学位論文要旨



No 214848
著者(漢字) 西川,卓治
著者(英字)
著者(カナ) ニシカワ,タクジ
標題(和) 卵巣摘出骨粗鬆症モデルラットの骨量および骨強度に対するエチドロネートとアルファカルシドールの同時併用効果
標題(洋)
報告番号 214848
報告番号 乙14848
学位授与日 2000.11.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14848号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 助教授 高取,吉雄
 東京大学 助教授 三村,芳和
 東京大学 講師 福本,誠二
 東京大学 講師 矢野,哲
内容要旨 要旨を表示する

【緒言】骨粗鬆症治療薬は、個々の単剤での薬理効果および作用機序については基礎的検討が行われており、これに基づいて臨床治療に応用されている。しかしながら、作用機序の異なる多くの薬剤が臨床に用いられている現在において、複数の薬剤の併用が、単剤では実現できなかった薬理効果を実現しうる可能性がある。また、臨床の現場では既に複数の薬剤が併用されていることが多いにもかかわらず、その効果についての基礎的検討はほとんど行われていない。現在認可されている骨粗鬆症治療薬のなかで今後主要になるのは、近年開発され,その強力な骨吸収抑制効果が注目されているビスフォスフォネート製剤と,わが国で従来から最も使用頻度の高い活性型ビタミンD3製剤ではないかと思われる。本研究の目的は,エチドロネート(disodium ethane-1-hydroxy-1,1-bisphosphonate)とアルファカルシドール(1α-OH-vitaminD3)の2剤を同時併用した場合の、卵巣摘出ラットの骨量ならびに骨強度に対する効果を検討することである。

【方法】14週齢のWistar系ラット70匹を、(1)偽手術群(Sham,n=10),(2)卵巣摘出コントロール群(OVX-vehicle,n=10),(3)卵巣摘出+エチドロネート単剤投与群(E,n=10),(4)卵巣摘出+アルファカルシドール0.1μg/kg単剤投与群(LD,n=10),(5)卵巣摘出+アルファカルシドール0.2μg/kg単剤投与群(HD,n=10),(6)卵巣摘出+エチドロネート+アルファカルシドール0.1μg/kg投与群(E+LD,n=10),(7)卵巣摘出+エチドロネート+アルファカルシドール0.2μg/kg投与群(E+HD,n=IO)の全7群に分けて検討した。卵巣摘出1週間後よりそれぞれの薬剤の投与を開始した。エチドロネートは注射用蒸留水に溶解し4mg/kg/日を「2週間皮下注射、10週間休薬」の周期的間歇投与のプロトコールに準じて24週間投与した。アルファカルシドールは少量のエタノールに溶解後、中鎖脂肪酸トリグリセリドで希釈し,0.1または0.2μg/kg/日を毎日、24週間経口投与した。無治療群には同様の方法でそれぞれの溶媒のみの投与を行った。実験終了後ラットを屠殺し、血清カルシウム,リン,オステオカルシンの値を測定した。骨標本として,大腿骨・脛骨・第4および5腰椎を摘出した。脛骨近位部,大腿骨中央部および腰椎の骨密度(BMD)を二重エネルギーX線吸収法(DEXA)にて測定した。また、大腿骨骨幹部に対して3点曲げ試験を、第4腰椎に対して圧迫強度試験をそれぞれ行った。BMDと破断強度の関連性を調べるために,破断強度(BL)をBMDで除した値(BL/BMD)の各群間での比較および薬剤投与群における破断強度に対するBMDの回帰分析を行った。さらに、大腿骨骨幹部中央部と遠位成長板から10mm近位部の水平断像、および第5腰椎中央の矢状断像をマイクロCTにて撮像しnode/strut解析を施行した。エチドロネート投与群で懸念される正常な石灰化障害の有無を検討するため,Villanueva Goldner染色による脛骨近位部の前額断での病理組織標本を作成した。

【結果】1) 血液生化学検査では,アルファカルシドールを投与した群(LD,HD,E+LD,E+HD群)でカルシウム,リン値が上昇していたが,エチドロネート投与では有意な変化はなかった。オステオカルシンは,HD群と併用投与群(E+LD,E+HD群)で上昇していた。2) 脛骨近位部および腰椎のBMDを測定したところ,OVX-vehicle群ではSham群より有意に低下していた。薬剤投与群では,単剤投与群(E,LD,HD群)のいずれもOVX-vehicle群より有意に高いBMD値を示し,さらに併用投与群のBMDは各単剤投与群よりも有意に高かった。この併用効果は,単剤投与の効果と同様,脛骨近位部および椎体だけでなく大腿骨中央部でもみられた。したがって,この併用投与は,海綿骨および皮質骨の両方に有効であることが判明した。3) 力学強度試験でも同様の結果が見られ、単剤投与よりも併用投与、特にE+HD群で、破断強度および剛性がともに増加していた。この効果は、大腿骨骨幹部3点曲げと腰椎圧迫試験において同程度に認められたため、併用投与は皮質骨および海綿骨に対して同程度に有効であることが示された。さらに、各検体のBL/BMDには各群間で有意な差はなく、これらの薬剤の効果は、個々の骨の質を変えることなく骨量を増加させた結果であるものと考えられた。また,薬剤投与により骨質に変化が生じていないことは,破断強度に対するBMDの回帰分析からも確認された。4) 組織像およびマイクロCT像では、併用投与群で脛骨、大腿骨とも骨幹端部に著明な海綿骨の増加があり、特にE+HD群では一部で骨髄腔が骨で充満している像がみられた。どの群でも石灰化障害は認められず、node/strut比は群間に有意差はなかった。

【考察】強力な骨吸収抑制剤であるビスフォスフォネートは骨代謝回転を低下させるため,併用療法に用いる場合に、かえって他の薬剤の効果を軽減させる可能性が指摘されてきた。しかし、本研究では作用機序の異なる活性型ビタミンD3、製剤との併用によって、単剤では不可能であった著明な骨量増加作用を実現できることが明らかとなった。この併用療法では石灰化障害もなく、個々の骨の質を変えることなく骨量を増加させることで力学的強度を著明に増加させることができた。また,血液生化学検査やBMD測定の結果から・併用投与の機序は,この2剤の作用がある程度独立していることによると推測できた。骨粗鬆症に対する,より効果的な治療法として、新規の薬剤の開発のみならず、このような既存の薬剤の併用療法の研究とそれに基づいた臨床応用が今後注目されるべきと考える。

【まとめ】1) 卵巣摘出による閉経後骨粗鬆症モデルラットに対して,エチドロネートの周期的間歇投与とアルファカルシドールの連日投与の同時併用を行ったところ,骨密度および骨強度における効果は,エチドロネートならびにアルファカルシドールの単剤投与よりも有意に大きかった。

2) 薬剤投与群において骨密度と骨強度には正の相関関係があり,骨強度の増加は主に骨密度の増加にともなうものであった。

3) 脛骨近位部の組織標本では、エチドロネート投与で懸念される石灰化障害の所見はなく,成長軟骨板を中心に著明な骨形成が確認できた。

4) 以上の結果から,エチドロネートの周期的間歇投与とアルファカルシドールの連日投与の同時併用は,閉経後骨粗鬆症に対する有効な方法であることが動物実験を用いた基礎研究により示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は,閉経後骨粗鬆症に対するエチドロネートとアルファカルシドールの同時併用効果を明らかにするため,卵巣摘出による骨粗鬆症モデルラットを用いた実験系にて,骨密度および骨強度の解析を試みたものであり,下記の結果を得ている。

1. 併用投与による骨密度の増加は,それぞれの薬剤の単独投与よりも有意であった。この効果は,海綿骨および皮質骨の両方で確認された。

2. 併用投与による破断強度の増加も,各薬剤単独投与より有意であり,この効果についても,海綿骨および皮質骨の両方で示された。

3. 薬剤投与群では,骨密度および骨強度には正の相関関係があり,骨強度の増加は主に骨密度の増加にともなうものであった。

4. 組織標本およびマイクロCT像で,エチドロネートによる石灰化障害の副作用はなく,上記1および2の結果を支持する著明な骨形成が確認された。

 以上本論文では,近年開発され強力な骨量維持もしくは増加効果をもつビスフォスフォネートと従来から使用頻度の高い活性型ビタミンD3を卵巣摘出ラットに併用投与し,その骨密度および骨強度を解析することによって,単剤投与よりも有意な効果が得られることが示された。実際の骨粗鬆症治療の現場では,単剤よりも複数の薬剤を投与することが多いが,これまで併用投与に関する実験動物を用いた基礎研究はほとんどなく,効果や副作用についての検討はされないまま,臨床応用が先行していたのが現状であった。本研究により,実験動物に対するエチドロネートとアルファカルシドールの同時併用効果が初めて明らかになり,今後の骨粗鬆症治療法の確立に重要な貢献をなすものと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる

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