学位論文要旨



No 214863
著者(漢字) 小方,博之
著者(英字)
著者(カナ) オガタ,ヒロユキ
標題(和) 事例教示による未整備環境におけるロボットの移動操作ルールの自動生成
標題(洋)
報告番号 214863
報告番号 乙14863
学位授与日 2000.12.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14863号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 新井,民夫
 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 助教授 高増,潔
 東京大学 助教授 佐々木,健
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は自動組立、多品種少量生産、サービス産業などの用途において、ロボットにあわせて整備されていないような環境で、移動操作作業を実行可能なロボットの実現手法について論じたものである。

 ロボットに作業を実行させるには、環境の状況をセンサによって知覚し、どのような操作を行なうべきか判断するためのルールが必要になる。そのようなルールの作成をめざして行なわれた研究は主に以下の3種類に分類できる。

 (1)プランニング方式:環境全体のモデルと探索アルゴリズムからその場の操作ルールを導くもの。

 (2)リアクティブ方式:設計者があらかじめルールを作成するもの。

 (3)行動学習方式:ロボットが自ら試行錯誤によってルールを獲得するもの。

 しかし、未整備環境にこれらの方式を適用するにはさまざまな問題がある。プランニング方式は、未整備環境では環境の変動に対する即応性に乏しく、環境情報を取得するコストも大きい。リアクティブ方式は、ルールを作成する設計者の負担が大きく、実際的な作業を達成するのに効率的なルールを作成するのが困難である。行動学習方式は、試行錯誤を行なうロボットの消耗の問題や、大規模な作業に適用するには実用的でないという問題を抱える。

 ところで、人間は未整備環境であっても容易に移動操作などの作業を実行できる。そこで、本論文では対象作業に関する知識を持った人間の作業を観察、分析し、同じ状況で同じ操作を行なうようなルールを何らかの方法で作成することで達成できると考え、その実現方法を移動操作作業を主対象として検討した。

 ロボットには、マニピュレータのように主に位置指令で動作するものと移動ロボットのように速度指令で動作するものが存在する。本論文ではこれを考慮して行動選択方式と状態遷移方式の2つのルール記述方式について実現方法を検討した。

 行動選択方式では、環境モデルに由来する幾何的拘束によりルールの条件部を記述し、事例教示によって収集したデータの中から、選択した行動の共通性に着目することで、移動操作に影響を与える有効な拘束を見出すことを考え、パターン認識手法を利用した。まず、シミュレーションを行い、図1に示すように対象作業に対して十分な回数の教示を行なえばパターン認識手法によって有効な作業実行ルールが生成可能なことを確認した。次に、パターン認識の主要な手法である最近傍法、ニューラル・ネットワーク、決定木の特徴を比較検討し、決定木の使用が最も相応しいことを見出した。その結果を基に、実環境において移動ロボットによる実験を行ない、事例教示に対して決定木を適用した場合の、有用なルールの抽出可能性を確認した。図2は生成したルールによって行動する移動ロボットの様子であり、図3はその時の決定木の一部である。

 状態遷移方式では、選択した遷移の共通性を見出すことが困難なため、可視多角形を用いて実行時に利用可能な遷移を見出すことを検討した。予備的に静的環境でシミュレーションを行ない、いくつかの事例教示に基づいて特定のゴールに移動する経路が様々なスタート地点から生成できることから、可視多角形の使用が有効なことを確認した。また、教示環境と作業環境の間で検出した特徴量が異なり、相違が存在すると判断される場合に、拘束の対応を利用して遷移を対応させる手法を提案した。さらに、仮想現実感教示インタフェースを用いて事例教示を実現した。図4は教示環境において仮想現実感教示インタフェースによって教示した作業動作の軌跡と、それから求められた相違する環境で同様の遷移を実現する軌道の一つである。それらの結果を基に、7自由度マニピュレータを用いたシミュレーションを行なった。その結果、図5に示すように、いくつかの事例教示に基づいて特定のゴールに移動する経路が未整備環境でも生成できることから、提案手法によって事例教示から移動操作作業を実現可能なことを確認した。

 このように、本研究では未整備環境において移動操作作業の実行可能なロボットを実現するために、人間の事例教示からルールを生成する方法を行動選択方式と状態遷移方式に対して検討し、実験によってそれぞれの方法の実現可能性を確認した。

図1 教示回数と作業達成率との関係

図2 生成したルールを用いて行動する移動ロボットの様子

図3 事例教示から生成した決定木の一例

図4 仮想現実感教示インタフェースを用いて教示した作業動作の軌跡(a)、および(a)に基づいて求められた異なる環境で同様の遷移を実現する軌道例(b)

図5 実例教示に基づいて異なる環境で同様の作業を実行する7自由度マニピュレータの動作の様子

審査要旨 要旨を表示する

 工学修士小方博之提出の本論文は「事例教示による未整備環境におけるロボットの移動操作ルールの自動生成」と題し、全6章よりなる。

 本論文は自動組立、多品種少量生産、サービス産業などの用途において、ロボットにあわせて整備されていないような環境で、移動操作作業を実行可能なロボットの実現手法について論じたものである。ロボットに作業を実行させるには、環境の状況をセンサによって知覚し、どのような操作を行なうか判断するためのルールが必要になる。そのようなルールの作成をめざして行なわれた研究は主に以下の3種類に分類できる。

 (1)プランニング方式:環境全体のモデルと探索アルゴリズムからその場で必要な操作ルールを導くもの

 (2) リアクティブ方式:設計者があらかじめルールを作成するもの

 (3)行動学習方式:ロボットがみずから試行錯誤によってルールを獲得するもの

しかし、未整備環境にこれらの方式を適用するにはさまざまな問題がある。プランニング方式は、環境変動に対する即応性に乏しく、環境情報の取得コストも大きい。リアクティブ方式は、ルールを作成する設計者の負担が大きく、実際的な作業の意図した達成は困難であり、かつ、効率的なルールを作成するのが困難である。行動学習方式は、試行錯誤を行なうロボットの消耗の問題や、大規模な作業に適用するには実用的でないという問題を抱える。

 ところで、人間は未整備環境であっても容易に移動操作などの作業を実行できる。そこで、本論文では対象作業に関する知識を持った人間の作業を観察、分析し、同じ状況で同じ操作を行なうようなルールを何らかの方法で作成することで達成できると考え、その実現方法を移動操作作業を主対象として検討した。

 本論文の内容は具体的には以下の通りである。

 第1章では、上述のような、本研究の背景と目的について述べた。

 第2章では、ロボットが作業を実行していく方式に関する研究としてプランニング方式、リアクティブ方式、行動学習方式を取り上げ、それらの現状と、未整備環境における移動操作作業に適用する場合の課題について解説した。また、本論文では人間の作業知識を実例教示を通じて観察し、同等のルールを作成することで、そのような課題の解決をめざすことを明らかにした。

 第3章では、本研究の対象とする移動操作作業の作業条件を明確にするために、移動操作作業の定義、未整備環境のモデル化を行なった。センサ情報から操作を決定する過程をルール選択の形に定式化し、ルールの条件部と実行部の表現を行なうことで作業を記述できると考えた。また、ロボットには、マニピュレータのように主に位置指令で動作するものと、移動ロボットのように速度指令で動作するものが存在する。本論文ではこれらにおける実現を考慮して行動選択方式と状態遷移方式の2つのルール記述方式について実現方法を対象として選択した。

 第4章ではそのうち行動選択方式についてルール作成方法を述べた。そこでは環境モデルに由来する幾何的拘束によりルールの条件部を記述し、事例教示によって収集したデータの中から、選択した行動の共通性に着目することで、移動操作に影響を与える有効な拘束を見出すことを考え、パターン認識手法を利用した。まず、シミュレーションを行い、対象作業に対して十分な回数の教示を行なえばパターン認識手法によって有効な作業実行ルールが生成可能なことを確認した。次に、パターン認識の主要な手法である最近傍法、ニューラル・ネットワーク、決定木の特徴を比較検討し、決定木の使用が最もふさわしいことを見出した。それに基づいて、実環境において移動ロボットを用いた実験を行い、成功をおさめた。その結果、行動選択方式で有用な作業ルールを生成するには、事例教示を行ない、得られたデータに対して決定木を用いるのがよいという結論を得た。

 第5章では状態遷移方式についてルール作成方法を述べた。そこでは、選択した遷移の共通性を見出すことが困難なため、パターン認識手法を用いることは難しい。そこで、可視多角形を用いて実行時に利用可能な遷移を見出すことを検討した。予備的に静的環境でシミュレーションを行った。いくつかの事例教示に基づいて特定のゴールに移動する経路が様々なスタート地点から生成できることから、可視多角形の使用が有効であることを確認した。また、教示環境と作業環境に間で検出した特徴量が異なり、相違が存在すると判断される場合に、拘束の対応を利用して類似の動作を生成する手法を提案した。さらに仮想現実感教示インタフェースを用いて事例教示を実現した。それらの結果をもとに、3次元空間において7自由度のマニピュレータを用いた作業実行のシミュレーションを行なった。その結果、いくつかの事例教示に基づいて特定のゴールに移動する経路が未整備環境でも生成できることから、提案手法によって事例教示から移動操作作業を実現可能なことを確かめた。

 第6章は、結論として、本研究で実現したことを述べている。以上を要するに、本論文は未整備環境において移動操作作業の実行可能なロボットを実現するために、人間の事例教示からルールを生成する方法を行動選択方式と状態遷移方式に対して確立し、実験によってそれぞれの方法が実現可能であることを示したものである。この研究は、ロボット工学における新しい手法を提示することで、精密機械工学のみならず工学全体の発展に寄与するところが大である。

 よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/42834