により、自由曲面上に抜き勾配を簡単につけることができるようになった。

 第6章は、高次または有理の自由曲面をCAMシステムヘ渡すときに低次の自由曲面に近似変換する方法について説明している。この方法により近似変換したB-spline曲面の内部パッチ間の連続性はC1連続である。本方法は元曲面に対するタイプ、次数などの制限を受けないので、元曲面の位置と1階微分の評価さえできれば、どのような曲面式にも適用することができる。

 第7章は、第3、4、5、6章で述べた本研究の手法を実際の自由曲面形状の設計と加工支援に応用した事例を示しその有効性を述べている。すなわち、再パラメータ化した断面曲線を利用したスキニング曲面の生成事例、軌道に沿ったスキニング曲面の生成方法を自由曲面形状へ応用した事例、抜き勾配の生成方法を自由曲面形状へ応用した事例、自由曲面の近似方法の応用した事例の各々を示し有効性を説明している。

 第8章は、結論であり、本研究を総括し、今後の課題と展望を示している。

 以上のように、本論文は、CADシステムにおいて、高品質な自由曲面形状を容易に設計できる方法と、設計した自由曲面形状を円滑にCAMシステムへ渡して加工するための方法を示したものである。

 本論文は、産業機械工学の今後の発展に寄与するとことが大きいと判断される。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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